九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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  • 松山 卓矢
    p. 1
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    延髄内側梗塞の発生率は虚血性脳血管障害の約0.5 ~ 1.5%と極めて低い。そのうえ両側性となると発生率がさらに低く、誤嚥性肺炎の悪化や中枢性呼吸不全が進行し予後不良な経過を辿るといわれている。そこで今回、入院早期から理学療法を開始し、作業療法士( 以下:OT)、言語聴覚士( 以下:ST)、看護師や介護福祉士といった多職種と協働し、呼吸器合併症の増悪を予防する取り組みを行い、良好な転帰を得たのでここに報告する。

    【症例紹介】

    入院2 日前より気分不良あり、翌朝に嘔吐。午後に体熱感を認め救急外来へ受診。CT 上軽度の肺炎所見あり、抗生剤投与し帰宅。その翌朝より言語障害と体動困難あり、再度救急外来受診。MRI 上両側延髄内側梗塞の診断ありHCUへ入院。入院同日より理学療法を開始した。年齢:70 歳代、BMI:26.0。既往歴: 高血圧、2 型糖尿病、脳梗塞( 右小脳半球、左橋腹側、左視床、左基底核)。入院前ADL: 自立レベル。

    【経過】

    1 病日目。Japan Coma Scale: I -1。National Institutes of Health StrokeScale:18/42 点。Brunnstrom stage( 以下Br.stage)( 右/ 左) はIII / III - IV / IV -II / II。表在・深部感覚は構音障害や患者の協力が得られない事もあり精査困難だが脱失はなし。ST 評価より嚥下反射惹起不全を認め、唾液にてムセあり。特に仰臥位では唾液誤嚥のリスクが高かった為、側臥位でのポジショニングをST、看護師と統一し実施。側臥位でも口腔内には唾液が貯留する為、看護師は2 時間毎の体位変換と吸引を施行。構音障害があるが、患者が自ら発声し看護師に吸引を希望することもあった。発声以外のコミュニケーションツールの獲得を目的に作業療法開始。3 病日目より離床開始するが、中等度の運動麻痺と深部感覚障害を認め、車椅子への移乗は全介助レベル。食事は経管栄養療法が開始となった。10 病日目より一般病棟へ転棟。介護福祉士や看護師と適切な体位やリスク管理の統一化を目的にポジショニング表を作成し情報共有を行った。運動機能は徐々に向上し、Br.stage はIII / III - V / IV - IV / II。18病日目にはナースコールを使用し発声以外での訴えが可能となった。痰や流涎の量は減少し、嚥下造影検査を施行。翌日より昼食のみ開始( 嚥下調整食2-1)となった。昼食以外は経管栄養継続であり、OT、看護師と協力し車椅子座位で経管栄養を行えるよう調整した。28 病日目、Br.stage はIII / III - V / IV - IV/ IIIと僅かに改善。感覚障害は表在・深部ともに改善はみられず、中等度の感覚障害が残存した。Barthel Index は0 点と入院時と変化はなかった。29 病日目に回復期病院への転院となった。

    【考察】

    先行研究より延髄内側梗塞による死亡率は23.8%であり、予後に影響する因子として舌下神経麻痺、嚥下障害や両側性病変、高齢、入院時の重度の運動障害が挙げられるとの報告あり。なかでも誤嚥性肺炎が最多であるとの報告もあり生命予後不良の疾患である。今回、発症早期からリハビリテーションスタッフが身体機能や種々のリスクを把握し、関係職種への情報共有、介入方法の提案などを積極的に行い、共有することで誤嚥性肺炎を予防することができたと考える。また、自施設のみでなく、転院先の回復期病棟やその後生活される場所・施設等に対し各々の時期で評価を専門的に行い、情報提供・共有を行うことでハイリスク症例でも呼吸器合併症予防を行え、生命予後改善に寄与することができると考える。患者に関わる職種と情報共有することの重要性を再認識することができた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本症例報告は当院倫理委員会にて承認されており、利益相反はありません。

  • 移乗介助の補助具を作製しての退院支援
    麻生 裕介
    p. 2
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    日常生活動作の介助のなかでも移乗動作の介助は、介助者の身体負担も大きく、転倒の危険性も生じる。被介助者の膝を固定し、膝を支点としたてこの原理を利用すれば、少ない介助量での移乗介助が可能であるが、安全な実践には技術の習得が必要である。今回、重度片麻痺患者の在宅への退院支援の中で、被介助者の膝を固定しやすくする移乗介助の補助具を考案・使用し、妻の介助での在宅生活が可能となった経験を報告する。

    【症例提示】

    70 歳代男性。左中大脳動脈領域の脳梗塞。発症後27 日で当院回復期リハビリテーション病棟に入棟となる。主症状は右片麻痺、意識障害、失語症。入棟時JCS II -10、Brunnstrom stage I - I - II、混合性失語にて会話での意思疎通は困難。FIM は22 点、身長168cm、体重50.5kg。社会的背景は持ち家の一戸建て住宅で妻との二人暮らし。

    【経過】

    回復期リハビリテーション病棟での入棟期間は131 日間。入棟中に要介護4の介護認定あり。退院時FIM は22 点であり、入棟時と変化なかったが、端座位保持は可能となり、覚醒のムラはあるが、覚醒状態の良い時は掴まり立ちが、腋下を支える程度の介助で可能となった。退院に対しての妻の希望は「自宅でできる限り看たい。」であり、さらに「立って車椅子へ移乗し、日中はベッドから離れて過ごさせたい。」という意向があった。そこで、退院に向けては、妻の介助で移乗動作が行える方法を検討することとした。福祉用具の使用や、介助方法の検討を行ったが、その中で介助者が装着することで被介助者の膝をロックした移乗介助が容易に行える補助具を考案し、妻に介助指導を実施することで、安全な移乗介助を実現する方法を選択した。結果、自宅退院の運びとなり、妻の要望通りの離床時間を確保しながらの在宅生活が可能となった。

    【作成・使用方法】

    (1)幅1m、高さ12cm 程度のキルト生地の両端を縫い合わせタスキ状にする。(2)中央部分を縦に縫い付け、8 の字状にする。(3)双方の輪の部分に長さ12cm程度の平ゴムを伸ばしながら縫い付け伸縮性をつける。(4)両端上部に、長さ60cm の太めの紐をループ状にそれぞれ縫い付ける。使用方法は、(5)介助者は椅子に座り、両端の紐を保持し補助具に両足を通し装着する。そして、補助具の上端が介助者の膝蓋骨上部を覆う高さに合わせる。(7)端座位にて被介助者の両膝を補助具を装着した膝で挟むようにし、(8)被介助者の両腋下を引き寄せ、臀部離床・回転させることで移乗介助を行う。

    【考察】

    既に移乗介助を容易かつ安全にするための福祉用具は多くあるが、今回考案した補助具は、介助者本人に装着することで手間を少なくすることができ、また、膝を支点としたてこの原理を容易に利用できることで、少ない力での介助が可能となる。作製にあたり、両膝に装着することによる介助者の安定性の問題が予想されたが、平ゴムを縫い付け伸縮性を付けることで解消された。また、本症例は介助者である妻より身長が高く、痩せ形であった為、膝のロックを利用しての移乗介助方法に適している体型だったと考えることも出来る。

    【おわりに】

    今回は重度片麻痺患者の妻のdemand を主に考え補助具を考案したが、移乗動作に介助が必要な患者の状態は様々であり、また、移乗介助に関しての福祉用具も様々な種類があり、ニーズに応じたフィッティングが必要である。今回考案した移乗補助具も様々な条件に対応する為の選択肢のひとつになり得ると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    発表にあたり、症例のプライバシー保護に配慮し、ご家族には主旨を説明し同意を得た。

  • 健常者のピボットターンと比較・検討
    山本 耕輔
    p. 3
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに・目的】

    歩行の獲得が困難な脳卒中患者では,生活範囲の拡大や介助量軽減のため車椅子からベッドへの移乗動作の獲得が重要となる.重度片麻痺患者では「ピボットターン」( 以下pivot) を用いて方向転換する患者も少なくない.今回,左被殻出血を呈した慢性期の重度片麻痺患者1 症例に対し,健常者の三次元動作解析装置での結果を参考に治療アプローチを実施し,立位方向転換の介助量軽減が図れたためここに報告する.

    【症例紹介】

    症例は50 代男性,CT 画像では左被殻に低吸収域がみられた.Brunnstrom stage II‐II‐II,表在・深部感覚重度鈍麻,FunctionalIndependence Measure(以下FIM)移乗項目1 点,重度失語症や高次脳機能障害(注意・記憶・遂行機能障害),観念運動失行の影響があった.Fugl-Meyer assessment は73 点( 上肢6 点/ 下肢6点) と麻痺側上下肢の随意性やバランス機能の低下が生じていた.Modified Ashworth Scale はハムストリングス・内転筋・下腿三頭筋2,Functional Assessment for Control of Trunk(以下FACT)0 点と体幹機能低下,非麻痺側下肢MMT2 と廃用性の筋力低下を認めた.

    【経過】

    入院時より移乗動作全介助,立位方向転換は体幹前傾位,両股関節屈曲,麻痺側膝関節屈曲し膝折れが生じ2 人介助を要した.発症225 病日より理学療法を開始,臥床した状態で筋出力や可動域の向上,長下肢装具を併用した立位保持,輪投げを使用した体幹機能訓練を中心に介入.2 ヵ月後より座位保持が見守りにて安定し,平行棒内での立位保持や立ち上がり訓練へ移行.4 ヵ月後よりpivot に必要な非麻痺側足関節底屈の求心性・遠心性収縮にて足関節のMP 支持を促した.体幹機能訓練も継続して実施し,FACT4 点と改善がみられた.12 ヵ月後にFIM 移乗項目3 点,移乗動作の立ち上がり・着座動作に介助を要するが,立位方向転換は見守りにて可能となった.

    【考察】

    健常者のpivot では,爪先接地から足関節底屈筋の遠心性収縮により踵接地しないようにブレーキをかけることで,足趾のMP 関節での支持を持続的に可能とし,MP 関節を支持面とした回転運動を行っている.回転途中は股関節伸展の求心性収縮にて身体を持ち上げ,回転終了直前では足関節底屈の求心性収縮へ切り替わり最後身体を持ち上げている.また,pivot では狭い支持基底面の中で回転するため体幹を垂直化する方がMoment を少なくでき,体幹伸展角度を大きくすることで効率的な回転が可能であると考えた.体幹機能による抗重力伸展位での立位保持の獲得,非麻痺側股関節伸展筋の求心性収縮,足関節底屈筋の求心性・遠心性収縮に対して訓練を行った結果,立位方向転換介助量の軽減が図れた.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言の規定に沿って研究の主旨及び目的を本人・ご家族に対し十分に説明し,書面にて同意を得た.

  • 回復期脳卒中患者一例でのクロスオーバーデザインによる検討
    木寺 孝文, 阿部 幸介, 川平 和美
    p. 4
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    回復期リハビリテーション病棟の理学療法士にとって、脳卒中患者の歩行能力の向上は重要な課題である。片麻痺者の歩行障害に対するアプローチの課題として、運動麻痺改善の治療不足、歩行訓練時の麻痺側荷重、非麻痺側強化の不足などが挙げられる。促通反復療法に関する報告として、下肢の運動麻痺や歩行能力を改善する(Kawahira, et al 2004) や持続的電気刺激との併用で効果を増大する(Shimodozono, et al 2014) などがあり、多電極電気刺激併用の訓練が電気刺激無しの訓練と比べて運動麻痺や歩行能力の向上に繋がる可能性がある。

    【目的】

    回復期脳卒中患者1 症例に対し、(A) 電気刺激無しの促通反復療法と歩行訓練と(B) 多電極電気刺激下の促通反復療法と歩行訓練を行い、歩行能力に与える影響を比較検証する。

    【方法】

    症例は70 歳代女性、発症20 日目の右橋ラクナ梗塞による左片麻痺である。介入開始時の理学療法評価として、12 段階片麻痺回復グレードは下肢、上肢、手指いずれも12、徒手筋力検査(MMT)は麻痺側股関節3、膝関節3 ~ 4、足関節5 レベルであり、健側下肢は4 ~ 5 レベルであった。歩行はT 字杖で近位監視レベルで、健側立脚期に健側へのフラツキを認めていた。研究デザインはクロスオーバーデザイン(A1 → B1 → A2 → B2)とし、各期をそれぞれ1 週間設けた計4 週間とした。A 期は電気刺激無しの促通反復療法と歩行訓練を実施、B 期は多電極電気刺激を促通反復療法と歩行訓練に併用した。電気刺激部位は、促通反復療法時が麻痺側の(1)中殿筋、(2)前脛骨筋・長趾伸筋、歩行訓練時には上記部位に(3)健側の脊柱起立筋を加えた計3 ヵ所とした。使用機器はITO-320、刺激パラメータはコンスタントモード、周波数50Hz、パルス幅200 μ sec、電流強度は筋収縮が若干感じられる程度(13-16mA)とした。評価は10m 最大歩行速度・歩数で、即時効果の影響を除くため理学療法開始前に実施し、2 回計測して最大値を採用した。解析方法は中央分割法によるceleration line を用いた比較、加えてA1+A2 とB1+B2 の比較をWilcoxon 符号付順位和検定( 有意水準:5%) を用いて検証を行った。

    【結果】

    最大歩行速度の改善率はceleration line でA1 < B1、A2 < B2 であり、統計解析においてもA1+A2 < B1+B2(p < 0.01) と電気刺激を併用したB 期で歩行速度が有意に高い結果であった。歩数の改善率はceleration line でA1 < B1、A2 = B2 であり、統計解析ではA1+A2 > B1+B2(p < 0.05) とB 期で10m 歩行に要した歩数が有意に少ない結果となった。

    【考察】

    多電極電気刺激を併用した訓練が多電極電気刺激無しの訓練より最大歩行速度と歩数とも改善が大きかった。促通反復療法と歩行訓練に多電極電気刺激を併用し、歩行に関連した神経の興奮水準を高めることで、麻痺側下肢の運動パターン獲得と健側立脚期の体幹の安定性向上に関与した可能性があると考える。一般的に発症後早期ほど治療効果は大きいと考えられるが、今回得られた結果はB 期の治療結果が大きいというものであった。これはB 期の介入が効果的であったことを意味しており、多電極電気刺激を併用した訓練が多電極電気刺激を併用していない訓練より効果的であると考える。

    【まとめ】

    回復期脳卒中患者の理学療法において、促通反復療法と歩行訓練に多電極電気刺激を併用することで、歩行能力の向上を促進する可能性ある。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    倫理的配慮としてヘルシンキ宣言を遵守し、対象者には研究の目的や内容について説明を行い、紙面にて同意を得た。

  • 戸上 潤哉
    p. 5
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    Wallenberg 症候群の症状として眼振やめまいが出現する。両者は前庭神経の損傷で出現することが(城倉2011)報告されており、前庭機能に対する治療が有効な可能性がある。前庭機能に対してはCawthorne らが1940 年代から運動療法の必要性を述べて以降、末梢性前庭疾患を中心に運動療法の効果が報告されている。今回Wallenberg 症候群によりめまい・平衡機能障害を呈した症例に対して、約4 ヶ月間の運動療法を実施した結果を報告する。

    【方法】

    症例は左椎骨動脈解離によるWallenberg 症候群を発症した40 代男性で、他病院で入院・外来リハを実施した後、187 病日から当院外来リハを週1 回実施した。起居動作や屋外歩行、パソコン操作時など頭部・眼球の位置変化後にめまい、ふらつきを訴えられ、眼球運動障害として複視や左側注視時の回旋性眼振がみられた。めまい・平衡機能障害は前庭動眼・脊髄の機能不全と(内山1993)報告されており、前庭動眼・前庭脊髄に対しては絵カードを用いてGazeStability Exercise を眼球及び頚部のみの運動から開始した。その後眼球と頚部の複合した運動を行い、同時にバランスクッションを用いた運動療法を実施した。めまい・平衡機能の評価としてDizziness Handicap Inventory(以下DHI)及び重心動揺計(アニマ社製BW-6000)を用い30 秒開眼・閉眼立位と足踏み検査時の外周面積、単位面積軌跡長、総軌跡長を測定した。また眼振の評価としてNRS を用い眼振の速度を(10:1番速い)として聴取した。開始時の身体機能は左上下肢に失調、SARA5 点(歩行3点、立位・踵- 脛試験1 点)、躯幹協調機能stage I、SIAS66 点、右半身の表在感覚軽度鈍麻、右半身及び左顔面の温痛覚脱失、極軽度のホルネル症候群がみられた。

    【結果】

    DHI は72/100 点( 身体24 点・感情20 点・機能28 点) から38/100 点(身体14 点・感情12 点・機能12 点)へと改善した。外周面積(cm2)は開眼4.43 から4.01、閉眼4.65 から3.39、足踏み検査153.49 から109.32 となった。総軌跡長(cm) は開眼50.81 から50.64、閉眼65.86 から72.78、足踏み検査911.06 から843.06 となった。単位面積軌跡長(1/cm)は開眼11.48 から12.63、閉眼14.15 から21.5、足踏み検査5.94 から7.72 となった。また左側注視時の回旋性眼振はあるが、NRS7/10 から2/10 となり、SARA5 点から3 点(歩行・立位・踵- 脛試験1 点)と改善した。

    【考察】

    DHI、NRS の結果から本症例の主訴であるめまいや眼振においては改善を示した。動作時の平衡機能として測定した足踏み検査では、外周面積、総軌跡長の減少及び単位面積軌跡長の延長がみられ、平衡機能においても改善を示したと考えられる。またSARA においても改善を認めた。(kandel,2014)によると前庭動眼反射及び前庭脊髄反射ともに小脳の関与が報告されており、本症例においても小脳がめまい・平衡機能に関与した可能性も示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本報告は当院倫理委員会の承認を得た(承認日令和2年4月21日)ものであり、対象者には本報告の内容及び個人情報保護について説明し、文書にて同意を得た。また開示すべきCOI はない。

  • フレイルに着目して
    山口 晃樹, 平瀬 達哉, 飯野 朋彦, 徳永 誠次, 井口 茂
    p. 6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    健康寿命の延伸のため,高齢者の予防・健康づくりを推進することが重要とされ,各地域で一般介護予防事業が展開されている.この一般介護予防事業では,通いの場としての機能が重要とされる一方で,介護・フレイル対策を一体的に実施することが必要である.現在介護予防事業では,事業参加により一定の介護予防効果を認めることが明らかになっている.一方で,介護予防事業に参加した高齢者の運動機能や精神機能,生活機能,転倒リスクについて,フレイルを視点として検討した報告は少なく,その特徴や経時的な変化も明らかとなっていない.本研究では,一次予防事業に3 年間継続して参加した女性高齢者のフレイルの有症率や運動・精神・生活機能の特徴を明らかにすることとした.

    【方法】

    対象は,H18 年からH26 年の間に一次予防事業に3 年間継続して参加した65 歳以上の地域在住の女性高齢者338 名(平均年齢73.5 歳)とした.評価項目は転倒アセスメント,Geriatric Depression Scale( GDS),基本チェックリスト(KCL),運動機能(握力,片脚立位時間,椅子起立時間,Time up andGo)とし,各評価項目を年度の初回事業日に評価した.なおフレイルの判定にはKCL を使用し,初年度と3 年目の合計得点により,全対象者をRobust- Robust 群(RR 群)・Robust -Frail 群(RF 群)・Frail- Robust 群(FR 群)・Frail-Frail 群(FF 群)の4 群に分類した.分析は,各群の群内比較として事業参加初年度と3 年目の各評価項目をWilcoxon の符号付き順位検定を用いて有意差の検定を実施し,またRF 群とFR 群では,年度ごとの評価項目の変化について反復測定分散分析を実施した.

    【結果】

    初年度のフレイルの有症率は12%であり,3 年目は11%であった.4 群の内訳は,RR 群は272 名,RF 群は23 名,FR 群は26 名,FF 群は16 名であった.初年度と3 年目の群内比較の結果,RR 群では,転倒アセスメント・GDS・右握力・椅子起立時間・TUG において初年度と比較し3 年目は有意に低値を示し,片脚立位時間は有意に高値を示した. FR群ではRR群と同様の傾向を示したが,握力には有意差を認めなかった. KCL の下位項目では,RF 群は運動項目,認知機能,精神機能において初年度と比較し3 年目は有意に高値を示し,FR 群では運動項目,口腔機能,閉じこもり,認知機能,精神機能において3 年目には有意に低値を示した.FF 群では,運動機能のみ3 年目に有意に高値を示した.RF 群,FR 群の反復測定分散分析の結果では,RF 群は,KCL の初年度と3 年目,2 年目と3 年目の間に有意差を認め,下位項目の運動項目,認知機能,精神機能では初年度と3 年目の間に有意差を認めた.FR 群では,転倒アセスメント,KCL,椅子起立時間,TUG,KCL の下位項目の運動項目,口腔機能,閉じこもり,認知機能,精神機能おいて初年度と比較し2 年目,3 年目には有意差を認めた.GDS においては初年度と3 年目、片脚立位時間では初年度と2年目の間で有意差を認めた.

    【結論】

    一次予防事業に継続して参加した高齢者では,フレイルの有無にかかわらず,運動機能や精神機能は維持されることが示唆され,さらにRobust やFrailの維持・改善には運動機能の改善が重要であると考えられた.またFrail からRobust へ改善する高齢者は,初年度からの1 年間の間に運動機能や転倒アセスメント,KCL は改善傾向となり,3 年目にも維持されることが示唆された.その結果,介護予防事業参加の高齢者には初年度の効果判定が重要で,その結果により,各対象者に沿った介護予防事業プログラムを検討していく必要性が示唆された.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に沿って実施し,所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した.

  • 通所介護施設における活動報告
    吉岡 元, 山下 諒太, 柳武 隆博
    p. 7
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    生活機能向上連携加算とは、自立支援・重度化防止に資する介護を推進するため、通所介護等の事業所の職員と外部のリハビリテーション専門職が連携して、機能訓練のマネジメントをすることを評価する加算である。加算の算定によるメリットが多く確認されている一方で算定率は低く、平成30 年度介護報酬改定にて算定要件が緩和・拡大された令和元年度においても全事業所・施設ベースで3.1%、通所介護では3.4%といずれも算定率が低い状況である。本加算に関する報告も、アンケートによる事業所や利用者、ケアマネジャーの意見に関する報告や、介入による利用者の変化の報告は散在するが、実際どのような介入を行っているかを示したものは少ない。当法人では平成30 年6 月より通所介護をはじめとする法人内の事業所にて、生活機能向上連携加算を算定しており現在3 名のセラピストが加算に関与している。そこで本加算に従事するセラピストの活動内容を報告することで、本加算の認知度を向上させ、理学療法士の活躍の場の増加につなげたい。

    【方法】

    2020 年4 月から同年6 月、法人内の通常規模型通所介護2 施設、特定施設入居生活介護2 施設の訪問を行った。そのうち、通所介護事業所2 施設において、利用者の評価を行い、事業所での介入の変更などについて助言を行った際に、その内容を記録し、内容が類似するものをグループ分けした。なお同様の内容が5 件以上あったものを抽出することで助言の内容の整理・把握を行った。

    【結果】

    期間中434 名利用者に対し評価・助言を行った。助言内容をグループ分けした結果、事業所で行う機能訓練についてが77 件、自主訓練指導が29 件、歩行補助具についてが20 件、事業所内移動の注意点が18 件、歩行介助方法についてが8 件、送迎についてが5 件、その他分類できなかったものが27 件であり、機能訓練やリハビリ内容に関する助言が多かった一方で、利用者や職員から個別に相談を受けた件数も多かった。

    【考察】

    平成30 年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和元年度調査)では、通所介護で生活機能向上連携加算を算定することにより、事業所・施設側のメリットとして「機能訓練指導員のケアの質が向上した」、「利用者の状態や希望に応じたケアの機会が増えた」が挙げられ、利用者のメリットとして「リハ専門職等が携わるため利用者・家族が安心した」、「利用者の身体機能の維持・向上につながった」、またケアマネジャーの意見としてこれらに加え、「ADL やIADL の維持向上に関する計画の内容が改善した」、「連携によるケアプラン内容の見直しへの好影響があった」とされる。本加算における理学療法士の役割として、利用者に対し「個別的なリハ」という関りのみでなく、「リハビリテーションマネジメント」としての関りが求められる。今回の報告のように利用者の評価・助言を行い、事業所での機能訓練のマネジメントを行った結果、事業所の職員・利用者・ケアマネジャーにとってよい効果があったと考えられる。

    【まとめ】

    通所介護事業所における生活機能向上連携加算の活動実態について調査を行った。外部のリハビリテーション専門職による機能訓練のマネジメントとして通所介護事業所にて機能訓練や歩行介助方法、歩行補助具などについて助言を行うことで、事業所の職員・利用者・ケアマネジャーに利益があり、理学療法士の役割の重要性が確認できた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本調査を行い集計するにあたり、ヘルシンキ宣言・人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に従い、個人名の匿名化を行い記録することで個人が特定できないようにした。

  • 石田 猛流, 楠原 剛, 桒原 眞樹, 原田 卓
    p. 8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)は、在宅生活において日常生活の自立と社会参加を目的として提供されるサービスである。しかし、身体障害に問題を抱えている訪問リハ利用者は生活空間が狭小化しやすく、うつ状態などの精神機能低下を招く恐れもある。当事業所の中でも生活空間が狭小化している利用者がおり、訪問リハ開始時と比較しADL が向上している者もいれば、低下している者もいた。今回はその利用者間でどのような違いがあるのか明らかにすることを目的とした。

    【対象者】

    利用者A(以下、A):80 代男性。要介護2 第1 腰椎圧迫骨折で当院に入院し自宅退院後、訪問リハ40 分× 2 回/ 週実施 室内は独歩自立レベル利用者B(以下、B):90 代男性。要介護1 心原性脳塞栓症で当院に入院し自宅退院後、訪問リハ60 分× 2 回/ 週実施 室内はシルバーカー自立レベル

    【方法】

    後方視的に、日常生活活動としてFunctional Independence Measure(以下、FIM)の運動項目、生活空間としてLife space Assessment(以下、LSA)の訪問リハ開始時と6か月後の合計得点を比較した。また、生活状況として1 日の行動記録と家事の有無、臥床時間の把握として6つの質問をご家族または本人から聴取した。

    【結果】

    A は、FIM56 → 40 点、LSA19 → 13 点とFIM の低下、生活空間が狭小化している。1 日の行動記録として、24 時間のうち21 時間はベッドまたはリビングのソファに臥床している。食事はリビングで自己摂取しているが、更衣・入浴は妻が全介助で実施している。したがって自分で行動することが極端に少ないことが分かった。B は、FIM69 → 73 点、LSA20 → 8 点とFIM は向上しているが生活空間の狭小化がみられた。1 日の行動記録として就寝時間は12 時間、食事・整容・更衣は自立、入浴は訪問介護を利用し見守りで実施出来ている。家事などは妻と2 人で協力していることが分かった。

    【考察】

    今回の研究にて、A とB では生活空間に差はなかったが、日常生活動作において差がみられたことが明らかとなった。LSA に関してA・B 共に低下しているが、FIM に関してA は低下しB は向上している。A は家事やセルフケアを全て妻に〈任せている〉。そのため、A の自発性の低下に繋がり、さらに意欲の低下に繋がっていると考える。一方、Bは自ら進んで家事やセルフケアを〈しなくてはいけない〉と考えている。そのことから、B 自身の意欲・自発性の向上に繋がっていると考える。A の意欲・自発性低下の原因は過介助、環境面にあると考える。過介助に対しては、一度できるADL がどの程度かを本人・妻に理解してもらうことが重要である。リハビリ時間は限られているため、妻にも協力してもらいリハビリ時間以外でも本人にセルフケアを行うようにする必要があると考える。環境面に対しては、妻や本人に活動することの重要性を説明し、訪問リハ以外のサービスを積極的に取り入れる必要があると考える。また、本人が活動しやすいように自宅内に手すりを設置する等、福祉用具を利用する必要があるとも考える。環境面の整備により活動量が増加し、しているADL が向上すると、自然と過介助の減少にも繋がるのではないかと考える。

    【まとめ】

    しているADL が増えることで本人の意欲・自発性が向上し、過介助の減少にも繋がる。また、通所サービス等を利用し外出頻度を増加させ他人との関わりを増やすことで、生活空間の拡大や精神機能向上も期待出来る。訪問リハスタッフが本人やご家族に対し日常生活をより良いものにするためにマネジメントを行うのも重要であると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき、個人が特定されないように十分に配慮し行った。

  • 田中 精一, 宮内 麻衣, 川上 剛, 中村 浩一郎
    p. 9
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    訪問リハビリ(以下、訪問リハ)での主訴として「歩きたい」という希望は多く聞かれるが、歩行補助具の選定については明確な基準がなく選定に難渋するケースを多く経験する。今回、訪問リハ開始時に「杖で歩きたい」という希望が聞かれた利用者に対し、歩行補助具の選定を行う中で、2 ステップ値を用いることでシルバーカー歩行の導入がスムーズとなった症例を経験したので報告する。

    【症例紹介】

    A氏、90 歳代、女性、要介護度5。2020 年10 月より薬剤性間質性肺炎後廃用症候群のため当院回復期リハビリテーション病棟に入院。既往歴は咳喘息、両膝変形性関節症(以下、膝OA)。2021 年1 月退院。退院時の歩行FIM5 点(歩行器)。退院後は施設入所され、16 日後から週3 回の訪問リハ開始となった。

    【初回評価】

    主訴は杖で歩きたい。ROM- T(右/ 左)股関節屈曲90/80 Pain +、膝関節伸展-10/-10。MMT 下肢4 レベル。疼痛は両膝OA による安静時痛・荷重時痛を認めた。2 ステップ値= 0(上肢支持なしでの立位保持困難)。杖歩行は軽介助レベルであり、主たる施設内移動手段は車椅子全介助レベル。活動範囲は昼食時のみ食堂へ移動し、食事、入浴(週2 回)以外は日常生活において自室外へ出る機会は少なかった。

    【介入経過】

    訪問リハでは膝OAによる疼痛や筋力低下に対して運動療法から開始し、疼痛軽減や立位バランス能力向上に合わせて段階的に運動負荷量を上げていく方針とした。訪問リハ開始6 週目に立位バランスの向上を認めたため、自室内四点杖歩行へ移行したが転倒リスクがあり監視レベルとした。9 週目に2 ステップテストを実施し、2 ステップ値を基に歩行補助具はシルバーカーが適していると本人に説明し合意が得られた。その後施設内シルバーカー歩行監視レベルへ移行し、2021 年3 月末で訪問リハ終了となった。訪問リハ利用期間中の転倒・転落などの有害事象はなかった。

    【最終評価】

    主訴は自宅に置いてある荷物を取りに行きたい。ROM- T(右/ 左)股関節屈曲90/90、膝伸展-10/-10。MMT 下肢4+ レベル。疼痛の訴えなし。2 ステップ値= 0.25。施設内移動手段はシルバーカー歩行監視レベルに改善した。活動範囲として食事は全て食堂で摂取、体操やレクリエーションにもシルバーカー歩行監視にて参加できるまで改善した。

    【考察】

    本症例は初回の理学療法評価において「杖で歩きたい」との希望が強く聞かれたが、杖歩行は軽介助レベルであり、2 ステップ値は0 であった。訪問リハ開始9 週後の2 ステップ値は0.25 であった。その時点でも杖歩行への希望は聞かれていたが、先行研究1)の結果では杖歩行自立レベルの2 ステップ値は0.56 であり、杖歩行での転倒リスクや年齢の影響などを考慮すると、現状ではシルバーカーでの歩行が最適ではないかと説明。「歩けるようになっただけでも十分」と利用者より理解を得られたため、施設内シルバーカー歩行監視レベルへ移行となった。今回利用者の歩行能力に適した歩行補助具を決定する過程において、PT の主観ではなく、客観的な指標である2 ステップ値を用いたことによって、利用者との合意形成がより得られやすくなったと感じた。また定期的に2 ステップテストを実施することで利用者の歩行能力把握が可能であり、目標に対してのリハビリプログラムの選択や予後予測にも役立つと思われる。参考文献1)石垣智也、尾川達也、他:在宅環境での歩行能力評価としての2ステップテスト:理学療法学.2021

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本症例に対して本報告について書面で説明を行い同意を得た。尚、本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:01720211)。

  • 豊住 寿明
    p. 10
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【目的】

    平戸市では、平成26 年度から介護予防推進事業である「住民主体による通いの場」(以下、通いの場)に取り組んでいる。その通いの場にリハビリテーション専門職(以下、リハ専門職)が支援をしている。これまでの支援内容を分析し、リハ専門職の役割について考察したので報告する。

    【結果・考察】

    通いの場は、従来の受け身型の介護予防教室ではなく、地域住民が主体となって、介護予防を取り組めるような通いの場で、現在( 令和3 年5 月13 日時点)、平戸市では81 カ所で開催されており、各地区週に1回以上活動を行っている。リハ専門職の派遣調整依頼は、まず平戸市地域包括支援センターより県北地域リハビリテーション広域支援センターへ派遣の依頼があり、広域支援センターが平戸市内の医療機関等に所属のリハ専門職と連絡調整を行い、その日に支援が可能なリハ専門職が派遣され、その地域の課題や要望に応じている。今回は平成30 年10 月から令和2 年2 月までに関わった通いの場16 カ所で行っていた支援内容をまとめた。支援は地域包括支援センターの職員と生活支援コーディネーターと共に行っている。依頼された要望としては運動指導が多く、準備運動、筋力運動、整理運動の基本的な運動の方法のアドバイスを行っていた。通いの場に来られる方には、脳梗塞後遺症の方や大腿骨頚部骨折術後の方、下肢切断の方が参加しており、その人の状態に応じた個別の運動指導や生活面での助言等も行っていた。手軽なホームエクササイズの紹介、転倒しないための環境設定についての資料配付と説明なども行っていた。支援をした通いの場では、体操に加えて笑いヨガ・呼吸法を取り入れたり、参加者同士での旅行を計画したりするなど地域ごとに工夫がされていた。

    【まとめ】

    通いの場におけるリハ専門職の関わりは、運動指導に加え、個々人の生活の評価・情報収集を行い、必要に応じては自宅訪問や福祉用具・環境調整などを包括支援センターの職員や生活支援コーディネーター等と協同で支援をしていた。今後も地域住民の要望や地域の課題への対応を続けていきたい。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究の計画立案に際し,事前に研究協力施設の倫理審査員会の承認を得た。 また研究の実施に際し,対象者に研究について十分な説明を行い,同意を得た。

  • フィードバック機能単独での介入が脳卒中軽度片麻痺患者の歩行パターンに及ぼす影響
    前田 結衣, 松浦 健太郎, 野中 裕樹, 藤井 廉, 田中 慎一郎
    p. 11
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【目的】

    Welwalk は,下肢運動をアシストするためのロボット脚を装着し,トレッドミル上での歩行訓練を行う歩行練習支援ロボットである.ロボット脚やトレッドミルに加えて,多彩なフィードバック機能を有す患者用モニター等から構成され,重度〜中等度の歩行障害(歩行FIM3 点以下)を呈す脳卒中片麻痺患者に対する歩行自立度の改善効果が示されている.Welwalk の構成要素の中でも,ロボット脚は重要な役割を果たすが,我々はフィードバック機能単独での活用方法を考案し,軽度の歩行障害(歩行FIM5 点以上)を呈す脳卒中片麻痺患者の歩行パターンの是正に役立てている.本研究の目的は,シングルケースデザインにて,我々の考案した訓練方法の介入効果を検証することである.

    【方法】

    症例は,脳梗塞による左片麻痺を呈した 80 歳代男性であった.理学所見について,SIAS 下肢運動機能は 4,4,4 で,歩行 FIM は6 点(杖歩行自立)であった.歩行は,左右非対称な歩行パターンを呈し,特に麻痺側下肢のステップ長に顕著な短縮を認め,非麻痺側と比較し麻痺側股関節伸展角度に顕著な低下を認めた.今回,シングルケースデザインによる BAB デザインを採用し,B期と B2 期は Welwalk による歩行訓練を,A 期は一般的な平地での歩行訓練を実施した.介入期間は各々3 日間,1 日 20 分とした.介入方法は,当初は前額面における歩容をモニターに表示し,画面上に映し出された足型と自身の振り出した足を一致させる課題を試みたが,症例にとっては難易度が高く,成功率が極めて低かった.そのため,より単純な課題として,サイドカメラを用い矢状面における歩容を前方モニターにリアルタイムに表示し,ステップ長が左右対称となるように麻痺側下肢の振り出しを意識してもらい視覚的なフィードバックを促した. 歩行解析には,三次元動作解析装置(KISSEICOMTEC 社製)を用いた.歩行パターンの指標として,ステップ長の左右非対称性(Steplength asymmetry ration; SLAR)を算出した.なお,介入前,B 期後,A 期後,B2 期後に計測を実施した.各期における SLAR の比較について,Friedman 検定を行った後,事後検定には Wilcoxon-signed rank test を用い,Bonferronimethod で補正した.

    【結果】

    介入前と比較して,B 期後,B2 期後に有意な非対称性の改善を認めた(P

    【倫理的配慮,説明と同意】

    ヘルシンキ宣言に基づき,対象には十分な説明を口頭で行い,同意を得た.

  • 運動課題・フィードバック方法に着目して
    堀 菜緒佳, 松浦 健太郎, 野中 裕樹, 藤井 廉, 田中 慎一郎
    p. 12
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    発症早期からの歩行練習支援ロボットWelwalk を用いた訓練は歩行能力の予後を改善することが報告されている.しかし,患者個々の特性に応じた課題難易度等の基準は明確となっていないがゆえ,臨床場面では具体的な訓練内容のデザインに苦慮する場面が多い.今回,Welwalk の代表的な機能である“ロボット脚によるアシスト” や“視覚と聴覚のフィードバック” の調整に加え,“運動課題” や“フィードバック方法” を患者の特性に応じて詳細に設定したことでWelwalk を有効に活用できた2 例の重度片麻痺患者を経験したため,報告する.

    【症例紹介】

    症例1 は,右脳分水嶺梗塞,右小脳梗塞,多発性散在性小梗塞による重度左片麻痺を呈した80 歳代の男性であった.理学所見について,MMSE は精査困難,SIAS 下肢運動機能は0. 0. 0 で,歩行FIM は1 点であった.見当識障害や全般性注意障害などの高次脳機能障害が顕著であり,訓練中において指示理解や注意の持続が困難であった.症例2 は,右放線冠梗塞による重度左片麻痺を呈した70 歳代の女性であった.理学所見について,MMSE は17 点,SIAS 下肢運動機能は2. 3. 2 で,歩行FIM は1 点であった.症例2 に関しては認知機能の低下の影響により訓練中の注意持続が困難であったものの,症例1 と比較してコミュニケーション能力は良好であった.

    【Welwalk を用いた訓練方法】

    症例1 について,運動課題は立位保持課題から開始した.注意散漫やコミュニケーション能力の低下が確認されたためフィードバック量は最小限に留めた.前方モニターに前額面での正中線のみ掲示し,身体を正中に保持するようセラピストが後方から介助した.自力で身体の正中位保持が可能となった段階で,歩行課題へと移行した.症例2について,症例1 と比較し身体機能は良好であったため歩行課題から開始した.口頭にて注意のコントロールが可能であったため,正中線に加えて足型の提示,前足部への荷重量に伴い音が鳴る聴覚的フィードバックを活用し,セラピストが後方より介助した.また,訓練後は訓練中の歩行動画を用いてフィードバックを行った.症例1,2 ともに2 〜3 ヶ月間の継続的な介入を実施した.

    【結果】

    症例1 では,SIAS 下肢運動機能は3. 3 .3 に改善,歩行FIM は1 点から3 点に改善し,歩行量は全介助での10m から中等度介助での50m に延長した.症例2 では,SIAS 下肢運動機能は4. 4 .4 に改善,歩行FIM は1 点から4 点へ改善し,歩行量は全介助での20m から最小介助での50m に延長した.

    【考察】

    Welwalk の有用性は先行研究で明らかにされているが,高次脳機能障害や認知症を合併した症例は研究対象から除外されることが多い.本症例報告によって,高次脳機能障害を有する重症度が高い患者であっても,一定の改善効果を得られることが示された.Welwalk の特徴として課題特異性,動機付け,練習量,難易度,フィードバックの5 つがあり,今回,症例1 では,注意障害の存在を考慮し,平易な運動課題から実施,症例2 では,認知機能の低下による影響を考慮しながら入力可能な範囲にて積極的なフィードバックを実施した.高次脳機能障害を有する患者にWelwalk を導入する際は,患者の状態に応じた適切な“運動課題” や“フィードバック方法” の詳細な設定が重要であると考えられた.

    【結論】

    Welwalk を用いた訓練を行う際は,身体機能に加え,高次脳機能障害やコミュニケーション機能に応じて適切な運動課題やフィードバック手段を設定することで,高次脳機能障害や認知機能の低下を有する患者であっても一定の改善効果が得られることが示された.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    ヘルシンキ宣言に基づき,症例には十分な説明を口頭で行い,同意を得た.

  • 寺口 拓真, 森 義貴, 眞倉 崚汰, 田中 康則, 濱崎 寛臣, 野口 大助, 三宮 克彦, 伊藤 康幸
    p. 13
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    トヨタ自動車( 株) 社製ウェルウォークWW-1000(WW) は,前方画面付きトレッドミル上で視覚フィードバック(visual feedback:VFB) や聴覚フィードバック機能,患者懸垂免荷装置,ロボットアシスト機能を用い,最適な難易度の練習ができる運動学習理論に基づいたリハビリテーション支援機器である.今回,半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN),注意障害を呈した左片麻痺患者に対しVFB を変更した後,変動する歩幅と体幹の前傾が減少した即時効果( 施行間比較) を得た経験を報告する.

    【症例紹介】

    症例は脳梗塞により左片麻痺を呈した70 代女性.発症から第51 病日時点でBrunnstrom Stage:I - I - II,感覚は重度鈍麻,垂直位での座位保持困難,FIM:44 点,高次脳機能障害としてUSN(Behavioural Inattention Test:通常検査26/146 点),注意障害(評価困難)を認めた.第41 病日,移乗の介助量の軽減を目的にWW を開始した.WW の頻度は6 回/ 週,20 分/ 日(5 分× 4 セット),歩行距離は100m/ 日程度実施した.WW 開始10 日目の設定は,速度0.40 ㎞ /h,膝伸展・振りだしアシスト最大値,矢状面のVFB としていた.

    【介入方法】

    WW10 日目の1 施行目の課題として,(1)麻痺側・非麻痺側ともに歩幅が変動し,(2)体幹の前傾が観察され,(3)前方画面を継続して注視できていなかった.BIT の評価から前方画面の左側の視覚情報を認知できず,進行方向が左向きの映像である矢状面のVFB が活用できていないと判断した.また注意障害により全身が映る前方画面は情報量が多いため注視できないと考えた.よって2施行目は前方画面の右側を利用することこと,視覚情報量を減らすことを目的として,VFB を矢状面から足元に変更した.加えて,変動する歩幅を一定させる目的として,非麻痺側下肢の目標接地位置を示す足形が足元のVFB 上に表示されるよう設定した.1 施行目と2 施行目の歩容の比較は,WW に録画された動画の10 歩行周期分の静止画を用いて左右の歩幅と体幹前傾角度を測定した.体幹前傾角度は耳垂と大転子を結んだ線と垂直軸のなす角度とした.これらの測定値から平均値と標準偏差を求め,変動係数を標準偏差/ 平均値で算出した.

    【結果】

    1 施行目( 矢状面のVFB) の各測定値の平均値及び変動係数は,非麻痺側歩幅(20.0 ㎝,0.56),麻痺側歩幅(39.8 ㎝,0.21),体幹前傾角度(9.3°,0.53) であった.2 施行目( 足元のVFB) は,非麻痺側歩幅(13.8 ㎝,0.31),麻痺側歩幅(45.6 ㎝,0.17),体幹前傾角度(5.7°,0.29) であった.2 施行目は,1 施行目に比べて3 つの項目全ての変動係数が減少した.

    【考察】

    USN では,情報量が多いと無視症状が悪化することが知られている.本症例において,VFB を矢状面から足元に変更したことで,認知できる右空間を利用したこと,全身から足元に視覚情報量を減らしたことと,非麻痺側下肢の目標接地位置を呈示したことで注意が向きやすくなったことが,歩幅・体幹前傾角度の変動の減少に繋がったと考える.運動プログラムを形成するためには,パフォーマンスにおけるエラーを減らして,恒常練習によって反復する必要があると言われている.このことから,VFB の変更後に歩幅や体幹前傾の変動を減らすことは,非麻痺側下肢と体幹の運動プログラムを形成することに繋がると考える.本症例に対して USN や注意障害を考慮し介入したことで,残存した機能を即時的に引き出すことができた.今後,VFB の変更により得られる効果と効果の得られやすい対象などは今後検討が必要である.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本症例,家族に報告の趣旨と個人情報の保護について説明し,同意を得た

  • 丸田 健介
    p. 14
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    近年、脳卒中片麻痺患者におけるトランクソリューション(以下TS)装具の有用性が示されている。今回、右被殻出血により左麻痺を呈した患者にTS を試行した。歩容改善に着目し良好な結果を得られたため考察を加え以下に報告する。

    【症例】

    70 代男性 身長171cm 体重71kg BMI24.6 診断名:右被殻出血 既往歴:労作性狭心症、マロリーワイス症候群現病歴:x日左上下肢麻痺・呂律困難・右共同偏視で救急搬送。右被殻出血を認め、保存的加療された。x +13 日にリハビリ継続目的に当院(回復期リハビリテーション病棟)へ入院された。

    【評価(入院時→退院時)】

    上田式12 段階片麻痺機能検査:上肢7 → /12 下肢8 → 11/ 手指6 → 12 MMT:非麻痺側4~5 → 5 FIM:52 点→ 123 点 アライメント:矢状面における骨盤後傾、胸椎後弯、頭部前方位(スウェイバック姿勢)→著変なし 10m 歩行:実施困難→ 14 歩、5.7 秒 6 分間歩行:実施困難→ 425m 休憩なし

    【問題点】

    左片麻痺、体幹筋力低下、スウェイバック姿勢

    【歩行の経過】

    x +15 日目:長下肢装具を使用した歩行訓練。後方から体幹の支えと振り出し最大介助が必要。x +28 日目:金属支柱付短下肢装具へカットダウンし平行棒内歩行訓練、杖歩行訓練並行して実施。麻痺側の膝折れは消失。麻痺側振り出しを軽度アシスト、麻痺側立脚期に骨盤帯の動揺の修正。x +39 日目:ゲートソリューションデザイン短下肢装具(以下GSD)を使用しての歩行訓練へ移行。スウェイバック姿勢により股関節伸展不十分。x +57 日目:TS+GSD を使用しての歩行訓練、独歩、装具なしでの歩行訓練を並行して実施。病棟移動自立に至ったがスウェイバック姿勢継続してみられる。TS 使用前はスウェイバック姿勢だが、TS 装着下での歩行訓練直後は改善。X+82 日目:屋外歩行訓練、応用歩行訓練開始。意識下では正中位での姿勢で歩行可能。X+137 日目:自宅退院。

    【考察】

    今回、発症3 ヶ月の脳卒中患者に対し、TS の使用を試みた。先行文献によると、麻痺による体幹機能低下に対して有用性を示すものがあった。本症例は麻痺の改善に伴い、監視レベルでの歩行を獲得したものの、スウェイバック姿勢であり股関節伸展が不十分な歩容が残存していた。そこで、TS の機能を利用し、骨盤前傾位での歩行訓練を繰り返し行い、正しいアライメントでの歩行学習を図った。TS は継ぎ手の発揮する力が上部支持体を通して体幹部を引き起こすような効力を与え、かつ腹筋の活動を高めることができる。これにより前かがみ姿勢の矯正、腹筋活動の維持などに効果を発揮することができる。また、TS に加えGSD を装着して歩行訓練を行った。TS とGS の併用によって、骨盤前傾を保持したまま歩行周期におけるLR を迎えられ、GSD でのロッカーファンクション機能がより効果的に作用し、適確な運動学習が繰り返された効果で、歩行能力の向上に至ったと考える。今回の経験から病前からの異常姿勢是正にはTS が適応になると考えられた。今後はTS 使用群、非使用群での歩行能力の変化など、実績を積み上げてTS の効果を実証していく。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本発表をするにあたり、世界医師会によるヘルシンキ宣言の勧告に従い、対象者へ説明行い同意を得た

  • 山口 滉大, 本多 歩美, 楠本 菜々, 山田 麻和
    p. 15
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    パーキンソン病(PD)患者は体幹前屈を呈しやすく,体幹前屈の有無は移動能力予後の重要な関連因子と報告されている(久我ら,2016).しかし,パーキンソン病理学療法診療ガイドライン(望月ら,2011)では,体幹前屈に対するリハビリテーション(リハ)のエビデンスは記載されていない.近年,継手の力を胸部前面に与えることで胸郭が伸展方向にモーメントを受け,その反作用で骨盤に前傾方向へのモーメントが生じ体幹を伸展させる機構をもつ継手付き体幹装具Trunk Solution®(TS)が開発されている(勝平,2015).今回,体幹前屈を有するPD 患者に対してTS の効果を検証した.

    【対象】

    人的介助を要さずに2 分以上の連続歩行が可能であり,体幹前屈を有するPD患者10 名( 男性7 名,女性3 名,年齢75.0 ± 7.2 歳,罹病期間7.1 ± 5.0 年,Hoehn and Yahr 重症度分類 stage3:6 名,stage4:4 名,Mini Mental StateExamination 24.7 ± 3.0 点) を対象とした.身体機能は,Unified Parkinson’ sDisease Rating Scale Part III 36.9 ± 16.6 点,Berg Balance Scale 48.4 ± 5.3 点,2 分間歩行試験時の歩行距離(2MWD)103.3 ± 22.9m,体幹前屈角度(Th1とS1 を結んだ線と鉛直線のなす角)を脊柱計測分析器にて測定し,23.6 ± 9.6度(15-40 度)であった.体幹前屈角度が45 度以上または腰部の疼痛増強がある患者は除外対象とし,TS は服薬調整が概ね終了した時点から開始し服薬の影響を最小限とした(入院からTS 開始までの期間21.2 ± 12.7 日).

    【方法】

    介入はTS 装着下での歩行練習を20 分間,2 日に1 回,計6 回リハ時間内に実施した.リハは2 時間/ 日,6 回/ 週とし,TS 以外では患者の個別性に応じた複合運動や日常生活動作練習などの通常リハを行った.主要評価を体幹前屈角度,2MWD,副次評価を10m 歩行試験,片脚立位時間とし介入前後に実施した.統計処理はWilcoxon の符号付き順位検定を用い,有意水準は5% 未満とした.

    【結果】

    介入後平均値,改善度(介入後−介入前)の順で結果を示す.体幹前屈角度は17.8 ± 9.7 度,-5.8 ± 6.6 度と伸展方向へ有意に改善し(P=0.01),2MWDは114.3 ± 16.2m,11.0 ± 13.7m と有意に延長した(P=0.03).10 m歩行試験では歩行速度(P=0.02)と歩行率(P=0.04)は有意に改善し,片脚立位時間は左右とも延長したが有意差は認めなかった.対象からは,背筋が伸びている(6 名),長く歩いても疲れない(3 名),腰痛が軽減した(2 名)など肯定的な意見が聞かれた.

    【考察】

    TS の効果については,脳卒中患者における体幹伸展(Katsuhira ら,2014)や,高齢者における有意な体幹伸展と立脚初期の股関節外転モーメントが増大し歩行スピードが向上した(飯島ら,2014)などの報告があり,PD 患者においても先行研究と同様の作用にて体幹伸展し,歩行スピードが向上したと考えられた.体幹前屈位での歩行は姿勢保持のために股関節伸展筋群の大きな筋力が必要とされ(佐久間ら,2010),体幹が前屈することで歩行時の蹴り出しに必要な足部をはじめとした下肢筋や背部筋が過剰に働き,筋の易疲労性を引き起こすため連続歩行距離が短くなる(坂光ら,2007)と報告されている.今回,PD 患者ではTS 装着により体幹が伸展し,姿勢保持に必要な筋群の過剰な働きが軽減し,2MWD の延長に繋がったのではないかと推察した.

    【結語】

    PD 患者における前屈姿勢に対し,TS による姿勢および歩行の改善が得られ,TS の有効性が示された.今後は,TS の適正回数の検討および通常の姿勢矯正練習との比較検証を行う予定である.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    介入はヘルシンキ宣言の勧告に従い,対象者に対して説明と同意を得て実施した.

  • 大浦 洋一, 小西 隆洋, 井手 満雄, 森田 正治
    p. 16
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    今後さらに高齢化が進むわが国において健康寿命を延ばすことが課題となっており、その一つとして高齢者の社会参加が注目されている。社会参加には健康増進活動、ボランティア活動、地域活動など様々あるが、地域高齢住民を対象とした先行研究において、社会参加の機会を有する高齢者は、そうでない高齢者に比べ認知機能が高く、フレイル(虚弱)の割合が低いことが報告されている。しかし、生きがいとの関連については十分に明らかにされておらず、過去に科学的根拠を整理した研究はほとんどない。筆者らが行った研究では健康増進活動を主とした社会参加活動について生きがいは有益な効果があると結論付けたが、具体的な要因は何であるのか、生きがいの構成4 因子(生活充実感・存在感・自己実現意欲・生きる意欲)と社会参加活動との関連を言及するまでには至っていない。本研究では当院通所リハビリテーション利用者を対象とした質問紙調査の結果をもとに、社会参加と生きがいの主要因について関連を検討する。

    【方法】

    本研究は2020 年11 月から2021 年2 月までの当院通所リハビリテーションを利用する65 歳以上の要支援者24 名(男性10 名、女性14 名)とし、対象者に質問紙調査を実施した。生きがい評価として、生きがい感スケール(16項目4 因子(1)自己実現と意欲(2)生活充実感(3)生きる意欲(4)存在感)を使用した。満点は32 点、カットオフ値を17 点とし、統計解析はWindows 版SPSS24 を用い、Mann-WhitneyU 検定により、生きがい感との関連を確認した。また、社会参加項目(年齢、性別、配偶者、家族形態、健康状態、暮らしぶり、外出頻度、外出手段)についても比較検討を行なった。なお、有意水準は5%とした。

    【結果】

    対象は生きがい高い群(A 群)が15 名、生きがい低い群(B 群)が9 名で、参加者の多くが81 歳から90 歳の後期高齢者であった。A 群は男性3名、女性12 名であり、B 群は男性7 名、女性2 名であった。2 群間の男女割合としてA 群は女性が有意に高く、B 群は男性が有意に高かった。生きがい感は、自己実現因子にける「心のよりどころ(P=0.001)」、「向上したと思える(P=0.002)」、「他人から評価されている(P=0.014)」、「何か成し遂げた(P=0.034)」、存在感因子における「私がいなければだめだ(P=0.047)」、「世の中や家族のために役に立っている(P=0.025)」、「家族や他人から期待されている(P=0.025)」の因子において生きがい感との間に有意な関連性を認めたが、他の生活充実感と生きる意欲との間には関連を認めなかった。

    【考察】

    地域で生活している虚弱高齢者の生きがい要因を確認することは地域包括ケアシステムを機能させる上で意義があると考える。本研究の結果から、A 群では多くが女性に日常生活活動を向上・維持したいという意欲が受動的に見られ、特にその要因として自己実現因子と存在感因子を主としていた。高齢者の老年期は生きがい感を喪失しやすい危機に直面するものの、新たな生きがい感の源泉や対象を見出すことで再獲得できる力を持つと考えられている。本研究では家庭内役割の中で、生きがい感を獲得することで、自律した社会参加能力を得ることが可能であると考える。

    【まとめ】

    生きがい感が高い対象者は家庭内役割を獲得し、自律して活動する社会参加能力が高いことが認められた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認(渡整第2020-1101 号)後、対象者に書面及び口頭にて十分な説明を行い、同意を得た上で実施した。また、本研究において開示すべき利益相反はない。

  • 内村 寿夫, 中村 裕二, 田島 拓実, 濱添 信人, 當房 紀人, 早川 亜津子, 川平 和美
    p. 17
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【目的】

    多発性硬化症( 以下 MS ) は多様な神経症状を呈し若年成人に多いが, 在宅でのリハビリテーション治療( 訪問リハ治療) は,現状維持を目的とする治療内容が多く,機能回復と歩行や ADL の向上を目指した積極的な訪問リハ治療は少ない.社会活動が必要な MS 例には脱髄による麻痺や歩行障害, ADL 障害への積極的訪問リハ治療が必要だが, 標準的な治療内容についての報告は見当たらない.選択肢として脳卒中や脊髄損傷の麻痺や歩行, ADL の改善効果が科学的検証で確認されている促通反復療法( 川平ら 2017 ) が挙げられる.今回,脳梗塞合併の MS 例への訪問リハ治療で,持続的電気刺激下の促通反復療法を体幹と下肢に用いて,麻痺と歩行が向上し屋外歩行が自立したので報告する.

    【症例】

    症例は 39 歳, 女性. 2018 年 3 月,右上肢の巧緻性の低下と右下肢の脱力が出現する.他院を受診し MS と診断され, 内科治療と入院リハ治療によって右上下肢の麻痺改善( 足関節底背屈低下は残存) と歩行自立( 短下肢装具装着)して, 4 月に退院した.2020 年 4 月,両下肢の異常感覚が出現して他院を受診して MS 再発との診断で内科治療が始まった. 同年 8 月には右片麻痺と歩行困難が出現して新たな脳梗塞と診断され, 2 カ月のリハ治療を受けて屋内の伝い歩き自立,屋外歩行一部介助で退院した.11 月 ,「 一人で買い物に行きたい」を主訴として , 当院を受診し,訪問リハと外来リハ治療を受けた.

    【評価】

    麻痺(BRS) は 右上肢 VI ,右手指 VI ,右下肢 III ,筋力( MMT )が右股関節屈曲 3 ,伸展 3 ,外転 4 ,内転 4 ,右膝関節屈曲 2 ,伸展 4 ,右足関節背屈1 ,底屈 1 ,両下肢の関節位置覚が足関節・足趾重度鈍麻,TUG が 12.8 秒,神経症状評価尺度 で ある EDSS スコアが 6 ,歩行は短下肢装具での屋外歩行( 最小介助),右下肢の外旋し軽度分回しあり.

    【治療方法】

    体幹・下肢への電気刺激併用の促通反復療法 6 種(30 分),ステップ練習,自主練習指導を行った.頻度は訪問リハ治療(1~3 回/ 週) と外来リハ治療(2 回/ 月) で,期間は令和 2 年 11 月から6 カ月( 計 30 回) である.

    【結果】

    6 カ月間の訪問リハ治療によって, 麻痺が右上肢 VI ,手指 VI ,下肢 IV ,MMT が右股関節屈曲 4 ,伸展 4 ,外転 5 ,右膝関節屈曲 3 ,伸展 5 ,右足関節背屈 2 ,底屈 2 ,TUG が 9.7 秒,EDSS スコアが 5.0 と改善した.歩行は屋外歩行も自立し,「一人で買い物に行くこと」が可能となった.

    【考察】

    脳梗塞合併の MS の一例に訪問リハ治療として麻痺と歩行を改善するため電気刺激下の促通反復療法を行い,右下肢機能と歩行の改善が得られた. 慢性期の MS に対する訪問リハ治療は 2 次的合併症予防に意識が向きがちだが,神経路の再建強化を促進する電気刺激下の促通反復療法は麻痺や歩行, ADL の向上が期待できることが示唆された.また,低頻度の治療でも効果が得られたことから,訪問リハ治療で促通反復療法が選択肢の一つになると考える.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究の計画立案に際し,事前に所属施設の倫理審査員会の承認を得た(承認番号 第R3-4 号)。 また研究の実施に際し,対象者に研究について十分な説明を行い,同意を得た。

  • 仲葉 望, 原田 愛
    p. 18
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【目的】

    当院通所リハビリテーションは開設から5 年が経過し利用者は増加傾向にある。通所リハビリテーションでは自立支援に向け、利用者の活動性向上や社会参加を促す支援が必要である。しかし当院では長期継続者が増加傾向の為、今後終了に向けたアプローチが必要である。そこで当院通所リハビリテーション終了者と長期継続者を比較し、適切な利用修了に向けたアプローチ立案の一助としたい。

    【方法】

    期間:2018 年4 月-2020 年5 月対象: 当院通所リハビリテーション利用者59 名項目: 対象者開始時年齢、性別、介護度、認知症老人の日常生活自立度、Barthel Index(BI)、家庭内役割有無解析: 終了群( 期間中利用終了者31 名) と継続群(2020 年5 月末時点で1 年以上の利用者28 名) 間の上記項目差異を統計解析した。また終了群の内、入院や死亡でなく症状軽快による修了者9 名についても継続群との差異を解析した。

    【結果】

    終了群内訳は女20 名・男11 名、開始時平均年齢80 歳、要介護度は15 名が要介護所持、介護度平均2.3、認知症老人の日常生活自立度II b 該当率29%、BI 平均80 点、家庭内役割保持率29%であった。通所リハビリテーション終了理由は入院11 名、入所2 名、死亡3 名、軽快修了9 名、その他6 名であった。他方継続群では女13 名・男15 名、開始時平均年齢76 歳、介護度平均2.2、認知症老人の日常生活自立度II b 該当率3.6%、BI 平均87 点、家庭内役割保持率61%であった。これらで有意差を認めたのは1) 開始時平均年齢(p=0.04)、2) 認知症老人の日常生活自立度(p=0.01)、3) 家庭内役割保持率(p=0.01) であった。また修了者9 名では要支援7 名、認知症老人の日常生活自立度は非該当6 名、平均リハビリテーション期間9 ヶ月、開始時は屋内歩行自立だが終了時には屋外歩行自立を獲得した者7 名であったが、継続群とはいずれも有意差を認めなかった。

    【考察】

    本研究では終了群は継続群と比べ1) 開始時平均年齢が高い、2) 認知症老人の日常生活自立度II b 該当率が高い、3) 家庭内役割保持率が低い結果となった。これらは終了群には入院又は死亡による終了を含む為と考察された。また継続群には若年時に発症し回復困難な後遺症を伴った脳卒中、神経難病者を含む為と考えられた。全国デイ・ケア協会による先行研究では、終了群は継続群に比べ1) 開始時平均年齢が低い、2) 認知症老人の日常生活自立度は非該当率が高い、と我々の結果と逆であった。これは先行研究では入院や死亡による終了者が含まれていない為と考えられる。当院では入院・入所や死亡による終了が42%を占め、元々高齢であり認知症が重度な者ほど家庭内役割を持てず、入院・入所に至ると考えられた。一方で入院や死亡を含まない修了者と継続者の比較も行ったが有意差を認めなかった。しかし先行研究と同様1) 介護度が低い、2) 認知症老人の日常生活自立度が軽度、3) 終了期間は1 年以内が多い等の傾向を認め、今後は症例数を増やす事で新たな結果が出ると期待される。また継続群に、介護度が低く認知症の無い者が11 名該当した。先行研究では利用期間2 年以上を経て軽快修了へ至る症例も一定数報告され、今後該当者の継続理由や目標設定へのアプローチ再検討により、適切な利用修了へ至ると期待される。

    【まとめ】

    当院通所リハビリテーション終了群での解析結果には先行研究と異なる結果が得られた。本研究では入院や死亡を含まない修了者と継続者間に有意差を認めなかったが、介護度が低い、認知症老人の日常生活自立度が軽度、1 年以内の終了という傾向を認めた。今後は修了者のみでの解析を行い、適切な早期修了をもたらす要因の解明が期待される。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    当院倫理委員会承認を受け、情報収集を実施。

  • 田中 陽理, 片岡 英樹, 百合野 大輝, 徳永 嵩栄, 松原 篤, 山下 潤一郎
    p. 19
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    これまでにわれわれは,慢性疼痛を呈した要介護高齢者の抑うつ状態が訪問リハビリテーション(訪問リハ)による痛みや生活機能の改善に影響することを報告した(田中陽理・他:PAIN REHABILIATION 11,2021).今回,頚椎症性脊髄症術後に慢性疼痛と抑うつ状態を呈し,閉じこもりとなった要介護高齢者に対し社会参加を促した訪問リハを行った結果,良好な成績が得られたため報告する.

    【方法】

    症例はX-2 ヵ月に頚椎症性脊髄症術を施行した後に自宅療養となった要介護4の80 代女性で, X 日より週2 回の訪問リハが開始となった.初期評価時の問診では,症例からは「手術したのに歩けません.こんな体になってしまって,誰とも会いたくありません.」との発言が聞かれた.姿勢は円背が著明で,頭痛・腰背部痛・両膝痛の訴えがありNRS で5,痛みの破局的思考を評価するPain catastrophizing scale(PCS) は34 点, 抑うつ(GDS-15) は14 点, TUGT は44 秒,1.6 ~ 2.9METs の低強度の活動時間は1 日平均103分, ADL(FIM) は106 点,Frenchay activities index(FAI) は4 点, 生活空間の評価であるLife space assessment(LSA)は15 点,QOL の評価であるEuroQol5Dimension(EQ5D)の効用値は0.050,社会的孤立を評価するLubben social network scale 短縮版(LSNS-6) は8 点であった.以上の評価結果から,加齢や疾患に伴う異常姿勢,歩行能力・ADL・IADL の低下があり,痛みの破局的思考が強く,抑うつ状態であり,さらに医療への過度の期待から負の感情が強化されており,生活空間の狭小化に伴う閉じこもり状態といった活動・参加能力の低下に加え,QOL の低下を招いているものと考えられた.

    【介入と経過】

    訪問リハでは症例の「以前のように歩けるようになりたいが,外には出たくない.」という意向を聞き取り,リハ時間以外での活動の重要性を説明し,活動量を増やすように指導した上で,普段使用する椅子での起立練習や歩行練習,自主練習表を用いたセルフエクササイズの定着を図った.3 ヵ月後の評価では,TUGT:25 秒と運動機能に改善を認めたものの,NRS:7,PCS:30 点,GDS-15:12 点と痛みや認知情動面の改善は不十分であった.症例の意向を確認したところ「歩く練習を頑張ろうとしても上手く歩けないし痛くなってしまいます」との発言が聞かれた.そこで以前は友人との交流が盛んであったことを聞き取り,屋外での歩行練習や,近所の方々と交流していた自宅縁側に移動する練習を行った.屋外歩行練習時に近所の方々から声掛けがあったことをきっかけに,週に2 ~ 3 回程度は自宅縁側で過ごすことが習慣となり,自発的に近所の方々との交流が増えていった. 6 か月後の評価ではNRS:2,GDS-15:7点,PCS:15 点,低強度の活動時間は1 日平均122 分,LSA:22 点,LSNS-6:14 点と痛みや痛みの破局的思考・抑うつ・活動量・生活空間・社会的孤立が改善した.症例からは「痛みはあるけど気にならない.外で声がしたらできるだけ玄関の外や縁側には出るようにしています.」といった発言が聞かれた.

    【結論】

    慢性疼痛や抑うつ状態を呈し,閉じこもりとなった本症例においては,生活場面での運動療法に加え,症例の意向に合わせた自宅縁側での近所との交流や生活空間の拡大といった社会参加の促しは,慢性疼痛・抑うつ状態・閉じこもりの改善に有効であった.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    症例と家族に症例報告のついての説明を行い書面にて承諾を得た,なお,個人情報取り扱いについては当院が定める個人情報取り扱い指針に基づき実施した.

  • 力久 俊基
    p. 20
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    地域包括ケアシステムの構築、市町村の一般介護予防事業の充実・強化のための取組みの一つとして地域リハビリテーションは大きな役割を担っているが、地域リハビリテーションを実践する組織として地域リハビリテーション広域支援センターが存在する。長崎県の北部に位置する平戸市、松浦市、佐々町を中心とした地域にて活動する県北地域リハビリテーション広域支援センターでは今回、長崎県県北保健所圏内の協力施設に所属するリハビリテーション専門職をはじめとした関係者にアンケートを実施し、現状の実態把握を含め、リハビリテーション専門職の可能派遣な地域活動への参加状況について調査した。

    【方法】

    各協力施設の施設長、所属長、在籍中の全セラピストを対象に、それぞれ当センターにて作成したアンケートを配布し回収した。回収後、設問毎の結果を集計した。

    【結果】

    施設長を対象としたアンケートでは、全13 施設中9 施設の施設長から回答が得られた。回答が得られた全ての施設長より協力経験があるとのことで、今後の地域活動支援事業への協力も可能とのことであった。所属長を対象としたアンケートでは、全13 施設10 施設から回答が得られた。派遣可能なセラピスト数はPT21 名、OT16 名、ST3 名の計40 名で、月1 回の派遣が可能であるという回答が最も多かった。その一方で、派遣には業務上支障が出る旨の意見も上がっていた。個人向けのアンケートでは、PT80 名、OT35 名、ST9 名の計124 名から回答が得られた。地域活動への参加経験は全体の52.4%が「あり」と回答し、「あり」と回答した職種別の割合ではPT46.3%、OT60.0%、ST77.8%であった。また、経験年数別での地域活動への参加の有無では、1 ~10 年目では69 名中35 名(56.1%)、11 年目~ 20 年目では36 名中17 名(47.2%)、21 年目以上では17 名中13 名(76.5%)が地域活動への参加があるとの回答であった。

    【考察】

    地域活動への参加に関しては、各施設がこれまでも協力的であり、今後も同様に参加を継続していく姿勢が見受けられた。しかし、地域活動へ参加したい気持ちがあるが参加出来ていないセラピストも存在していることも同時に判明した。これは、施設によっては人員が限られており、業務外の活動が困難であること、派遣される人員が固定化されていること等が考えられる。従って、派遣しても人員数が維持出来る施設に地域活動が偏りがちになる傾向が生じている。また、経験年数が10 年以下のセラピストが半数を占めており、地域活動、地域活動支援事業を含めた「地域リハビリテーション」に対する認識がまだ十分ではないことが考えられる。

    【まとめ】

    現在、地域活動へ参加されているセラピストの方々には、派遣体制やアナウンスの方法等の意見交換を継続していくことで、引き続き協力して頂けるように広域支援センターを中心に取り組んでいかなければならない。更に、経験年数が少ないセラピストへの人材育成が必要となってくるが、介護予防推進リーダーや地域ケア会議推進リーダーの履修や経験を有するセラピストによる研修会を開催することで、地域リハビリテーションの概念や意義を理解してもらうことが期待出来る。リハ専門職として、地域のニーズを把握することは地域包括ケアシステムの構築に向けて不可欠であり、セラピストが地域活動へ参加しやすい環境を整えることが必要である。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    アンケートにて取得した情報については本調査のみにて使用し、個人情報保護の観点から第三者に情報提供することは一切しない。

  • 岩永 貴文, 井上 亮子, 本多 歩美, 山田 麻和
    p. 21
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    当院では筋萎縮性側索硬化症( 以下:ALS) 患者に対し、ロボットスーツHAL®医療用下肢タイプHAL - ML05( 以下:HAL) を用いた入院治療を行っている。今回、診断早期かつ独歩歩行自立のALS 患者に対しHAL 及び免荷式リフトPOPO( 以下:POPO) を使用した歩行練習を導入し、歩行能力の向上を認めたため報告する。

    【症例紹介】

    症例は、両上肢挙上困難、階段の上りにくさの主訴で発症した上肢型の72 歳男性。2020 年1 月に他院で確定診断を受けた翌月より、ラジカット治療目的にて毎月10 日間当院へ定期入院を開始した。初回入院時、身長168cm、体重60.3kg、BMI21.4kg/ ㎡、上肢筋力は近位筋優位に低下しMMT2 レベル、握力は右23.1kg、左17kg。下肢筋力は4 レベルでFunctional Balance Scale(以下:FBS):56 点。ALS の機能評価尺度改訂版ALSFRS-R42 点、厚生労働省ALS 重症度分類2 度で認知機能は問題なし。FIM 運動項目は78 点で清拭以外ADL 自立し、定年退職後、ドライブや散歩(数km)、ジムに通うなど活動的に暮らしていた。

    【理学療法評価と経過:HAL 休止期(入院初回〜 4 回目)】

    初回入院時、2 分間歩行試験( 以下:2MWT):157.3m、10m 最大歩行試験(以下:10MWT):6.4 秒、大腿四頭筋筋力Hand Held Dynamometer( 以下:HHD):19.3kgf/18.9kgf であった。HAL を9 回実施し筋力向上を認めたが、症例自身に効果の実感が得られず初回入院時のみで休止に至った。休止期間中は、通常リハとして筋力トレーニングや独歩または前腕支持型歩行器での歩行練習(1 日あたりの歩行距離500 m程度) を実施した。しかし入院4 回目(HAL 休止から3 ヶ月)には、2MWT:81.1m(初回入院時より48% 減)、HHD:17kgf/17.8kgf(初回入院時より10% 減)と、歩行耐久性が著明に低下した。この間、在宅生活ではほぼ毎日外出するなど身体活動量を維持していたが、体重4kg 減かつFBS:52 点と全体的に身体能力が低下した。

    【理学療法評価と経過:HAL 再開期(入院5 回目~ 7 回目)】

    症例よりHAL の希望があり入院5 回目より再開した。HAL の設定は初回時同様とし、CVC モード・感度レベル(股関節A2 膝関節A1)・トルクリミット(股関節30、膝関節30)、POPO 免荷量は20kg で行った。HAL の練習時間は1 回20 分程度(歩行距離600m 程度)、隔日で計4 回実施し、他は通常リハを行った。症例はHAL に対し、「疲労は普通に歩くより残らない。歩きやすくなった。満足度90%。」と内省は良好であった。毎回HAL 後に2MWT、10MWT における即時効果に加え、入院7回目(HAL 再開から3 ヶ月)には、2MWT:127.7m、10MWT:9.2 秒、HHD:19.1kgf/18.2kgf と、HAL 休止期と比べ2MWT および筋力が向上し、初回入院時より最大半分程度まで低下していた2MWT は80% まで回復した。

    【考察】

    今回、定期的に通常リハを実施した3 ヶ月間に歩行能力が著明に低下した症例に対し、HAL を実施したことで2MWT の短期回復を認め、定期的なHALの実施によって歩行能力の向上と進行スピードの緩徐化に寄与したと考えられた。中島(2016)は、定期的・間欠的に治療的にHAL を装着することで、運動単位に過活動や過興奮を引き起こさず筋萎縮・筋力低下の疾患の進行を抑制させると述べている。一方、ALS に対する有酸素運動や筋力トレーニングについては、ALS 診療ガイドライン(2013 年)ではグレードC1 で効果的な負荷量は明記されておらず、適切な運動負荷の設定が難しい現状にある。そのため、歩行自立期であっても進行抑制を目的に、ALS の診断早期から積極的にHALを導入する有用性は高いと考えられた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し、対象者に口頭で説明し同意を得た。

  • 症例報告
    戸髙 良祐, 狩生 直哉, 阿南 雅也
    p. 22
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【目的】

    重度の歩行障害を呈した脳卒中患者の歩行練習では,長下肢装具(以下,KAFO)を利用する機会が多い.そして,KAFO から短下肢装具( 以下,AFO)への移行は,AFO に適応した歩行パターンの再獲得が生じる時期と考えられる.しかし,AFO への移行に伴い,extension thrust pattern などのような異常運動を呈することがあり,これらの現象は体幹にも影響を及ぼすことを経験する.体幹は歩行安定の重要な因子であるため,移行期における体幹の挙動を検証することは,歩行トレーニングを検討する上で重要である.加速度計は体幹の挙動を評価する上で有用とされ,規則性の指標である自己相関( 以下,AC) や,動揺性の指標である二乗平均平方根( 以下,RMS) などが用いられている.今回,回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中患者に対して,体幹の挙動の変化を加速度計で検証したところ,良好なKAFO からAFO への移行が得られたため,ここに報告する.

    【方法】

    対象は60 代男性であり,左被殻出血後に右片麻痺を呈した.見守り歩行が可能となった発症後64 日目から,KAFO 使用時,AFO 移行直後,AFO 移行後2 週,AFO 移行後4 週の時点で快適歩行時の体幹の挙動を計測した.KAFO 使用時からAFO 移行までの期間は,膝継手の固定と除去を繰り返し,膝関節の安定後にAFO へ移行した.体幹の挙動は,小型9 軸ワイヤレスモーションセンサ(ロジカルプロダクト社製)を用いて,サンプリング周波数200Hz で計測を行った.貼付位置は第3 腰椎棘突起(以下,L3)および踵骨隆起部とした.踵骨隆起部の加速度信号より歩行周期を同定した.L3 の加速度信号より,5~7 歩行周期分の前後・左右・鉛直成分のRMS およびAC の算出を行った.さらに,Fugl-meyer assessmentの下肢運動項目( 以下,下肢FMA),歩行速度も算出した.

    【結果】

    本症例では,KAFO からAFO への移行直後に全成分のAC が低下した.一方で,RMS は著変を示さなかった.移行後は,規則性の改善を目的として,左右への体重移動および前方推進の誘導を行いながら歩行練習を実施した.その結果,全成分でAC は向上し,RMS は低下を認めた.下肢FMA および歩行速度は移行後に改善を認めた.

    【考察】

    AC が低下した要因は,KAFO からAFO へ移行することで膝関節の自由度が高まったためと考える.歩行の規則性とバランス機能は相関することが報告されている.そのため,AFO 移行直後は関節自由度の増加に対して,新たなバランス戦略を獲得する必要があり,AC の一時的な低下が生じたと考える.また,RMS の結果より,AFO への移行に際し下肢の異常運動が生じないことを確認した.体幹の動きは下肢との関連が高いことが報告されている.AFO移行後においても下肢異常運動が出現しなかったため,RMS に影響を与える程の体幹の動揺も生じなかったと推察する.したがって,AFO への移行直後にRMS の変化が生じなかったことは,適切なタイミングでAFO への移行が行えた結果とも考えられる.AFO 移行後の経過において,歩行速度の向上とともにAC の向上およびRMSの減少を示したのは,歩行の習熟を示していると考える.

    【まとめ】

    KAFO からAFO への移行期の歩行評価において,加速度計を用いた体幹挙動変化の評価を行い,AFO 移行後は体幹のAC 低下を認めたが,RMS は変化しなかった.そこで,規則性の改善に着目した歩行トレーニングを行ったところ,歩行速度の改善ならびにAC の増大,RMS の低下を示した.以上から,加速度計を用いて体幹挙動変化を評価することは,適切なAFO へ移行するタイミングの判断材料になる可能性が示唆された.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言を遵守したうえで,対象者に十分な説明を行い,同意を得た.

  • 長埜 樹, 藤田 良樹
    p. 23
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【目的】

    今回, 左被殻出血により重度右片麻痺を呈し, トイレ動作時のズボン操作に介助を要した症例を担当した. 小池(2014) らは, 脳卒中後の下衣操作自立に体幹機能が関与すると報告している. トイレ動作自立に向けて, 体幹機能, 麻痺側下肢に対する介入に加え, 課題特異的な付加的介入を行うことで, トイレ動作が自立し, 自宅復帰に至った症例を経験したため報告する.

    【症例紹介】

    40 歳代男性.X 日, 近所の人が倒れているのを発見し, 当院へ救急搬送され,CT検査後, 脳出血を認め, 開頭血腫除去術を施行.X + 24 日目に当院回復期病棟へ転棟し理学療法を開始した. 自宅復帰に向けて, トイレ動作獲得が必要であった.

    【評価とリーズニング】

    X + 24 日目では,Functional Independence Measure( 以下,FIM) は39/126点( 運動項目:28/91 点, 認知項目:11/35 点),Stroke Impairment AssessmentSet( 以下, SIAS) 下肢運動機能:1-0-0,Trunk impairment scale( 以下,TIS) は7/23 点であり, 右上下肢に重度麻痺を呈し, 立位保持は支持なしでは困難であった. トイレ動作では, 非麻痺側側方の壁にもたれ立位保持が見守りで可能であったが, ズボン操作に伴う対側へのリーチ動作時, 非麻痺側への体幹側屈や麻痺側骨盤の後方回旋を伴う, 麻痺側後方への転倒リスクを認め, 軽介助を要した. 以上より, 非麻痺側上肢の対側リーチ時の麻痺側下肢での支持性改善や, 立位での体幹回旋運動の改善により, トイレ動作の下衣操作自立を目指した.

    【介入と結果】

    介入初期は, 独立立位の獲得に向け,Bill ら(2015) の体幹機能への介入を参考に, 背臥位( 膝立て位) での殿部挙上運動や座位での前後左右への重心移動練習を行い, 体幹機能の改善を促した. また, 麻痺側下肢の支持性向上を目的に長下肢装具を使用し, 歩行練習を行った.X + 59 日目では,FIM:55/126 点( 運動項目:41/91 点, 認知項目:15/35 点),SIAS 下肢機能3-2-2,TIS:11/23 点となった.X + 72 日後, 独立立位が可能となり, トイレ動作に求められる立位での正中交差を伴った下方へのリーチ動作など課題特異的な介入を行った.X + 88日後,FIM は71/126 点( 運動項目:56/96 点, 認知項目:15/35 点),SIAS 下肢機能:4-3-3,TIS は15/23 に改善し, トイレ動作では下衣更衣動作時の立位保持が安定し, 終日トイレ自立となった.

    【考察】

    本症例は, トイレ動作における下衣操作の非麻痺側交差性リーチ時に後方への転倒リスクを認めた.AleXander ら(2016) は, 対側へリーチする際, 重心は反対側へ移動すると報告しており, 正中交差時の麻痺側下肢の支持はズボン操作の安定性向上の要因の1 つと考えられる. また,Van Criekinge ら(2019) は, 体幹治療とリーチ動作の関係をシステマティックレビューにて報告し, リーチ動作の安定化に向けた体幹治療を推奨している. 本症例はTIS やSIAS 下肢機能が低値であったため, 体幹機能, 下肢の支持性改善を図り, 立位安定後に課題特異的な介入を付加的に行うことで, 非麻痺側交差性リーチ時の安定性が向上し, トイレ動作獲得に至ったと考えた.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    症例の本発表に際し, ヘルシンキ宣言に基づき, 対象者には十分な説明と同意を得た.

  • 下川 善行
    p. 24
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    今回, 断続的な心房細動(以下:af)のため, 心不全・脳血流量低下・心原性脳梗塞へのリスク管理が必要な前頭葉皮質下出血を呈した症例を担当した. 本症例はaf の既往歴があり, 発症前は抗凝固薬を服薬していた. しかし, 脳出血を起こした為, 抗凝固薬を服薬しない事を選択していた. リスク管理と運動療法のバランスを考慮し, 訓練を行った結果, 日常生活動作(以下:ADL)の獲得へ繋がった為報告する.

    【症例紹介】

    80 歳代男性診断名: 左前頭葉皮質下出血現病歴:2020/09/X 仕事中に構音障害と右上下肢麻痺出現.A 病院に救急搬送.CT 所見で左前頭葉皮質下出血の診断で保存的加療.39 病日目に理学療法目的で当院へ転院.既往歴: 発作性心房細動, 気管支喘息, 前立腺肥大症職業: 医師

    【初期評価】

    JCS: I -1 安静時バイタルサイン: 心拍数140~160 拍/ 分, 頻脈の自覚症状無し. 心電図モニターではaf 及び心室性期外収縮散発,SpO295~96% , 血圧120-130/70-80 mmHg,nohria stevenson 分類:warm&dry 上田式12 段階グレード: 上肢2,手指1,下肢1, 表在及び深部感覚: 上下肢の軽度鈍麻,modifiedashworth scale(以下MAS):0, 高次脳機能障害: プッシャー症候群, 注意障害,運動性失語, 基本動作・ADL 全介助,FIM:23 点(運動:13 点, 認知:10 点)

    【入院初月~3 ヶ月目】

    断続的なaf 波形でHR は160 拍/ 分~50 拍/ 分.Dr.HR120 拍/ 分以下で離床指示. 問題点として, 心不全・脳虚血・心原性脳梗塞があり, 理学療法では,ROM,促通反復療法, 低周波治療, 電動サイクルマシンをベッド上や車いす乗車にて実施. バイタルサインが安定している時は, 長下肢装具(以下KAFO)を使用し高座位, 立位保持, 少量の歩行訓練を実施. 頻脈を伴うaf や, 血圧低下時は,休憩や臥床し観察した.

    【3~4 ヶ月目】

    af が頻度が減少すると心電図モニター離脱. 離床機会増えた. 問題点として,心不全や脳血流量低下のリスクは低下したが, 心原性脳梗塞のリスクは配慮が必要であった. 高座位, 立位保持訓練などスタティックなものの後に少量の歩行訓練を行った.

    【5 ヶ月目以降】

    af の頻度追えず, 理学療法中に検脈や聴診にて確認. 頻脈と血圧低下のため気分不良となり, 心電図モニター装着する場面もあった. 理学療法では機能訓練からADL 訓練へと移行. ダブルクレンザック装具作成,ADL 訓練で車いす移乗・自走が見守りレベルとなり205 日目に退院となった.

    【最終評価】

    JCS: クリア, 安静時バイタルサイン: 脈拍数70~80 拍/ 分.SpO295~96% , 血圧130-140/70-80 mmHg nohria stevenson 分類:warm&dry 上田式12 段階グレード: 上肢3,手指3,下肢4, 感覚: 上下肢の軽度鈍麻,MAS:(R/L)下腿三頭筋3/0, ハムストリングス3/0, 上腕二頭筋2/0, 高次脳機能障害: 運動性失語軽度残存, 基本動作: 起き上がり, 座位保持, 移乗動作見守りFIM:52 点(運動:27点, 認知:25 点)

    【考察】

    理学療法を進める上で,af が断続的に出現するため, 心不全, 脳虚血, 心原性脳梗塞に対するリスク管理と, 理学療法の両立に難渋した. 入院初月~3 ヶ月目は,リスク管理の観点からベッド上での電動サイクルマシンや低周波,KAFO を使用した静的な立位保持などを中心に実施した.4 か月目以降は ,af 減少し, 心不全や脳虚血のリスクは軽減したが、抗凝固薬を服用していない為, 心原性脳梗塞には十分な配慮が必要であった. そのため, 訓練前後の神経症状の変化にも配慮した. 結果, 合併症を起こさずに移乗動作見守り, 車いす自走可能となり,退院の運びとなった.

    【まとめ】

    高齢化が進む中, 個々の病態管理が必要な患者の対応が増えると考えられ, その病態に応じたの理学療法を提供していきたい.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    ヘルシンキ宣言に基づき患者の保護に十分に配慮し, 本報の趣旨を説明し同意を得た.

  • 歩行獲得のための座位・立位訓練
    烏山 悠季
    p. 25
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    脳梗塞によって右片麻痺、左半身に運動失調、またMRSA のため個室隔離となったことで活動量低下に伴う廃用を呈した患者様を担当した。歩行獲得を目的に座位・立位訓練の結果を以下に述べる。

    【症例紹介】

    50代男性 独居。単身赴任中であり、家族は県外在住。現病歴はX月Y日、気分不快あり近医にて投薬。翌日、起床時に構音障害あり救急搬送となり、両側小脳、右前頭葉、左橋に梗塞巣が認められ、同日脳ヘルニアを来し開頭外減圧術を施行。 その後、発症から48 日目(1 病日目) 当院へ転院。しかし、3病日目からMRSAにより個室隔離となった。意識レベルの改善に伴い、鬱傾向となり自殺願望聞かれるなどリハビリに対して消極的で十分な介入が出来ず、長期臥床によって抗重力筋の筋萎縮による筋力低下を来たした。68 病日目より隔離解除となりリハビリ室での訓練開始。解除時の評価としては右半身麻痺(Br-S: II)、右上下肢の表在覚と深部覚鈍麻(6/10)、体幹の筋出力低下(GMT2)。ADL 動作は概ね最大介助を要し、FIM は運動項目32 点だった。

    【介入方法】

    座位は骨盤後傾しており、物的支持がなければ後方へ倒れてしまう状況であった。ヒトは直立二足歩行であり、立位や歩行の安定性を向上させるには骨盤後傾位の姿勢を改善する必要があると考え、大腰筋を中心に強化した。その為、骨盤が前傾しやすいよう環境調整を行い大腰筋の賦活を促した。立位では左側優位の荷重で体幹は屈曲しているが、内部観察では「真っ直ぐ立ってる。左の手足がかなり力んでる。よく考えたら自分の身体の事がよくわからん。」との発言あり、感覚障害によりフィードバックが上手くできないことで自己身体の認識が出来ていないのではと考えられた為、認知神経リハビリテーションを用いて本人が認識しやすい情報を使用する事で麻痺側の身体イメージの再構築を促した。

    【結果】

    2週間の介入で、体幹の筋力はGMT 2から4まで向上。座位姿勢は安定し、立位における体幹の支持性も向上したことで今後実施する歩行の安定性にも繋がった。立位は正中位付近での保持が可能となり改善認められた。内部観察では「しっかり立てている。前と比べて左側の力が抜けている」と発言聞かれ、外部観察との差異に改善認められた。麻痺側への荷重がしっかりできるようになった事で、起立、移乗動作は全介助から監視レベルとなり、FIM は運動項目48 点まで改善した。

    【考察】

    長期臥床で姿勢の保持と歩行に関係する抗重力筋の筋力低下が著明に認められ、3 ~ 5 週間で50%低下するとの報告されている。また、ヒトの大腰筋の赤筋線維は48%を占め、チンパンジーと比較すると2倍近い差があり直立二足歩行に大きく関与しているといわれている。今回、大腰筋を賦活する為、骨盤後傾位の姿勢を環境調整しながら訓練を行った。その結果、座位は骨盤の後傾が改善され、体幹伸展し脊柱起立筋などの賦活にも繋がり立位姿勢も改善したと思われる。次に、片麻痺患者では体性感覚の求心性情報の欠如が運動の認知過程を変質させるとされ、患者が認知しやすい情報を使用することで身体イメージを再構築し、行為の改善を図った。本症例では各関節の位置情報や足底圧情報の認識は可能であった為、これらの情報を使用し身体イメージの再構築できたことで行為が改善したことで、内部観察と外部観察の差異が少なくなった考えられる。また、今回短期間での筋出力改善が認められるが身体イメージの再構築による認知過程の改善も関与していると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究をするにあたり、ヘルシンキ宣言に則って患者に研究の趣旨を説明し、発表にあたり個人が特定出来ないよう配慮した。

  • 山口 勇気
    p. 26
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    精神発達遅滞児は、知的機能のみならず身体的発達や運動機能にも遅れがあることが知られている。なかでもバランス能力は運動能力のうちで、特に劣っているという報告がされている。また、運動操作が下手であり、身体左右側の一側化が確立していない者が多いことが挙げられる。今回、下肢骨折術後の完全免荷期間にリハビリテーション(以下、リハビリ)介入し、自宅退院に向けて松葉杖免荷歩行訓練を行い、自立レベル獲得までに難渋した症例を経験したためここに報告する。

    【症例紹介および経過】

    13 歳男性。交通事故により受傷。右大腿骨頸部骨折(Delbet-Colonna 分類III型)、骨接合術施行。手術翌日よりリハビリ開始(免荷)。既往歴には肥満症、精神発達遅滞あり。術後3日で平行棒内免荷歩行2往復可能。術後10 日で松葉杖免荷歩行実施してみるが不安定で恐怖心がありステップ不可。術後15 日で松葉杖免荷歩行の最大歩行距離は20m。術後30 日でプッシュアップ( 以下、PU) 訓練と片脚立位訓練追加。術後48 日松葉杖免荷歩行の最大歩行距離は120m。術後60 日で松葉杖免荷歩行は安定してきたがまだ恐怖心あり( 近位見守りレベル)。術後90 日で松葉杖歩行自立レベルまで獲得(恐怖心などの訴えなし)。

    【理学療法所見】

    ( 初期→術後2ヶ月)可動域:右股屈曲70°→ 120°右股外転10°→ 35°、筋力:左下肢GMT4/ 5→4/ 5、右下肢GMT 2/ 5→3/ 5、両上肢筋力:PU 保持5秒未満→ PU 保持20 秒可能、握力:左14kg → 15kg 右7kg →7kg、疼痛:右股運動時痛あり(NRS 5) →運動時痛なし、片脚立位:5秒未満→5秒未満

    【アプローチ】

    松葉杖の使用が初めてであり転倒に対する恐怖心が強くみられたため、後方から介助下での松葉杖免荷歩行訓練を行った。また、上肢をうまく使えずに肘屈曲、体幹前傾し脇当てに腋窩が接触してしまうためPU 訓練を追加した。次に、歩行時に松葉杖が床面に接地したと同時に健側下肢が宙に浮き、跳ねながら移動する歩容になっていたためPU にて上肢へ荷重し下肢を振り子の様に振り出すように繰り返し指導を行った。また、バランス不良のため片脚立位訓練も追加した。

    【結果、考察】

    長期間免荷の中で、松葉杖免荷歩行の自立レベル獲得までに術後90 日を要した。一般的に松葉杖免荷歩行自立までには約4. 9±5. 3日を要し、片脚立位時間が松葉杖免荷歩行自立と関連しているとの報告がある。今回の症例は自立レベル獲得までにかなりの期間を要した。原因として、バランス不良。松葉杖操作のぎこちなさを挙げる。本症例においてもバランス不良がみられた。片脚立位時間5秒未満であり免荷に対しての恐怖心の訴えなどもみられた。そのため、松葉杖歩行訓練が進まなかったと考える。また、松葉杖操作においても、一度教えたことをすぐに理解することができずに翌日には忘れてしまい繰り返し訓練をすることが必要であった。バランス機能の低下・運動操作の理解力低下が重なったことが、今回の松葉杖免荷歩行の獲得に難渋した原因であったと考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本発表はヘルシンキ宣言に基づき本人、家族の同意を得ている。

  • 内田 正巳, 原冨 ゆかり
    p. 27
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに・目的】

    今回、訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)にて児童期に脳幹部出血を発症した症例に対し、小学校復学から中学校就学までの関わりを経験したので、ここに報告する。

    【症例紹介】

    本症例は脳幹部脳動静脈奇形破裂による脳幹部出血により、四肢麻痺を呈した10 代男児である。X 年3 月5 日発症。入院治療、リハビリテーションを経て、同年6 月4 日退院。これまで通っていた小学校へ戻りたいとの強い思いがあり、復学に向けてのリハビリを希望。6 月7 日より訪問リハ開始となる。

    【経過】

    訪問リハ介入時の評価では、左上下肢は不全麻痺で失調症状あるもほぼ実用レベル。右上下肢は麻痺が残存。体幹の失調が著明にみられる。寝返り、起き上がりは自力にて可能。端座位、立位ともに体幹保持が難しく、介助が必要。歩行は短距離なら介助にて可能。普段は車椅子使用を使用し、操作は可能。全身耐久性に乏しく、長時間の座位は困難な状況。児は気分にムラがあり、リハビリに対しての意欲も低い。本人のやる気を徐々に引き出しながら週3 回の訪問リハを実施。介入時の問題点としては、全身耐久性の低下、体幹失調に伴うバランス能力の低下、受け入れる学校側の対応や環境が挙げられた。まずは復学に向け、両親・学校職員・教育委員会・町職員・支援相談員を交え話し合いを行った。セラピストが児の身体状況等を説明し、必要な改修や備品の準備、教室配置等を皆で検討した。また、学校職員には実際の動作をみてもらい、介助方法等の助言を行った。介入1 ヶ月後に母親付添で2 時間程度の学校生活を開始。移動やトイレの介助、学習面でのサポートが必要であった。支援員が配置され、9 月からは通常の学校生活を送る事となった。小学校卒業後は児・両親ともに普通中学校入学を希望。関係機関で協議を行い、対応を検討。中学校へ進学することができた。

    【考察】

    障害児の普通学校への就学においては、児の障害の程度や学校側の人的・物的環境が大きく関係してくる。今回の関わりでは、学校側の受け入れに対するとまどいや不安が感じられ、専門職として学校環境整備や介助方法等に対して期待される事が大きかった。児の身体機能改善と関係機関との協働により円滑な復学支援に繋がった。今後も進学や就職などに向け、自己決定を尊重した多職種協働による介入が重要になると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    ヘルシンキ宣言に基づき、本人と家族に十分な説明を行い、書面上にて同意を得た。

  • 福﨑 美智子, 須山 祥康, 重松 康志
    p. 28
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    近年、理学療法分野でも発達性協調運動障害( 以下DCD) を有する児童についての関心が高まっている。今回、児童発達支援に通所中の5 歳のDCD 児に対し特性に配慮したサーキット活動にて運動経験を積むことで、姿勢が安定し活動性の向上がみられたので報告する。

    【症例紹介】

    3 歳で言語療法を開始し、4 歳でDCD、自閉スペクトラム症疑いの診断を受け作業療法を開始する。その後、家族より「集団行動の困難さ、転びやすい」等の訴えがあり児童発達支援開始となった。人懐っこい男児で誰にでも話しかける。コミュニケーションの困難さや、順番や勝ち負けに対する強いこだわりなどの特性があり、思い通りにならない時などに癇癪がみられる。感覚プロファイルでは触覚、聴覚過敏と低登録が混在し、耐久性・筋緊張に関する感覚処理の難しさがみられた。

    【理学療法評価(2019 年5 月5 歳)】

    生育歴は定頸5 ヶ月、移動はshuffling が主体で始歩1 歳6 ヶ月であった。Beighton スコアは2 点と低値であったが、立位姿勢では股関節の伸展が不十分で腰椎の過度な前弯がみられ、体幹・下肢の粗大筋力の低下が伺えた。歩行はワイドベースで、つま先の支持性は低下し外反足を呈している。平均台歩行や片足立ちは困難であり転倒しやすい状態で、粗大運動の発達レベルは30 ヶ月であった。ADL では衣服の着脱や排泄に介助を要していた。集団活動の中においては易怒性や回避行動が観察された。

    【臨床意志決定過程】

    本児の特性に配慮しながら様々な環境での身体の使い方や感覚の経験を積んでいくことで、集団活動の適応や身体機能面の向上を図ることが出来るのではないかと考え、集団での運動内容や課題を検討した。

    【介入期間】

    2019 年5 月10 日から11 月30 日までの約6 ヶ月間、月に2 回程度の頻度で来所された。

    【介入内容】

    初期の導入として回避傾向のある本児が集団での運動活動に参加しやすいようにルール設定や環境などを配慮した。抗重力活動を取り入れたマット運動やくぐる、渡るなど環境に応じて体を動かすことをサーキット形式で取り入れ、体幹や下肢の機能を高め、徐々に課題の難易度を上げていった。また、家庭や保育園とも取り組む運動課題を明確にしてスモールステップで成功体験を積めるように、情報共有や介入の統一化を図った。

    【結果】

    サーキット活動の目的の一つでもある順番や、最後までやり遂げるなどのルールを守り活動に参加出来るようになった。平均台歩行や片足立ちが出来、転ばずに走れるようになるなど、粗大運動発達レベルは36 ヶ月となった。また感覚プロファイルでは改善はみられなかった。

    【考察】

    乏しかった運動や感覚の経験を補うことで体幹機能の賦活と姿勢制御の発達を促し、協調運動の困難さは軽減したのではないかと考える。さらに運動に対する自信が向上し易怒性や回避行動は減り、課題にチャレンジできることが増えた。これらは小集団の活動でサーキットの流れを習慣化できたこと、家庭や保育園での関りも大きかったと考える。

    【まとめ】

    低年齢でスムーズに運動課題に取り組むことが難しいDCD 児を担当した。児童発達支援の小集団の活動の中で、運動経験を補い運動の習慣化を図ることが出来、運動発達・不器用さの改善を促す事が出来た。今後も運動課題を明確にして更なるアプローチを継続していきたい。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究の計画立案に際し,事前に所属施設の倫理審査員会の承認を得た(承認日2021 年5月7 日)。 また研究の実施に際し,対象者に研究について十分な説明を行い,同意を得た。

  • 松原 健太, 前田 和崇, 脇屋 光宏, 林田 晃典, 宮﨑 健史, 上野 和子, 坂本 紘, 井口 賢, 伊藤 茂, 菅 忍
    p. 29
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    二分脊椎症患者における清潔間欠導尿は症候性尿路感染の発生頻度を減少させることが できると言われている。また、社会生活の自立を促す上でも清潔間欠自己導尿(以下、CISC)の獲得は必要と思われる。二分脊椎症の本児は、今後の社会生活の中でCISC が必要と考えられていたが、泌尿器科主治医より自宅での訓練不足を指摘されていた。小児リハビリテーション(以下、小児リハ)担当によるカンファレンスの結果、小児リハ専門機関への教育入院を勧めたが不安感が強く当院であれば可能と言われた。今回、小児リハの教育入院が未経験の中で自己導尿の獲得までに至った経験をここに報告する。

    【症例紹介】

    小学校高学年、女性。嚢胞性二分脊椎。アーノルドキアリ奇形II型。Hofferの分類4NonAmbulator。Sharrard1 群ThW/C レベル。肥満体形。GMT 上肢5/5。感覚障害Th10 以下脱失。基本動作寝返り自立、起き上がり自立、あぐら坐位自立。BatthelIndex45/100 点、食事10、移乗15、整容5,トイレ動作0,入浴0,平地歩行5、階段0,更衣10,排便0,排尿0。輻輳反射(-)、固視(-)、眼球運動障害下方で虚弱。言語知能発達:LCSA 指数46(4 歳4 か月程度)。

    【経過】

    理学療法と泌尿器科受診は1 歳時から介入しており、日常生活動作獲得や導尿目的に通院をしていた。就学前から外来泌尿器科によるCISC 指導を行っていたが獲得できず現在まで経過し、主治医より本児は自宅での訓練不足を指摘される。中学就学時にCISC が必要であると、母親や学校から相談され小児リハ専門機関への教育入院を勧めたが困難と言われる。当院での教育入院を希望されたが、外来小児リハの教育入院は前例がなかった。教育入院に向けて主治医と看護部に相談し、協力を依頼。入院前カンファレンスを行い、目的や指導内容、注意点の確認を行った。入院後CISC を行う上で会陰部を開きやすくするための開脚が不十分であると評価し、下肢の開脚姿位拡大のために補助具を作成。補助具やポジショニングによる安定した姿勢確保に成功し、CISC の獲得につながった。本児もパンフレットの教育や成功体験、反復訓練により排尿セルフケアを認識し始めた。母親に対しても再度指導を行い、自宅へ退院となる。

    【考察】

    本児のCISC は、体幹の姿勢保持と会陰部を開きやすくするために長座位での股関節屈曲・外転・外旋の拡大が必要であった。理学療法によるポジショニングや補助具のアプローチで姿勢保持ができ、両上肢機能を自由に動かせることがカテーテル挿入につながったと考えられる。また、集中的な指導で排尿セルフケアに対する認識や意識付けを獲得させることもCISC につながり今後の継続のためにも必要である。教育入院は多方面から問題点の抽出や指導を容易にさせ、排尿セルフケアの認識に対しても有効であった。本児が社会自立を目指すために未経験であった教育入院の取り組みは課題が多かったが、理学療法士としてコーディーネーターの役割を果たすことも重要であると感じた。

    【まとめ】

    訓練不足だけでなく、理学療法評価やアプローチを行うことで、CISC の獲得につながる。教育入院は排尿セルフケアの認識に対しても有効であった。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本発表は、ヘルシンキ宣言に基づきご本人・家族に説明し、文章にて同意を得た。

  • 岡村 莉奈, 佐々木 遼, 植田 浩章, 清水 章宏, 小泉 徹児, 近藤 加代子
    p. 30
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    今回,大腿切断後の幻肢によって移乗動作の獲得に難渋した症例を担当した.幻肢の改善を目的に,感覚や身体図式に焦点化した理学療法を実施した結果,幻肢が短縮し移乗動作を獲得したので考察を加えて報告する.

    【症例紹介】

    80 歳代女性(BMI12.6).入院前は独居であり,移動は屋内伝い歩き,屋外は車椅子介助であった.X-1 日に自宅で転倒し救急搬送.右下肢慢性動脈閉塞症と診断され,X 日にA 病院にて短断端(断端長:27cm)での右大腿切断術が施行.X+1 日より理学療法を開始.X+27 日に当院へ転院し,X+46 日より担当となる.

    【初期評価(X+46 日)】

    HDS-R:27 点.断端の組織修復は良好.疼痛評価:部位;(1)断端部,(2)幻肢(断端より15cm,姿勢変動に伴うテレスコーピング現象あり),性質;チクチク,VAS;(1),(2)ともに安静時0/ 動作時40.触覚;軽度過敏,位置覚;重度鈍麻.筋力(GMT);上下肢3/3,体幹2.立位保持時間; 3 秒(片手支持).移乗動作:軽介助;幻肢の影響により,立位時に患側股関節が過屈曲する.それに伴い体幹の過度な前屈と骨盤の後傾が生じるため,重心が後方に移動し臀部の回旋に介助が必要.mFIM;50 点.

    【問題点】

    本症例が移乗動作に難渋する要因として,感覚入力と視覚情報の不一致による身体図式の破綻が最も影響していると予想した.この身体図式の破綻が幻肢を惹起させ,知覚-運動ループの整合性の破綻を助長させると考えた.加えて,過剰な感覚入力が末梢/ 中枢性感作を生じ,過剰な断端痛や幻肢痛を来たしていると推察した.

    【目標設定】

    本症例はhope としてポ- タブルトイレへの移乗自立を挙げていた.そこで,長期目標(3 週間)を移乗自立とした.また,短期目標(1 週間)は立位保持10 秒,見守りレベルでの起立/ 着座能力獲得とした.

    【PT プログラム】

    身体図式の是正を図るため先行研究を基に2 種類の介入を実施した.第一に,感覚識別課題(大住・他;2012)として,断端部の触圧覚の部位の識別,視認を繰り返した.第二に,段階的運動イメージプログラム(Moseley, 2006)を実施した.尚,メンタルローテーション課題は可能であったため,運動イメージ課題とミラーセラピーのみ実施した.また,通法の理学療法を実施する際には,視覚的フィードバックを増加させるよう姿勢鏡を用いた環境調整を実施した.

    【最終評価(X +65 日)】

    疼痛評価:部位;(1)断端部,(2)幻肢(断端より3cm,テレスコーピング現象は軽減),性質;締め付けられる,VAS;安静時0/ 動作時(1) 30,(2) 10.触覚;左右差なし,位置覚;軽度鈍麻.筋力;上下肢3/3,体幹3.立位保持時間;30 秒(片手支持).移乗動作:自立;幻肢の軽減により骨盤前傾の促しが可能,体幹の伸展が得られる.また,患側股関節の伸展が可能となり,前方への重心移動や方向転換が自立となった.mFIM;57 点.

    【考察】

    幻肢は四肢切断後の80%以上に生じ,ADL 獲得の阻害要因とされている.本症例は幻肢により重心移動が困難となり、移乗動作に介助を要していた.そこで,まずは目視下で感覚識別課題を行い感覚情報と視覚情報の不一致の是正を図った.そして,感覚情報の統合と同時に段階的運動イメージプログラムを用いたニューラルネットワークの再構築を図り,知覚-運動ループの是正および身体図式の回復の促進を行った.その結果,幻肢が短縮し,さらに右下肢や骨盤の前傾運動が改善され重心のコントロールが改善されたことで,移乗動作の獲得へ繋がったと考える.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本報告はヘルシンキ宣言に基づいており,対象者に十分な説明を行い,同意を得た.本演題発表に際し,開示すべき利益相反はない.

  • 尾道 陽夏
    p. 31
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    当院では,人工膝関節置換術(以下,TKA)後患者に対し,早期運動機能・運動習慣獲得を目的として術翌日よりベッド上での自主トレーニングを実施し,チェックシートを用いて管理している.諸澄らは術後早期から患者に対し自主訓練を指導,実践させることで退院時の自己効力感が改善し,退院時の歩行機能が良好であったと報告している.本研究の目的は,当院で取り組んでいるTKA 術後患者におけるチェックシートを用いた術後早期からの自主トレーニングの実施が術後歩行能力や心理的側面に及ぼす影響について検討することである.

    【方法】

    対象者は2019 年9 月~ 2020 年3 月の間に当院でTKA を施行した患者36例のうち,関節リウマチ・膝外傷後・再置換術・認知機能低下・運動制限が必要な合併症がある症例、研究の同意が得られなかった症例を除く,25 例(男性7 例,女性18 例,年齢75.2 ± 6.8 歳)とした.各担当者による運動療法に加え,自主トレーニングをチェックシートでコントロールする群(以下,C 群)9 例(男性2 例,女性7 例,年齢73 ± 8.2 歳)とチェックシートを用いない群(以下,NC 群)16 例(男性5 例,女性11 例,年齢76 ± 5.7 歳)の2 群に無作為に振り分けた.C 群の自主トレーニング内容は膝クッションを用いた膝関節屈曲運動,伸展運動,パテラセッティング,ブリッジ,体幹ローテーションの5 項目を各10 回1 日10 セット行うよう指導し,セルフチェックシートを用いて実施した項目へのチェックとNRS の記入を指導した.NC 群の自主トレーニングは本人に任せ適宜行うこととし,チェックシートは用いなかった.両群とも運動後はアイシングを徹底した.検討項目は術前・退院時の安静時NRS,運動時NRS,Timed up and go test(以下,TUG),10 m歩行速度,片足立位保持時間,Hospital Anxiety and Depression Scale(以下,HADS),自己効力感尺度(以下,SE 尺度),歩行器歩行獲得日,杖歩行獲得日として2 群間の比較を行った.統計学的検討にはT 検定とWilCoxson の符号付き順位検定を用い,有意水準を5%未満とした.

    【結果】

    2 群間各項目の術前・退院時の比較において,歩行器歩行獲得日はC 群6.8± 3.4,NC 群10.4 ± 4.5(P

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,当院の倫理委員会の承認を得た.また,事前に対象者から同意を得たうえで十分な説明を行い実施された.

  • 米村 靖矢
    p. 32
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    今回、変形性腰椎症を呈した症例を評価させていただく機会を得た。本症例は、90 歳以上の超高齢者であり、施設に入居されている。初期評価時、左杖歩行にて、右膝関節の膝折れ出現があり、転倒予防のため右腋窩介助下で歩行練習実施していた。居室では、シルバーカー歩行での移動であり、職員が付き添う。Demand は「杖を突いて安全に歩きたい。」であり、膝折れ消失を目指しリハビリテーション(以下リハビリ)を実施した。プログラムとして、関節可動域訓練、重錘バンドを使用した下肢筋力強化訓練(以下下肢筋力訓練)、歩行練習を実施した。しかし、2 ヶ月経過しても膝折れ改善みられなかった。そのため、下肢筋力訓練を中止し、新たに立ち上がり動作練習を取り入れた。

    【方法】

    令和3 年2 月から4 月までの2 ヶ月間、週3 回40 分のリハビリ実施した。プログラムとして、関節可動域訓練、立ち上がり動作練習、歩行練習である。立ち上がり動作練習は、平行棒と垂直に座り、平行棒を把持する。立ち上がり時に、上肢優位になったら終了とし、それを1 セットとした。

    【結果】

    下肢筋力訓練から立ち上がり動作練習に変更したことにより、歩行時の膝折れが消失した。2 月は、連続立ち上がり動作40 回であったが、4 月には連続67回まで増加した。Manual Muscle Testing(以下MMT)では、2 月は大腿四頭筋3/4(右/ 左)であったが、4 月は4/4 と、右側にて改善がみられた。30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30 テスト:平行棒把持で実施)は、2 月は9 回であったが、4 月は13 回であった。Timed up & go test(以下TUG)は、右腋窩介助下で実施し、2 月は32 秒16 であったが、4 月は28 秒31 であった。10m 歩行も右腋窩介助下で実施し、2 月は歩数42 歩:23 秒56 であったが、4 月は歩数39 歩:24 秒69 であった。

    【考察】

    連続立ち上がり動作、MMT、CS-30 テストより、右大腿四頭筋強化することができ、回数も増加した。下肢筋力強化したことにより、歩行中の右膝関節の膝折れが消失したと考える。下肢筋力訓練では、当初は1 ㎏の重錘バンドで実施していたが、変化みられなかったため、2 ㎏の重錘バンドに変更した。しかし、2 ㎏の下肢筋力訓練でも変化みられなかった。これは、下肢筋力訓練はOKC での訓練であり、負荷量が少なかったと考える。立ち上がり動作練習はCKC での訓練であり、負荷量も増加し、OKC に比べて筋出力が向上したことで膝折れ消失に繋がったと考える。柚原は、「下降相は重力方向に対して順方向の運動となり、過度の屈曲による膝折れや転倒を防ぐために下肢関節運動を制動する必要がある。」と述べており、大腿四頭筋の遠心性収縮により筋力強化が図れたと考える。

    【おわりに】

    今回は一症例でしか、立ち上がり動作練習はできていない。歩行中の膝折れは消失したが、ADL 改善みられなかった。今後も、ADL 改善に結びつけたリハビリを実施していく。本院は超高齢者や高齢者が多い超維持期の医療機関であるため、「杖で歩きたい。」や「安全に歩きたい。」という方を対象として、立ち上がり動作練習を実施していき、筋力強化することが可能なのか研究していく。また、本症例はリハビリに対して積極的である。非積極的な症例に対しても有効なのか研究していく必要があると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    ヘルシンキ宣言に則って実施し、得られたデータは個人が特定できないよう配慮した。

  • 立脚後期における股関節伸展機能の低下と足部での過度な蹴り出しに着目して
    濱口 峻, 田宮 史章, 野中 裕樹, 藤井 廉, 田中 慎一郎
    p. 33
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    人工股関節全置換術(THA)術後症例の理学療法において,歩行能力の改善は極めて重要な課題である.THA 術後症例の歩行パターンの特性について,股関節機能の低下を足関節の力発揮を増加させることで代償する傾向にあり,このような股関節と足関節の代償的制御は,ADL 能力に悪影響を及ぼすことが指摘されている.したがって,臨床上,股関節と足関節の協調関係に立脚した介入が重要であると思われるが,THA 術後症例の歩行パターンを改善するための具体的な理学療法は十分に確立されていない.今回我々は,歩行のMidStance(MSt) からTerminal stance(TSt) にかけて,顕著な股関節伸展機能の低下と,足部での過度な蹴り出しを認めた症例を経験した.本症例に対して,運動学的/ 筋電学的特性を定量的に分析し,その代償的制御に応じた一連の理学療法を実践したことで歩行パターンの改善に至ったため,以下に報告する.

    【方法】

    症例は60 歳代の男性であり,40 歳代より続く右股関節痛に対しTHA を施行した.術後4 週時点でFIM 歩行は7 点(独歩自立)であった.歩容は術側のMSt からTSt にかけて股関節伸展角度が狭小化しており,さらに足関節底屈による過度な蹴り出しを認めた.また,「長い距離を歩くと疲れやすい」と内省が得られた.歩行計測は,三次元動作解析装置(KISSEICOMTEC 社製) とワイヤレス筋電図センサー( 追坂電子社製) を用いて,快適速度でのトレッドミル歩行を計測した.解析項目は,運動学的指標として術側のTSt における股関節最大伸展角度と足関節最大底屈角度を算出した.筋電図学的指標としてMSt以降の術側の大殿筋と腓腹筋の積分値を求めた.尚,測定は介入前(術後4週時点),介入4 週間後に実施した.統計解析は,介入前後における各パラメータの比較について,Wilcoxon signed-rank test を用いた.

    【理学療法】

    レッドコードを用いた股関節伸展の関節可動域訓練,殿筋群の筋力増強訓練を実施し,術側股関節の可動域拡大と筋力強化を図った.歩行練習では,殿筋群の活性化に対し,Katoh らの方法に基づいた教示を行い,Initial Contact(IC)からLoading response(LR)時の踵接地の意識付けを行った.底屈筋群の抑制に対しては,Tateuchi らの方法に基づいた教示を行い,MSt からPre swing(PS)時の足関節での過度な蹴り出しを抑制する意識付けを行い,股関節と足関節の相互関係を利用することで,代償動作の修正を図った.介入期間は4週間とした.

    【結果】

    介入前と比較し,介入4 週間後において股関節最大伸展可動域の有意な拡大(p

    【倫理的配慮,説明と同意】

    ヘルシンキ宣言に基づき,対象には十分な説明を口頭で行い,同意を得た.

  • 前田 直子
    p. 34
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    島田らは、ヘルニアの術後リハビリテーションに関して「それぞれの麻痺筋や歩行障害に応じた筋力訓練や歩行訓練を行い、場合によっては装具の装着を考慮する。術後の筋力の回復には数カ月以上の長期を要する場合が少なくない」としている。今回、第4/5 腰椎椎間板ヘルニアにより馬尾神経症状が出現し、歩行障害を呈した症例を担当した。歩行能力の向上を図る為、体幹機能訓練に加えて麻痺筋や感覚障害に対するアプローチ、装具を使用した歩行訓練を行った結果、歩行能力が改善し、独歩にて自宅復帰が可能となった為、ここに報告する。

    【症例紹介】

    30 歳代女性。第4/5 腰椎椎間板ヘルニアによる腰痛、下肢の痺れと筋力低下があり、待期手術を予定していたところ膀胱直腸障害が急速に進行した為、X月Y日にヘルニア摘出術を施行され、リハビリ継続目的でY +20 日に当院入院となった。

    【歩行初期評価:22 病日目】

    単脚支持期:骨盤側方動揺,toe clearance 低下, 視線は常に下向き 両脚支持期:不十分なpush off,foot slap

    【理学療法初期評価:22 病日目】

    MMT( 右/ 左):中殿筋2/2, 大殿筋4/4, 前脛骨筋4/4, 長趾伸筋2/2, 下腿三頭筋2/2, 長母指屈筋2/2, 脊柱起立筋4, 腹直筋3 表在感覚( 右/ 左) 触覚 10点法:臀部中央部1, 下腿外側部8/6, 下腿後面下部3/3, 足底部6/3 10 m歩行:11.12 秒(21 歩)2 本杖 6 分間歩行:317 m ( 休憩0 回)2 本杖 ADL( 移動):室内2 本杖歩行自立 m-FIM:77 点

    【問題点】

    馬尾神経障害によるL4 以下の多恨性症状や廃用による体幹の筋力低下が、歩行時の骨盤側方動揺やtoe clearance 低下、foot slap、不十分なpush off、視線は常に下向きなどの現象に繋がり、歩行障害を呈していた。

    【ゴール設定】

    短期:(1)体幹とL4 領域以下の筋力向上(2) L4 領域以下の感覚障害改善 長期:(1)独歩自立(2)階段昇降 最終:(1)独歩による自宅復帰と復職

    【アプローチ】

    体幹・股関節周囲や下肢の筋力訓練, ステップ訓練, 歩行訓練, 感覚入力を約2カ月間実施

    【歩行最終評価:86 病日目】

    単脚支持期:骨盤動揺減少,toe clearance 改善, 視線も前向きへ 両脚支持期:push off 改善,foot slap 改善

    【理学療法最終評価:86 病日目】

    MMT( 右/ 左):中殿筋3/3, 長趾伸筋3/3, 下腿三頭筋3/2+, 長母指屈筋3/3,脊柱起立筋5, 腹直筋5 表在感覚( 右/ 左) 触覚 10 点法:足底部8/4 10 m歩行:7.5 秒(17 歩) 独歩 6 分間歩行:415 m ( 休憩0 回) 独歩 ADL( 移動):屋内外独歩 m-FIM:87 点

    【考察】

    下肢感覚入力の賦活により視線が前向きになったことや、体幹・股関節周囲の筋力増強による骨盤動揺の減少により単脚支持期が安定。また骨盤動揺が減少したことで体幹や荷重側下肢からのエネルギーが対側下肢へ効率的に伝わるようになった。さらに、下肢筋力増強によりtoe clearance やfoot slap、push offが改善し、ロッカー機能による前方推進が可能となったことで独歩での歩行能力が改善、歩行速度向上にも繋がったと考える。

    【まとめ】

    今回、第4/5 腰椎椎間板ヘルニアにより馬尾神経症状が出現し、歩行障害を呈した症例を担当した。体幹機能訓練に加えて麻痺筋や感覚障害に対するアプローチ、装具を使用した歩行訓練を行った結果、単脚支持期での姿勢が安定し、歩行速度も向上。独歩での移動が可能となり自宅復帰、復職に繋がった。馬尾神経障害に関して田島らは「予後予測は難しいが、基本的に末梢神経損傷ともいえるので、完全麻痺に見えても年単位の時間をかけて回復する場合もある」と述べており、退院後の継続したリハビリテーションも重要となる。今回の経験を今後に活かし、さらに知見を広げていきたい。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本発表はヘルシンキ宣言に則り、実施に際して対象者に十分な説明を行い、同意を得た。

  • 吉澤 隆志, 中田 孝, 吉田 修一, 北村 匡大, 岡本 伸弘
    p. 35
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    リハビリテーション分野におけるタブレット教材を用いたICT 教育の具体的な取り組みとしては,反転授業やインターネットを利用した授業資料配布,演習中の動画撮影などがある.今後より一層ICT 教育が推進されていく中で,iPad 等のタブレット教材を用いた教育効果を検討することは非常に重要である.ブルームのタキソノミーは,認知領域・情意領域・精神運動領域という3 つの領域からなり,教員が学生に授業の教育目標を提示する際に有用である.しかし,教育目標に沿ったICT 活用法の立案を行い,ブルームのタキソノミーに基づきタブレット導入の効果を検討した研究はほとんどない.よって,本研究の目的は,理学療法学科学生の授業にiPad を導入し,ブルームのタキソノミーに基づいた教育効果について検討すると共に,教育目標が達成できているかを検討することである.

    【対象】

    A 専門学校理学療法学科昼間コース1 年生80 名とした.

    【方法】

    A 専門学校において,“基礎理学療法学I “という授業が開講される.教育目標としては,主に理学療法士になるための情意領域の育成である.授業の内容としては,はじめに教員が座学を行い,その内容を基に学生同士で課題の解答を導くための調べ学習やグループワークおよび『車椅子体験』や『片麻痺体験』を行った.また,全体に向けて,班内でまとめた意見の発表を行った.本研究では,学生が調べ学習を行う際にiPad を積極的に使用した.また,『体験』授業の演習場面を学生同士でiPad を使用して動画撮影し班内で動画を共有することを促すと共に,動画を視聴しながらの模倣・介助練習およびグループワークを行うように指導した.また,全体に向けての発表は,iPad で撮影した動画をスクリーン上で再生しながら行った.iPad 導入に関する授業アンケート(以下,授業アンケート)は,中田らが作成したもの(9 項目)を使用した.なお,Q1. ~ Q3. は認知領域,Q4. ~Q6. は情意領域,Q7. ~ Q9. は精神運動領域に該当する内容である.授業最終日に,それぞれの項目に関して0 ~ 10(11 段階)の数字を紙面にて回答してもらった.なお,授業アンケートは無記名とした.統計解析として,授業アンケート結果の関係についてFriedman 検定を用いて調べた.その後,多重比較としてBonferroni 検定を用いて調べた.なお,統計解析にはSPSS Statistics V22.0 を使用し,有意水準は5%とした.

    【結果】

    認知・情意・精神運動領域ごとの授業アンケート合算結果(中央値)は,それぞれ19,24,21 であった。各領域の合算結果についてFriedman 検定を行ったところ有意であり(p

    【倫理的配慮,説明と同意】

    事前に対象に対し,十分な説明を行った.その後,本研究に同意しアンケートに回答した者を研究対象とした.なお,本研究は,所属施設の倫理委員会の承認を得た上で実施した(承認番号FW-20-04).

  • 豊増 達, 松崎 秀隆
    p. 36
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    本邦における働き方改革とは「労働環境」と「生産性」の二つがバランスよく向上していくことを指す.そして,この条件を実現するため各部署の管理者には,法人理念に基づいた教育的指導,管理を計画的に実施することが求められる.しかし,現実には職員の多様なニーズ,新型コロナウイルス感染症やハラスメント対策、有給休暇取得など、考慮すべき課題は多く困難を極める.そこで今回,働き方改革の実現に向け,部署方針と個人目標の明確化に主眼を置いた,人材マネジメントを実施した.結果,意識改革に伴う職場環境の改善および収益に変化を認めるなど,教育,管理運営上の新たな知見を得たため,ここに報告する.

    【対象】

    当院リハビリテーション部に所属する理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の資格を有する保健医療従事者23 名(男性13 名,女性10 名,年齢34.58 ± 9.76歳,平均年齢±標準偏差)である.

    【方法】

    調査期間は2019 年4 月~ 2020 年12 月.部署の取り組みとして,期初に法人理念や行動指針,法人ビジョンを確認し,自身のミッションステートメントを具体的に紙面上に書き起こす作業を実施した.そして,3 か月に一度は目標を再確認する時間を設け,期初に記載した「いま」やらなければならないこと,「これから」やっていくことなど,ミッションステートメントの再確認,修正を行った.また,エンゲージメント12 項目評価表を用い,半年に一度,数値化を実施し,比較検討した.

    【結果】

    自主的に参加する勉強会やボランティアなどの件数は前年度比1.32 倍と積極的となり,部署収益も前年各同月比すべてにおいて増収となった.また,当法人として初めてとなる,筆頭演者での学会登録や資格取得者もいた.エンゲージメント評価では,実施前後の比較において平均1.8 点の向上を認めた.

    【考察】

    働き方改革との言葉も浸透し,多くの企業で人材マネジメントに取り組む動きは加速している.そこで今回,ミッションステートメント,エンゲージメント評価を用いて職員へ働きかける取り組みを行った.ミッションステートメントとは,ミッションは使命,ステートメントは声明・意見で,自身の使命を声明として発信するという意味を持つ.今回,紙面上に声明を記載することで,聴覚だけでなく視覚刺激も含めたフィードバックを定期的に実施した.一般的に法人理念や個人目標は日々の多忙な業務に追われ,見失うことも少なくない.そこで今回,定期的に自省を促したことが,継続した意識付けに繋がったと考えている.さらに,エンゲージメント評価を行い,職員一人ひとりの影響要因を可視化することで,最近接領域でアプローチできたとことも効果的であったと考えている.コロナ禍が拍車をかけ、働き方も多様化している「いま」だからこそ,職員が目標を見失わず,個人だけでなく,職員間でのコミュニケーションを密にし,業務に取り組める職場環境を作る支援体制の構築が管理者には求められる.そして,このような取り組みの継続が,個人パフォーマンスを高めるとともに,職員共有の価値観を生み出し,お互い信頼できる心理的環境を作る支援,管理運営に繋がると考える.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    対象者には,倫理面への配慮として任意性と同意撤回の自由について口頭および文章にて説明し,承諾を得て実施した.なお,本調査研究は,法人倫理審査委員会の承認(E2702)を得ており,開示すべき利益相反はない.

  • 石丸 寛人
    p. 37
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    社会医療法人財団白十字会リハビリテーション部では、専門教育・学術活動・地域講演の3 本柱を担う法人内認定の専門職群として、臨床教育担当者制度を2018 年度より創設し、臨床場面での教育活動を行っている。今回は、急性期病院である、佐世保中央病院(以下、当院)リハビリテーション部における、臨床教育担当者の取り組みを、病棟専任スタッフとしての活動も交え報告する。

    【臨床教育担当者及び、病棟専任スタッフとしての活動内容】

    臨床教育担当者として、(1)臨床場面を中心とした、早期離床に向けたリスク管理など、定期的・継続的なスタッフ教育、(2)がんのリハビリテーション手順書の企画・作成、(3)がんのリハビリテーションメンバーでのミーティングの企画・開催、(4)スタッフ教育のためのがんのリハビリテーション講義動画の作成、(5)緩和ケアチーム看護師向けの勉強会やリハビリテーションスタッフ向けの勉強会での講師、(6)一般職スタッフの学術発表支援、(7)法人内学術集会の企画・運営・講師の実施、また、佐世保中央病院外科病棟専任のリハビリテーションスタッフとしては、(1)外科カンファレンスへの参加、(2)病棟カンファレンスへの参加、(3)緩和ケアチームカンファレンスへの参加を行っている。

    【結果】

    スタッフ教育に関して、治療内容や治療効果の把握、病期に合わせたリハビリテーションの目標設定などの指導や、退院支援への関わり、臨床場面での治療・介助に対する指導などを行った。がんのリハビリテーション手順書に関しては、現在は指導場面を中心に使用しており、今後は、リハビリテーションスタッフが使用しながら、確認できるものとなるよう広報活動を行っていく。がんのリハビリテーションメンバーでのミーティングの中では、各種マニュアルの改訂や、評価項目の検討・周知、症例検討等行い、事例の共有や多職種でのカンファレンスへの紹介に繋げるケースもあった。がんのリハビリテーション講義動画の作成としては、一般職スタッフへ向けの講義動画を作成し、視聴後の確認テストも行っている。各種勉強会については、リハビリテーション部内だけでなく、他職種からの依頼もあり、開催することができた。一般職スタッフの学術発表支援については、学会発表を行うスタッフに対し、抄録、スライド作成のアドバイスを行った。法人内学術集会については、毎年リハビリテーション部での学術集会を企画し、運営やその中での講義を行った。各種カンファレンスへの参加については、カンファレンス参加後、患者担当スタッフへ情報伝達を行い、必要時に指導を行った。

    【まとめ】

    リハビリテーション部スタッフへ指導、教育の視点を持ちながら、臨床教育担当者、病棟専任スタッフとしての役割を行った。臨床教育担当者としては、リハビリテーション部内の教育に携わる専門職として、臨床業務の中で継続的に指導を行うことができること、相談役としての立場が明確となることがメリットではないかと考える。病棟専任スタッフとしては、病棟スタッフと関わる機会が多くなり、報告・連絡が密に行えることで、タイムリーな指導に繋げられること、また、介助指導や病棟での環境調整など臨床場面での指導が行いやすくなったことがメリットとして挙げられる。臨床場面での指導や、指導としての介入頻度が増えることで、一般職のリハビリテーション技術の質向上にも繋がっていくのではないかと考える。今後も、年間計画を立て継続的にスタッフ教育を行い、地域で活躍できるスタッフの教育・育成を行っていきたい。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本報告はヒトを対象としていないため該当せず。

  • 梶原 丘行
    p. 38
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    2020 年度診療報酬改定により、回復期リハビリテーション(以下、回リハ)病棟入院料1 は、リハビリテーション(以下、リハ)のアウトカムを評価する実績指数の基準値が37 から40 に引き上げられた。回リハ病棟入院料1で、質の高いリハを提供し続けるために、より高い実績指数の獲得を図る必要がある。今回、実績指数のマネジメントをする中で、2019 年年度を分析した結果、退院支援と除外対象患者の選出に課題を感じた。そこで、予測実績指数チェック表(以下、チェック表)を作成し、早期より予後予測に基づく円滑な退院支援、適切な除外患者選出を行った結果、チェック表導入前に比べ、在棟日数の短縮と実績指数の向上が図れたため報告する。

    【方法】

    2019 年4 月1 日~ 2021 年3 月31 日に回リハ病棟を退院した患者406 名(運動器疾患356 名、脳血管疾患等50 名、死亡者除く)を対象に調査を実施。回リハ病棟転入後、初回リハ総合実施計画書に基づき、入棟時運動FunctionalIndependence Measure(以下、FIM)と退院時目標運動FIM を用い、運動器疾患60 日、脳血管疾患等90 日で回リハ病棟退院を想定し、リハ担当者がチェック表に記載することを、2020 年6 月から開始した。また、チェック表を基に、回リハスタッフ全員と協議し、予測実績指数40 以下になる患者の中から3 割を除外対象に選出した。チェック表導入前の2019 年度の実績と2020 年度の実績の比較を行った。

    【結果】

    2020 年度平均在棟日数53.8 ± 5.6 日(2019 年度56.8 ± 4.6 日、全国平均67.5 日)、2020 年度平均実績指数57.9 ± 12.1(2019 年度49.1 ± 8.1、全国平均中央値41.8)という結果となり、在棟日数の短縮と実績指数の向上が図れた。また、2020 年度除外対象患者は55 名(運動器疾患47 名、脳血管疾患等8 名)で、実績指数40 未満となる患者の除外適正率84%となり、2019 年度の除外適正率61%から23%向上した。

    【考察】

    2020 年6 月から、チェック表を運用したことで、運用開始以降、在棟日数の短縮と実績指数の向上を図ることができた。その要因として、予測実績指数をリハ担当者間で話し合い、チェック表に記入することが、妥当な予後予測と早期から退院を見据えた介入につながり、介護保険サービスの調整、患者背景にある問題解決など、医師、看護師、医療相談員など、多職種間で連携し円滑な退院支援が行えたことが考えられる。また、マネジメントにおいても、チェック表の運用が、リハスタッフの教育とコミュニケーションのツールとなり、入棟月にのみ行える3 割の除外対象患者の選出が、リハ担当者と協議し、より正確に行えたことも実績指数向上の一因と考える。今後、回リハ病棟入棟月の予測実績指数と、退院時の実績指数の差をリハ担当者にフィードバックし、予後予測の妥当性を更に高めて行くと共に、FIM 利得についても調査を行い実績指数(質)の向上を図って行きたいと考える。

    【まとめ】

    今回、チェック表を使用しリハスタッフの実績指数向上に対する意識付けを行うことで、円滑な退院支援による在棟日数の短縮と、実績指数の向上を図ることができた。また、この実績指数の向上は、より短期間で質の高いリハが提供できたといえる結果となった。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本調査報告は当院の倫理審査委員会の承認(承認番号:第0301 号)を得たものである。

  • 岡 亮平
    p. 39
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    近年の理学療法士増加に伴い、治療手技の標準化は重要な課題である。“脳卒中ガイドライン2015”により促通反復療法(以下、RFE)の科学的根拠が示され、当院理学療法課においても推進していく方針となった。そこで今回、当院における促通反復療法普及に向けた活動を紹介するとともに、アンケート調査による効果判定を行なったため以下に報告する。

    【当院の現状・教育体制】

    当院は4つの回復期リハビリテーション病棟で220 床を有し、そこには約60名の理学療法士が在籍している。法人内にはローテーション制度があり、急性期、回復期、生活期の異なる病期を経験するため、施設間の異動がある。新人スタッフに対しては定型業務の指導としてOJT(On-the-job Training) 指導担当者を配置し、患者業務の指導として副担当制(患者1名に対して1名の先輩セラピストが指導)、チーム制(病棟のセラピストをA・B チームに分け情報共有を図る)を導入している。

    【RFE 普及に向けた取り組み】

    ・指導者の育成:2017:霧島リハビリテーションセンターへ1名出張2019:川平先端リハラボに2名出張・スタッフへの教育・指導:課の勉強会(2 回/ 月)、希望者での勉強会(1回/ 月)練習動画の作成(YouTube での限定公開)・川平先生の実地指導:5回/ 年・ハード面の整備:低周波治療器、家庭用電気マッサージ器を追加購入・外来リハビリ:一部RFE を開始・広報活動:医療機関向けに広報誌を発行し取り組みを紹介

    【アンケート調査】

    ・目的:RFE について当院理学療法士の習得度を明らかにすること。・方法:年度始め(初期)と年度末(最終)の2回実施。主要な7パターンを4段階で選択する。(1:実施できない、2:健常者に実施できる、3:患者さんに実施できる、4:指導ができる)。それぞれを点数化して習得度を算出した。

    【アンケート結果】

    ・初期(2019.4)対象者:55 名 回収数:53 枚 回収率:96.3% 習得度:2.19・最終(2020.3)対象者 50 名 回収数 46 枚 回収率 92.0% 習得度:2.66※初期に比べ最終において習得度の改善がみられた(p

    【倫理的配慮,説明と同意】

    研究の実施に際し,対象者に研究について十分な説明を行い,同意を得た。

  • 当院における骨粗鬆症啓蒙活動の紹介
    篠原 晶子, 池田 章子, 大宮 俊宣, 矢部 嘉浩
    p. 40
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【目的】

    近年、骨粗鬆症に対する治療の必要性が認識されるようになり、我々理学療法士もより効果的な運動指導が求められている。当院は、骨粗鬆症に対する治療を急性期から外来まで積極的に行う一般病院であり、2017 年10 月より骨粗鬆症に対する予防的取り組みとして「こつこつ健康教室」を院内で開始した。そこで今回、骨粗鬆症の啓蒙活動における効果的な運動指導を検討することを目的に、教室に参加した前期高齢者の骨折の有無と身体機能について調査した。

    【対象と方法】

    2017 年10 月~ 2019 年11 月までに当院で開催したコツコツ健康教室は15 回、参加者は171 例(女性143 例、男性28 例)であった。啓蒙活動における指導方法を調査するために、対象者を前期高齢者の女性47 例とし骨折あり群(以下、F 群)と骨折なし群(以下、N 群)の2 群に分け各項目を後ろ向きに比較した。検討項目は年齢、身長、体重、BMI、右握力、FRAX の骨粗鬆症リスク率とした。統計学的手法には順位検定二標本t検定を用い、有意水準を5%未満とした。

    【結果】

    骨折の有無の結果は、F 群13 例(27.7%)、N 群34 例(72.3%)であった。項目別の比較では、年齢はF 群68.9 ± 2.1 歳、N 群68.9 ± 2.5歳、身長はF 群151.1 ± 6.7 ㎝、N 群152.0 ± 5.9 ㎝、体重はF 群48.5 ± 5.8kg、N 群54.9 ± 7.9kg(P

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は当院倫理委員会の了承を得て、ヘルシンキ宣言に基づいて実施した。利益相反はありません。

  • 尾崎 由昂
    p. 41
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    古関らによると「頸髄損傷不全麻痺患者は損傷部高位のみの情報では獲得可能動作の予後予測は困難」と述べている。1) 回復期病院においてはリハビリテーション(以下リハビリ)計画を立案する際、自宅退院が可能か否かという判断は重要なポイントである。今回、担当した頚髄損傷不全麻痺患者の自宅退院に向けて入院期間中に段階的な患者・家族教育を行った結果、介護技術の向上や環境設定、在宅生活に向けた退院支援を経験した。指導内容は障害理解期、介助量軽減期、介護準備期、介護実践期の4 段階に分け行った。その経験を以下に報告する。

    【症例提示、経過】

    60 代男性。診断名はC3、C6 頸髄損傷。発症後4 週目より当院転院。入院前ADL は自立レベルで妻と2 人暮らし。入院時のJapan Coma Scale( 以下JCS): II -20、改良Frankel 分類:B2、American Spinal Injury Association( 以下ASIA):B、MMT: 左右 肩屈曲2 肩伸展、肘屈曲伸展、股屈曲伸展、膝屈曲伸展1、起立性低血圧あり、経鼻経管栄養、バルーンカテーテル挿入、ADL 全介助レベル、FunctionalIndependence Measure 運動項目( 以下FIM):13 点。入院4 週目では意識障害が残存しており、起立性低血圧の影響から離床時間は約10 分であった。積極的なリハビリが困難で、妻に対してリハビリの現状説明を行った。入院6週目から意識障害の改善が見られ日常的コミュニケーションが可能となった。連続離床時間は約20 分可能。コロナ禍にあるため対面のコミュニケーションが取れない中、携帯電話を使用し本人、妻、担当療法士の3 人で直接連絡を取り合う機会を設定した。本人・妻の共通目標を自宅復帰と設定し、移乗動作が今後の課題となった。入院20 週目では経鼻経管栄養やバルーンカテーテルから離脱できた。起立性低血圧の改善が見られ連続離床時間が約2 時間可能となった。食事の経口摂取やトイレ動作などのADL 訓練を中心にリハビリを実施した。妻に対して担当療法士が撮影した介助動画を用いて介助指導を行った。入院22 週目から自宅復帰に向け週に1 回の頻度で院内での介助指導の機会を設けた。入院26 週目のFrankel 分類:C1、ASIA:C、FIM 運動項目は17点、移乗動作は2 点へ向上し、自宅退院となった。

    【考察】

    長期的な回復が予想される頸髄損傷不全麻痺患者は変化に応じた継続的な支援が必要である。入院から6 週にかけて病態が変動しやすく、予後予測が困難であった時期を障害理解期とした。定期的な身体機能評価や家族と連絡を取ることで、状態に応じたリハビリ計画の設定が可能となった。また、本人・家族の心情のサポートを行い、在宅介護における問題点抽出や共通の目標設定が可能となった。この時期に問題点を細分化し、本人・家族と目標を共有することが障害受容に対する理解の一助となったと考える。入院6 週から20 週を介助量軽減期として介助量軽減を目的とした機能訓練を中心に実施した。入院20 週からは介護準備期として、自宅復帰に向けてADL 訓練中心に行った。妻に対しては介助動画を観てもらうことで簡易的かつ専門的に介護方法を学習し、介護イメージの構築に繋がったと考える。入院から22 週からは介護実践期として自宅環境を想定した実際場面での介護を行うことで直接、本人・妻に対して効率良く介護学習が行えた。また、短期間で頻回に介護指導を設定することで介護能力を向上し、福祉用具やサービス内容の再調整が可能となった。段階的に患者・家族と関わることで、たとえ障害が残っても安心して在宅生活を迎えることができ、継続的な家族支援に繋がっていくと考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本症例報告は、症例に対して口頭・書面にて同意を得ている。

  • 岩永 大輝, 黒木 一誠, 森山 祐志, 濱崎 航大
    p. 42
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに、目的】

    近年, 疼痛に対する理学療法は疼痛患者を「一人の個」として捉え, 機能評価に加えて情動面, 認知面, 社会面といった多面性を考慮した包括的アプローチが主体となっている. 今回担当した右膝蓋骨骨折患者は, 病棟ADL は自立レベルだが右大腿部~膝窩部の疼痛が主訴であった. さらに, 疼痛に加えて, 不安・抑うつや運動恐怖の傾向が強く恐怖回避モデルの悪循環に陥りやすいことが推察され, 疼痛に対する間違った知識や考えなどを是正し, 活動性を向上させる必要があると仮説立てた. そのため, 従来の運動療法に加えて, 認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy 以下CBT) を含めた多面的アプローチを行い, 疼痛軽減に至ったため報告する.

    【症例紹介】

    年齢/ 性別:60 代/ 男性. 診断名: 右膝蓋骨骨折. 既往歴: うつ病. 現病歴:2020年4 月中旬に庭の剪定中に約2m の高さから転落し受傷,CT にて転移を認めなかったためニーブレース装着で保存的加療となった. 第1 病日より理学療法介入,4 週間ニーブレース装着で全荷重可能となった. 社会的背景: 高齢の母と2人暮らし,1 年前に教員を退職. 入院前生活:ADL 自立で畑仕事を行っていた. 活動度: 独歩で院内フリー.Hope: 草刈りができるようになりたい.

    【初期評価】

    (第26 病日〜第30 病日)膝関節ROM, 膝伸展筋力, 疼痛の強度はNumerical Rating Scale( 以下NRS),疼痛の性質はrevised version of the SF-MPQ( 以下SF-MPQ-2), 情動・認知面では破局的思考はPain Catastrophizing Scale( 以下PCS), 不安と抑うつはHospital Anxiety and Depression Scale( 以下HADS), 運動恐怖はTampa Scalefor Kinesiophobia( 以下TSK) を行った. 膝関節ROM( 屈曲/ 伸展):95/-5° , 膝伸展筋力( 右/ 左):18.2/26.7kgf, NRS:10/10, SF-MPQ-2:28/200 点,PCS:21/52 点( 反芻6, 無力感11, 拡大視4), HADS:23/42 点( 不安10/ 抑うつ13), TSK:41/68 点. 情動・認知面でPCS のみカットオフ値を下回るもHADSやTSK でカットオフ値を上回っており, 不安・抑うつや運動恐怖といった心理的問題が発生していた.

    【介入方法】

    (第31 病日〜第46 病日)(1)運動療法: 歩行練習, 筋力強化練習.(2)物理療法:L3-4 領域にTENS( 周波数:100Hz, パルス幅:0.1~0.5 μ s, 強度:感覚閾値), ホットパックを20 分併用.(3) CBT: 患者教育( スライドを使用して説明), 目標設定( 草刈りができるようになりたい), ペーシング( 身体活動量計: ライフレコーダGS を使用してモニタリング実施), フィードバック(1 週間後に目標の再設定)

    【最終評価】

    (第47 病日〜第49 病日)膝関節ROM( 屈曲/ 伸展):145/-5 ° , 膝伸展筋力( 右/ 左):20.3/28.8kgf,NRS:1~2/10, SF-MPQ-2:7/200 点,PCS:0/52 点( 反芻0, 無力感0, 拡大視0),HADS:7/42 点( 不安3/ 抑うつ4), TSK:33/68 点. 情動・認知面でいずれもカットオフ値を下回り, 不安・抑うつや運動恐怖の改善を認めた.

    【考察】

    Monticore らは「CBT と運動療法を組み合わせたアプローチは, 痛みの強さ,運動に対する恐怖心, 主観的健康観, 身体機能の改善を認め,1 年後も維持されていた」と報告している. 今回, 運動療法とCBT の複合療法により, 身体機能の改善に加え, 心理社会的背景まで含めた包括的マネジメントに基づいた指導ができた. これらの多面性を考慮した包括的アプローチは疼痛の認知過程の変容に繋がり, 疼痛軽減に奏功したと考える. さらに, 本症例は退院後に草刈りができるようになっており, 痛みのセルフコントロールが可能となっている.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    対象にはヘルシンキ宣言に基づき, 本報告の主旨を口頭および文書にて十分に説明し, 同意を得た.

  • 奥野 由唯, 島崎 功一, 迫田 健一, 豊永 修輔, 菅原 剛, 和田 政範, 山口 佑矢, 福毛 真澄, 須堯 敦史
    p. 43
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    腰椎変性すべり症は、椎間板の退行変性により椎間関節の不安定性が生じ、椎骨が転位し、脊柱管の狭窄を呈する腰椎疾患である。その特徴として、下肢神経症状を伴う歩行障害が出現し、連続歩行距離の減少など、歩行耐久性が低下しやすい。腰椎変性すべり症の理学療法の目的に、歩行持久力の改善が挙げられるが、機能障害と歩行持久力がどのように関連しているかは、不明な点が多く、腰椎変性すべり症患者の歩行持久力向上に向けた理学療法アプローチは確立されていないのが現状である。そこで、本研究の目的は、下肢神経症状を呈した腰椎変性すべり症患者の歩行持久力と機能障害との関連性を明らかにすることである。

    【方法】

    対象は、腰椎変性すべり症と診断され、当院に2020年4月から2021年3月に入院した初回腰椎除圧術・腰椎固定術予定患者52名のうち、本研究に同意を得た35 名(年齢71.3 ± 9.9 歳、男性15 名、女性20 名)とした。手術前より、自力歩行ができない者、呼吸器疾患、循環器疾患を有する者は除外とした。測定内容は、6 分間歩行距離(6MWD)、膝伸展筋力を体重で除した膝伸展筋力体重比とし、その内、筋力の強い方を、強側膝伸展筋力、弱い方を、弱側膝伸展筋力とした。測定には、徒手筋力計(モービィ、酒井医療社製)を用い、固定ベルトを使用して大腿四頭筋の等尺性膝伸展筋力を測定した。動的バランス評価にFourSquare Step Test(FSST)、入院前の下肢痛、腰痛、下肢の痺れの評価にはVisual Analogue Scale(VAS) を使用した。測定は、入院期間中の手術前日に全て行った。6MWD と年齢を含む測定値の相関関係をPearsonの積率相関係数、Spearman の順位相関係数を用いて確認後、6MWD を従属変数、単相間分析にて有意な相関関係を認めた測定値を独立変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行った。統計学的有意水準は危険率5%とした。

    【結果】

    6MWD と有意な相関関係を示したのは、年齢(r = -0.42)、FSST(r=-0.79)、強側膝伸展筋力(r=0.28)、弱側膝伸展筋力(r=0.22) であった。各VAS には相関関係は認められなかった。重回帰分析では、FSST、強側膝伸展筋力が抽出され、FSST( β =-0.742,p < 0.001)、強側膝伸展筋力( β =0.294,p=0.001)、モデルの調整済み決定係数は0.794 (p < 0.001) であった。

    【考察】

    腰椎変性すべり症の歩行持久力については、各VAS との関連性は無く、FSST、強側膝伸展筋力との関連性が認められた。また、神経因性の筋力低下が比較的強く影響していると考えられる弱側膝伸展筋力は、6MWD の関連因子として抽出されなかった。つまり、腰椎変性すべり症の患者においては、動的バランス機能、特に下肢神経症状が強く出現していない側の下肢筋力が維持されれば、歩行持久力には影響しないことが示された。今回の結果から、腰椎変性すべり症患者の歩行持久力の維持向上には、腰痛、下肢痛、下肢痺れ、弱側膝伸展筋力への理学療法アプローチより、神経症状とは直接関連しないバランス機能や強側膝伸展筋力への理学療法アプローチが、歩行持久力の維持向上に繋がると示唆された。また、本研究の結果から感覚障害のみであれば、歩行等のADL 低下に結びつく可能性は低いことが明らかとなった。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究における対象者の個人情報の取り扱いについては、入院前に十分に説明を行い、同意を得た。また、研究の実施においては長崎労災病院倫理委員会の承認( 承認番号:01025) を得て行った。

  • 新穂 輝, 重岡 潤, 野中 裕樹, 藤井 廉, 田中 慎一郎
    p. 44
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    近年,リハビリテーションにおける物理療法の活用として, 代表的な電気刺激療法として神経筋電気刺激療法(NMES)が挙げられる.NMES の介入方法については,課題指向型練習を組み合わせることで介入効果が増幅することが先行研究により報告されている.しかし,NMES のデメリットとして電気刺激に伴う痛みや不快感があり, 患者が痛みや不快感を理由に治療を拒否したと報告されている. 一方,近年では電気刺激療法にかわる新たな物理療法機器として末梢磁気刺激療法(PMS)が注⽬されている.PMS は,電気刺激療法と比較して,痛みを伴うことなく末梢神経や筋を刺激できることや,⾐服の上からでも刺激できるメリットを有する.先⾏研究における介⼊⽅ 法はPMS 単独での介⼊報告が多く,課題指向型練習との併⽤訓練の効果についての報告は極めて少ない.今回,歩⾏時の⽴脚終期(Terminal Stance:TSt)に著しく前⽅推進の停滞を認めた⾼齢⾻折症例に対し,前⽅推進の改善を⽬的とした課題指向型練習とPMS の併⽤訓練を実施し,歩⾏に対する効果・影響を検討した.

    【症例紹介】

    症例は第3 腰椎圧迫⾻折を呈した70 歳代⼥性であった.10 年来の右膝痛を患っており,他院にて右変形性膝関節症の診断を受けていた.歩⾏はFIM6 点(杖歩⾏⾃⽴ )であったが,右殿筋群の筋⼒低下,右股・膝関節の可動域制限などの⾝体機能の低下による右下肢の⽀持機能低下に伴い,TSt における前⽅推進に著しい停滞を認めた.

    【理学療法介⼊】

    右下肢 TSt における前⽅推進の改善を⽬的として,通常の理学療法に加え,右下肢の立脚初期(Initial Contact: IC)〜⽴ 脚中期(Mid Stance: MSt)を想定したステップ訓練と殿筋群に対するPMS の併⽤訓練を実施した.訓練の⽅法は,磁気刺激装置 Pathleader(IFG 社製)を⽤いて,殿筋群が活動するとされる IC 〜 MSt にかけて右殿部に刺激を加えた(刺激強度:90-100,刺激周波数:35-40).ステップ訓練において支持脚への荷重とともにフットスイッチを踏ませることで,荷重と刺激を連動させた.運動負荷量はBorg Scale13(ややきつい)レベルで統一した.1 回の介⼊時間は20 分間実施し,介⼊期間は1 週間とした.

    【歩⾏解析】

    計測は,三次元動作解析装置(KISSEICOMTEC 社製)を⽤いた.解析項⽬として,推進⼒の運動学的指標である Trailing Limb Angle(TLA: ⼤ 転⼦から第 5 中⾜⾻頭へのベクトルと垂直軸のなす⾓度)を算出した.介⼊前後における TLAの変化について,Wilcoxon signed-rank test を⽤いて⽐較検討した.

    【結果】

    介⼊前と比較して,介⼊後にTLA の有意な増加(p

    【倫理的配慮,説明と同意】

    ヘルシンキ宣⾔に基づき,対象には⼗分な説明を⼝頭で⾏い,同意を得た.

  • 酒匂 雄基, 廣重 愼一, 山下 裕
    p. 45
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【目的】

    日本人の8 人に1 人が慢性腎臓病(以下CKD)といわれ、人口の高齢化に伴い今後増加することが予測されており、当院でもCKD 患者と関わる機会も増えている。なかでも高齢CKD 患者は、病態が改善しても自宅退院が困難となる場面を臨床で経験することは少なくない。本研究目的は、当院における高齢腎臓内科患者の自宅退院の可否に関係する因子を分析し、その特徴を整理し、当科におけるリハビリテーションの課題を考察することである。

    【対象】

    2020 年4 月から2020 年12 月までに当院腎臓内科に入院し、リハビリテーションの処方があった患者178 名のうち、65 歳未満、入院前生活が自宅以外、入院中の転科または死亡退院、データの欠損がある患者を除外した89 名を対象とした。

    【方法】

    診療録より対象者の年齢、入院日数、入院前の日常生活自立度、入院時と退院時のBarthel index(以下BI)、入退院歴の回数、入院時BMI、入院時MNASF、入院時血液データ(eGFR、Cr、BUN、Alb、CRP、Hb)、退院先を調査した。次に対象の退院先が自宅であったものを自宅群、転院であったものを転院群に分類した。自宅群、転院群を目的変数とし、各調査項目を説明変数とし、Mann-Whitney のU 検定用いて比較検討を行った。統計解析はEZR を使用し、統計学的有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    対象者の中央値の年齢は77 歳、男性49 名、女性40 名、eGFR:10.7mL/min/1.73m2、入院期間21 日であり、入院契機病名はCKD の急性増悪(46%)、電解質異常(7%)、ネフローゼ症候群(6%)、尿路感染症(6%)、急性腎障害(6%)、腎盂腎炎(4%)、その他(21%)であった。自宅群は65 名(73.0%)、転院群は24 名(26.9%)に分類され、Mann-Whitney のU 検定では、入院日数(日)自宅群14/ 転院群32、入院時BI(点)60/5、退院時BI(点)90/47.5、入院前の日常生活自立度(%)ランクJ:64.6/25.0、CRP(mg/dL)0.7/6.8、入院時BMI(kg/m2)22.7/21.2、入院時MNA-SF(ポイント)12/10 で有意差を認めた。

    【考察】

    本研究結果より、当院における高齢腎臓内科患者の特徴として、入院契機としてはCKD の急性増悪のみならず感染症等様々な要因で入院し、約3割の患者が自宅退院困難となっていた。また自宅退院の可否に関係する因子として、入院前の生活機能低下、入院時のADL 能力低下・炎症反応・低栄養が示され、入院時の腎機能を示す血液データに関係は認めなかった。このことから、これらの因子をもつ患者は、急性期病院から直接自宅退院することに難渋することが予測されるため、より早期に廃用症候群の予防等を目的としたリハビリテーションの介入を実践できるよう、関係診療科との連携や情報共有等を強化し、円滑な自宅退院に寄与できるよう努めていきたい。また、先行研究よりCKD 患者は慢性炎症、食欲不振といった多彩な症状の出現や身体面ではProtein energy wasting に陥りやすいと報告されており、今後はフレイル・サルコペニアも含めた分析も必要であると思われた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者における個人情報の保護に十分留意し、データを匿名化した上で行った。

  • 鮫島 隼人, 吉田 盛児, 前川 聡一朗, 豊永 哲至, 本島 寛之
    p. 46
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【目的】

    糖尿病患者(DM:diabetes mellitus) では筋力低下、神経障害による感覚機能の低下によるバランス障害を引き起こす事が報告されている。そのためロコモティブシンドローム( ロコモ) をきたしやすいことが言われている。本研究ではDM の有無がロコモティブシンドローム・骨格筋量に与える影響を検討した。

    【方法】

    当院糖尿病啓発活動に参加し独歩可能かつ研究に同意を得た糖尿病患者16 名(1 型/2 型:1 名/15 名、男性/ 女性:4 名/12 名、年齢:71.5 歳(60.3-75.0)、BMI(Body Mass Index):24.9(23.0-27.0))、非糖尿病患者21 名(男性/ 女性:8 名/13 名、年齢:68.0 歳(63.0-71.0)、BMI :22.1(20.0-24.1))を対象とした。骨格筋肉量指標としてSMI(Skeletal Muscle Index) をInBody470(InBody 社)を用い生体電気インピーダンス法にて測定した。ロコモティブシンドロームの評価としてロコモ25 を使用した。ロコモ25 は各項目0 ~ 4 点の5 段階、得点を0( 障害なし) ~ 100( 最重症)点で計算した。判定は日本整形外学会によるロコモ度判定法に従いロコモ度1 以上となる総得点7 点以上をロコモ状態と評価した。統計学的解析として2 群間の比較にはBrunner-Munzel 検定,Fisherの正確確率を使用し、相関分析にはSpearman 順位相関係数を使用した。有意水準は5% 未満とし、統計ソフトにはHAD(Ver16) を使用した。

    【結果】

    SMI の値は2 群間で有意差は認めず(P=0.623)、ロコモを呈している割合も2 群間で有意差を認めなかった(P = 0.222)。ロコモ25 の総点数「7.5(5.0-12.5)VS5(3.0-7.0):P

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は所属施設の倫理審査によって承認され( 承認番号:20191114-01),本研究の参加に対して事前に研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱いについて対象者に説明し,書面による同意確認を行った。

  • 久毛 勇樹, 川上 幸輝, 中尾 優子, 片岡 英樹, 山下 潤一郎, 三浦 幸, 小出 優史, 岩﨑 格, 吉武 孝敏
    p. 47
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    心臓リハビリテーション(心リハ)において,運動療法はその中核をなしており,中高年の心筋梗塞患者に対しては前期回復期より集団運動療法が実施されるのが一般的である。しかし,高齢心不全患者においては,症状や治療反応性に個人差が大きい,複数の慢性疾患に罹患している等の理由から集団運動療法が困難なことが少なくない。そのため,当院では入院期高齢心不全患者に対する運動療法はウォームアップおよびクールダウンも含め,他動的に実施するストレッチングや全身調整運動で個別に対応してきた。一方,慢性心不全患者の再入院率は高く,その要因の一つに運動アドヒアランスの不良が挙げられている。また,集団運動療法は,不安を軽減する心理的効果や,運動に対する自己効力感を向上させる効果を有することが報告されている。そのため,当院では運動アドヒアランスの向上を目的に,2018 年より入院期高齢心不全患者に対してもウォームアップおよびクールダウンを集団運動療法にて実施するよう変更した。しかし,高齢心不全患者における集団運動療法の効果に関する報告は少なく,入院早期からの集団運動療法の多面的効果は不明である。そこで,本研究では入院期高齢心不全患者に対する運動療法効果の基礎資料を得ることを目的に,心リハ前後のウォームアップおよびクールダウンを集団運動療法にて実施した効果を多面的に検討した。

    【方法】

    対象は,2017 年1 月から2019 年12 月に急性心不全または慢性心不全の急性増悪で入院期心リハを実施した除外基準を除いた76 例(中央値85 歳;78.3-87.0 歳)である。心リハ室訓練開始後,ウォームアップおよびクールダウンを個別で他動的に実施し,通常の心リハを実施した従来群41 例と,ウォームアップおよびクールダウンを集団でセラピストが行う体操を模倣しながら実施し,通常の心リハを実施した集団群35 例に振り分けた。集団運動療法の実施において,対象が高齢者のため転倒には十分配慮し,座位での体操を中心として実施した。また,骨関節疾患等の合併によりセラピストが実施する体操の模倣が困難な患者に対しては,部分的に補助を行った。対象の属性とベースライン(BL)データはカルテより後方視的に聴取し,それぞれ入院時のデータを採用した。心リハ評価は,認知・精神心理・QOL の評価としてMini-MentalState Examination(MMSE),Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS),EuroQol 5 Dimension(EQ-5D)を,身体活動能力の指標として膝伸展筋力,歩行速度,TUG,6 分間歩行距離(6MWD)をそれぞれ心リハ室訓練開始時と退院時に評価した。統計学的解析には対応のあるt 検定およびWilcoxon の符号付順位検定,χ 2 検定を用い,BL における各群の比較,各群内の入退院時評価を比較した。

    【結果】

    基本属性は,年齢,BMI,在院日数,CONUT,入院前BI は両群間に有意差は認められなかったが,併存疾患指数および心リハ開始までの日数は集団群が従来群に比べ有意に低値であった。MMSE,膝伸展筋力,歩行速度,TUG,6MWD は,両群とも有意に改善を認めた。HADS の不安およびEQ-5D は,従来群では有意な変化を認めなかったが,集団群では有意な改善を認めた。

    【まとめ】

    ウォームアップおよびクールダウンを集団運動療法で実施することは,個別介入の運動療法に比べ,不安や健康関連QOL を改善する可能性がある。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    研究にあたり,ヘルシンキ宣言に基づき対象者の個人情報の取り扱いについて個人情報保護法を遵守した。

  • 川口 禎仁
    p. 48
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    心疾患にフレイルを合併すると生命予後が不良であることは周知の事実であるが、心疾患患者の約30%が抑うつ状態、不安などを引き起こし、死亡や心イベント発生など予後に大きく影響している。今回、僧帽弁閉鎖不全症による慢性心不全フレイル患者の術後心臓リハビリテーション( 以下心臓リハビリ) を担当し、経過の中で生じたうつ傾向により一時心臓リハビリを中断したが、多職種介入が奏功しフレイル改善、復職に至った症例を担当したため報告する。

    【症例紹介】

    70代男性。重度僧帽弁閉鎖不全症に対し他院にてMICS-M V P 施行したADL 自立の患者。職業は建築業(1 年ほど休職中)。術後20日目に当院へ回復期心臓リハビリ目的に転院となった。

    【経過】

    術後50日目に当院退院し、引き続き外来心臓リハビリに移行した。術後80日ほど経過した頃から原因不明の労作時倦怠感、胸部症状、食欲不振がみられ次第にうつ傾向へ。症状に伴う不安感から頻回受診などあり。外来心臓リハビリを一時中断し入院精査したが明らかな心不全傾向は認めず、冠動脈病変も否定。その後一定期間の自宅療養後に外来心臓リハビリを再開した。その後原因不明の症状は軽快し非監視下運動療法へ移行。改訂J-CHS 基準にてフレイルからロバストへの改善を認めた。CPX再検し復職へ。

    【考察】

    今回、術後の精神的不安定な時期を脱し心臓リハビリ再開、フレイルの改善、復職まで可能となった症例を経験した。本人の手術に対する症状改善の期待度が高かったことも術後の精神的落胆に強く影響した印象であったが、看護師、薬剤師、心理師など多職種連携による心不全教育や精神的ケアだけでなく、運動療法自体もうつ傾向改善に寄与した一因であったと推察する。また数値的変化を提示することで本人のセルフエフィカシーを高めることも、復職に向けたモチベーション維持に効果的であったと考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本演題に関して、対象者に十分な説明を行い書面による同意を得た本演題に関して、筆頭演者に開示すべき利益相反はありません

  • 小林 道弘, 槌野 正裕, 荒川 広宣, 岩下 知裕, 堀内 大嗣, 山田 一隆
    p. 49
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【はじめに】

    2010 年4 月の診療報酬改訂により、「がん患者のリハビリテーション料」が新設され、がん患者に対するリハビリテーション( リハ) の重要性が認識されている。がんに対する外科領域では術後の安静が長期化すると、呼吸循環系や骨格筋の廃用を生じる。そのため、早期から離床を図り術後合併症、廃用を予防し、早期退院に努めることが周術期リハとして重要となる。しかし、大腸がん患者における術後在院日数の要因については明確になっていない。そこで、今回周術期大腸がん患者の術後在院日数と関連する要因を検討した。

    【対象と方法】

    2019 年5 月から2020 年3 月に大腸がん根治術を施行した67 例( 男性39 例、女性28 例、平均年齢62.7 ± 13.6 歳) を対象とした。対象の部位内訳は回盲部3 例、結腸16 例、S 状結腸9 例、直腸39例であった。対象者の術後在院日数の中央値を算出し、標準群(21日未満:男性18 例、女性15 例) と遅延群(21 日以上:男性21 例、女性13 例) に分類した。術前要因( 年齢、prognostic nutritionalindex[PNI]、skeletal muscle mass index[SMI])、手術要因( 術中出血量、手術時間、術式[ 腹腔鏡or 開腹])、術後要因( 術後合併症の有無[Clavien-Dindo 分類I以上]) を電子カルテより後方視的に抽出した。身体機能要因は、握力、片脚立位時間、6 分間歩行距離を術前と術後1W で測定し、術前に対する術後1W の変化率を算出し用いた。統計学的検討は、Mann-Whitney U 検定、カイ2 乗検定を用い、有意水準5% 未満で比較した。

    【結果】

    結果値は、標準群:遅延群で記載する。年齢67(23-85) 歳:64(32-82) 歳、PNI48.1(37-59.2):48.15(33.7-56.4)、SMI6.65(4.8-8.3)kg/m2:7.1(3.7-9.2)kg/m2 では有意差を認めなかった。術中出血量30(3-235)ml:357(3-1738)ml(p < 0.01) と手術時間235(143-404)分:277(87-440) 分(p < 0.05) はいずれも遅延群で有意に高値であった。術式は、開腹1 例(3%)、腹腔鏡32 例(97%):開腹19 例(56%)、腹腔鏡15 例(44%) で有意差(p < 0.01) を認めた。握力変化率98(77-112)%:94(57-160)%(p < 0.05)、片脚立位時間変化率100(25-360)%:100(22-180)%(p < 0.05)、6 分間歩行距離104(79-154)%:88(47-200)%(p<0.05)はいずれも遅延群で有意に低値であった。合併症の有無は、合併症発生率27%:62% であり有意差(p < 0.01)を認めた。

    【結語】

    過去の研究でも周術期大腸がん患者で高侵襲手術症例は、術後の骨格筋量低下を生じやすいことを報告している。今回の結果からも、手術要因は身体機能回復率や合併症発生率に影響を与え、術後の在院日数を長期化している一因となっていることが示唆された。当院の周術期リハは、ドレーン類が全抜去された日を基準に、レジスタンストレーニングと有酸素運動を開始している。しかし、高侵襲な手術症例ほどより早期から機能回復訓練を行うことで、術後在院日数の短縮につながるのではないかと予測される。今後、症例数を蓄積し検証していくことで、周術期リハのパスを見直していきたいと考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は当院倫理委員会の承認を得ている。( 承認番号20-07)

  • 坂田 祐也
    p. 50
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/03
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    【症例紹介】

    60 歳代男性。右利き。転倒し左肩を強打。外側後方に軽度の脱臼を伴う左上腕骨外科頚骨折(Neer 分類2-part 骨折)と診断された。受傷日より三角巾とバストバンドにて固定し、受傷後8 日目に髄内釘固定法による骨接合術を施行された。その際三角筋、棘上筋は侵襲を受けた。術後1 日目より理学療法士介入しCodman 運動を開始。術後13 日目に自宅退院。術後2 週目に肩関節他動運動、術後4 週目より自動運動・抵抗運動を開始した。

    【評価とクリニカルリーズニング】

    術後4 週目の評価時の主訴は「手を上げると痛い」であった。左肩関節前外側の鋭痛であり、Numerical Rating Scale( 以下NRS) は4 だった。範囲は限局的で、挙上時の鋭痛であることから機械的ストレスによる疼痛と仮説を立てた。疼痛は再現性があり、red flag やyellow flag は疑われないため理学療法適応と判断した。視診では胸椎後弯、翼状肩甲を認めた。円背姿勢は肩甲胸郭関節の機能を妨げる要因となるため、肩甲帯全体の筋力評価を実施した。徒手筋力検査は菱形筋2、前鋸筋2 でありその他は概ね3 ~ 4 であった。腱板機能検査は棘上筋2、小円筋2、棘下筋2、肩甲下筋3 であったが、肩甲骨を徒手的に固定すると筋出力は全体的に3 へ向上した。これらの筋収縮では痛痛は認めなかった。その為、腱板は侵襲や不動による廃用と、肩甲骨の不安定性により機能低下が生じていると考えた。次に左肩関節自動屈曲は95°にて主訴と同部位に鋭痛が生じたが、筋力評価にて収縮時痛は認めない為、非収縮性組織に問題があると考えた。触診では骨頭の前上方偏位を認めた。関節副運動検査では骨頭の背側滑りに低可動性を認めた。試験的介入として、骨頭を徒手的に背側方向に誘導した状態で自動屈曲を行うと疼痛はNRS2 へ軽減し105°まで改善が得られた。同様に骨頭の偏位を徒手的に修正しながら他動屈曲を実施すると、自動屈曲の105°を超えて110°まで挙上出来たが、肩関節近位外側の腋窩神経皮枝領域に疼痛が出現した。性質は鈍痛でNRS3 であり、後方関節包が伸張される外転、2nd 及び3rd 内旋の他動最終域でも同領域に疼痛を認めたことから、拘縮した後方関節包の伸張ストレスによる関連痛と考えた。受傷時に後方関節包が損傷し、炎症と不動によって線維化した影響と考えた場合、骨頭偏移の原因に後方関節包の拘縮があるという所見として矛盾しないと考えた。以上のことから、自動屈曲時の疼痛は腱板および肩甲胸郭関節の機能低下に加え、後方関節包の拘縮により骨頭偏位が生じたことで、機械的ストレスとして肩峰下インピンジメントが生じたと推察した。

    【介入内容および結果】

    外来理学療法は1 週間に2 回の頻度で実施した。まず後方関節包の拘縮改善が必要と考え、初期は関節モビライゼーション、肩甲上腕関節周囲組織の他動ストレッチを実施した。可動域の改善に合わせて腱板と肩甲胸郭関節の機能訓練を並行して実施し、自主訓練も指導した。それにより術後15 週目の評価時は自動屈曲135° ( 健側140° ) へ改善し疼痛は消失した。

    【結論】

    肩峰下インピンジメントは様々な原因で生じると言われている為、評価に基づいた推論が重要と考える。本症例はクリニカルリーズニングにより、腱板と肩甲胸郭関節、後方関節包の問題をとらえてアプローチした事で、肩峰下インピンジメントが改善し可動域の向上に繋がったのではないかと考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    症例には本報告の趣旨を十分に説明し同意を得たうえで、当院の研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号学21-0408)。

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