九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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労作時の低酸素血症が高度なCOPD 患者に対し身体活動量の改善が得られた1 症例
*田中 秀典
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キーワード: COPD, 身体活動量, 呼吸不全
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p. 58

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抄録

【はじめに】

COPD の急性増悪、転倒による右肩腱板断裂、圧迫骨折を罹患した症例を担当した。本症例は呼吸状態の悪化や疼痛により労作時の低酸素血症が高度であり、終日臥床状態であった。先行研究ではCOPD 患者の日常生活活動は死亡原因の最大の予測因子であると考えられ低活動群は高活動群に比較して、5 年生存率が約55%低いと報告している。そこで、身体活動量低下予防を目的に呼吸リハを約2 カ月間介入し早期に身体活動量の改善が得られた症例を経験した為報告する。

【症例紹介】

80 歳代男性、BMI:15.5、喫煙歴は30 本× 70 年弱。入院前は在宅酸素療法中(O ₂常時3 ℓ /min)で日中は椅子座位かベッド上での生活が中心。入院前の歩行距離は20 m / 日程度、起立回数10 回/ 日程度。呼吸機能検査は、VC2.35L、FVC 2.03L、FEV1 0.80L、 FEV1/FVC 39.4%、%VC 73.43% と混合性換気障害を認めた。X 年Y 日、自宅で転倒し右肩腱板断裂、圧迫骨折、COPD の急性増悪の診断にて当院入院。Y + 4 日よりリハビリ開始。

【初期評価】

評価日:Y + 4 日安静時SpO ₂ :95%(O ₂ 4 ℓ)、労作時80%台前半(O ₂ 4 ℓ)、修正MRCscale:Grade 4、6 分間歩行試験(以下:6MWT):実施困難、ドロップアームサイン陽性、NRADL4/100 点端座位で歯磨きなどの軽労作でもSpO ₂は80%台が長く続き息切れも顕著であった。起立や歩行は困難であり身体活動量はほとんどなかった。

【経過】

リハビリプログラムは呼吸介助、呼吸筋ストレッチ、呼吸指導、離床、ADL 訓練、起立、歩行訓練を実施した。初期評価時では呼吸苦や動作時痛で離床困難な状態であった。安楽姿位となるように環境調整し座位時間の延長や呼吸介助を実施した。その後、起立訓練、歩行訓練、ADL 訓練を動作時痛が極力出現しないように訓練した。動作後はpulse oximeter を装着し修正BorgScal と照らしながら運動負荷量の調整や患者教育を行った。

【最終評価】

評価日:Y + 45 日安静時SpO ₂ :98%(O ₂ 3 ℓ)、労作時90%台前後(O ₂ 3 ℓ)、修正MRCscale:Grade 3、 6MWT:60 m、ドロップアームサイン陽性、NRADL19/100 点。初期評価時より離床時間は4 時間以上、起立回数は30 回/ 日以上、歩行距離は180 m / 日程度可能であり身体活動量の改善を認めた。

【考察】

本症例に対し早期に呼吸リハを施行しNRADL や身体活動量の改善を認めた。NRADL 改善の要因としては早期離床やADL における動作方法、動作速度、休息の提案によりADL が向上したと考えられる。ADL 指導では、連続的動作から断続的動作を行い、pulse oximeter や修正BorgScale と照らしながら患者教育を行ったADL 指導は有効であったと考える。身体活動量の改善の要因としては介入初期から動作時痛や息切れが極力出現しないように早期から離床や起立訓練を実施した事で、動作時痛や息切れに対する不安が軽減し、症例が運動に対する意欲的な発言や行動変容がみられた事が改善要因の一つと考える。運動強度について、介入初期は修正BorgScale 2~ 3 程度から徐々に修正BorgScale の4 ~ 5 程度に設定した。動作後はコルセット装着による胸郭可動域制限で呼吸苦の訴えある為、運動強度は低強度で行うが、運動時間や運動機会を増加し運動量を多く確保した事も早期の身体活動量改善の要因と考える。川越らはCOPD 患者の生存転帰の直接予後に関連する身体活動量の基準値の一つとして起立回数30/ 日未満が有意に関連している可能性があると報告している。今回、労作時の低酸素血症が高度であった症例に対しリスク管理を行いながら早期より積極的な運動療法を行った結果、起立回数は30 回/ 日以上、歩行距離は180 m / 日程度と身体活動量の改善が得られた。

【倫理的配慮,説明と同意】

本症例はヘルシンキ宣言に則り、今回の報告にあたり患者様に書面で承諾を得た。

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