【はじめに】
今回, 断続的な心房細動(以下:af)のため, 心不全・脳血流量低下・心原性脳梗塞へのリスク管理が必要な前頭葉皮質下出血を呈した症例を担当した. 本症例はaf の既往歴があり, 発症前は抗凝固薬を服薬していた. しかし, 脳出血を起こした為, 抗凝固薬を服薬しない事を選択していた. リスク管理と運動療法のバランスを考慮し, 訓練を行った結果, 日常生活動作(以下:ADL)の獲得へ繋がった為報告する.
【症例紹介】
80 歳代男性診断名: 左前頭葉皮質下出血現病歴:2020/09/X 仕事中に構音障害と右上下肢麻痺出現.A 病院に救急搬送.CT 所見で左前頭葉皮質下出血の診断で保存的加療.39 病日目に理学療法目的で当院へ転院.既往歴: 発作性心房細動, 気管支喘息, 前立腺肥大症職業: 医師
【初期評価】
JCS: I -1 安静時バイタルサイン: 心拍数140~160 拍/ 分, 頻脈の自覚症状無し. 心電図モニターではaf 及び心室性期外収縮散発,SpO295~96% , 血圧120-130/70-80 mmHg,nohria stevenson 分類:warm&dry 上田式12 段階グレード: 上肢2,手指1,下肢1, 表在及び深部感覚: 上下肢の軽度鈍麻,modifiedashworth scale(以下MAS):0, 高次脳機能障害: プッシャー症候群, 注意障害,運動性失語, 基本動作・ADL 全介助,FIM:23 点(運動:13 点, 認知:10 点)
【入院初月~3 ヶ月目】
断続的なaf 波形でHR は160 拍/ 分~50 拍/ 分.Dr.HR120 拍/ 分以下で離床指示. 問題点として, 心不全・脳虚血・心原性脳梗塞があり, 理学療法では,ROM,促通反復療法, 低周波治療, 電動サイクルマシンをベッド上や車いす乗車にて実施. バイタルサインが安定している時は, 長下肢装具(以下KAFO)を使用し高座位, 立位保持, 少量の歩行訓練を実施. 頻脈を伴うaf や, 血圧低下時は,休憩や臥床し観察した.
【3~4 ヶ月目】
af が頻度が減少すると心電図モニター離脱. 離床機会増えた. 問題点として,心不全や脳血流量低下のリスクは低下したが, 心原性脳梗塞のリスクは配慮が必要であった. 高座位, 立位保持訓練などスタティックなものの後に少量の歩行訓練を行った.
【5 ヶ月目以降】
af の頻度追えず, 理学療法中に検脈や聴診にて確認. 頻脈と血圧低下のため気分不良となり, 心電図モニター装着する場面もあった. 理学療法では機能訓練からADL 訓練へと移行. ダブルクレンザック装具作成,ADL 訓練で車いす移乗・自走が見守りレベルとなり205 日目に退院となった.
【最終評価】
JCS: クリア, 安静時バイタルサイン: 脈拍数70~80 拍/ 分.SpO295~96% , 血圧130-140/70-80 mmHg nohria stevenson 分類:warm&dry 上田式12 段階グレード: 上肢3,手指3,下肢4, 感覚: 上下肢の軽度鈍麻,MAS:(R/L)下腿三頭筋3/0, ハムストリングス3/0, 上腕二頭筋2/0, 高次脳機能障害: 運動性失語軽度残存, 基本動作: 起き上がり, 座位保持, 移乗動作見守りFIM:52 点(運動:27点, 認知:25 点)
【考察】
理学療法を進める上で,af が断続的に出現するため, 心不全, 脳虚血, 心原性脳梗塞に対するリスク管理と, 理学療法の両立に難渋した. 入院初月~3 ヶ月目は,リスク管理の観点からベッド上での電動サイクルマシンや低周波,KAFO を使用した静的な立位保持などを中心に実施した.4 か月目以降は ,af 減少し, 心不全や脳虚血のリスクは軽減したが、抗凝固薬を服用していない為, 心原性脳梗塞には十分な配慮が必要であった. そのため, 訓練前後の神経症状の変化にも配慮した. 結果, 合併症を起こさずに移乗動作見守り, 車いす自走可能となり,退院の運びとなった.
【まとめ】
高齢化が進む中, 個々の病態管理が必要な患者の対応が増えると考えられ, その病態に応じたの理学療法を提供していきたい.
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき患者の保護に十分に配慮し, 本報の趣旨を説明し同意を得た.
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