主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに、目的】
脳卒中は成人に最も多くみられる疾患の一つである。特に脳梗塞は高齢者のActivities of Daily Living (ADL) 低下と関連していることから、ADL の回復は重要な課題である。また、脳卒中後の骨格筋量減少は機能的転帰を悪化させることから、脳卒中患者のADL 回復には筋肉量を増やす必要がある。これまで、脳卒中患者の骨格筋量増加に関する報告は散見されるが、脳梗塞患者を対象に骨格筋量増加と機能的転帰について検討した報告はない。そこで、本研究では、脳梗塞リハ患者において、骨格筋量増加が機能的転帰に与える影響を検討することを目的とした。
【方法】
本研究は回復期リハ病棟の65 歳以上脳梗塞患者を対象にした後ろ向き観察研究である。調査項目は基本属性に加え、栄養関連項目(Mini Nutritional Assessment Short-Form、エネルギーやたんぱく質摂取量)、Skeletal muscle mass index (SMI)、リハ量(分/日)、Functional Independence Measure (FIM) 等を評価した。SMI は、体組成分析装置(In BodyS10、バイオスペース社製)を使用した生体電気インピーダンス法で測定した四肢筋肉量を身長の2 乗で除して算出した。測定肢位は安静臥位とした。
入退院時でのSMI 増減をもとにSMI 増加群とSMI 維持・低下群に群分けし、群間比較を行った.主要アウトカムは運動FIM 利得(退院時運動FIM―入院時運動FIM)とした。運動FIM 利得に対し、SMI 増加の他に年齢、性別、入院時FIM 等を説明変数とした重回帰分析を行った。また、SMI 増加か否かを目的変数としたロジスティック回帰分析を実施した。統計処理にはR (version 1.31; Saitama Medical Center, Jishi Medical University) を使用し、有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者は172 名、平均年齢は79.6 ± 7.6 歳、男性85 名(49.4%)、女性87 名(50.6%)、SMI 増加群102 名(59%)、SMI 維持・低下群は70 名(41%)だった。SMI 増加群はSMI 維持・低下群と比較して、入院時BMI(22.6± 3.6 VS. 24.2 ± 3.4、P = 0.004)、入院時SMI(5.4 ± 1.0 VS. 6.1 ± 1.2、P < 0.001)が低かった。また、SMI 増加群はSMI 維持・低下群と比較して、在院日数(90.4 ± 37.5 VS. 78.0 ± 39.1、P = 0.038)が長く、たんぱく質摂取量(1.06 ± 0.26 VS. 0.97 ± 0.23、P = 0.041)が多く、運動FIM利得(25.0 ± 12.1 VS. 20.9 ± 12.4、P =0.035)が高かった。リハ量(139.5± 22.1 VS. 136.0 ± 27.4、P =0.356)には有意差を認めなかった。
交絡因子で調整した運動FIM 利得に対する重回帰分析の結果、SMI 増加は、運動FIM 利得の増加と関連していた(coefficient: 3.335、95%CI =0.127to 6.543、P =0.042)。SMI 増加に対するロジスティック回帰分析の結果、性別(coefficient: 0.267、95%CI =0.060 to 0.468、P =0.010) と入院時SMI (coefficient: -0.184、95%CI =-0.296 to -0.071、P =0.002) が関連していた。
【考察】
SMI が増加した患者は、運動FIM 利得が高かった。Nagano らは、脳卒中患者の回復期リハ病棟での骨格筋量増加は機能的転帰を改善させると報告しており、脳梗塞患者に絞った本研究においても同様の結果であった。ADL の低下と関連がある脳梗塞患者においても回復期リハ病棟入院は骨格筋量増加に好影響を与え、身体機能の回復を促進する可能性がある。
また、入院時のSMI が低い患者はSMI の増加率が高かった。このことから、脳梗塞発症前の筋肉量が少ない高齢者ほど、リハ後の骨格筋量の増加が期待できる可能性がある。さらに、SMI の増加は女性の方がより困難であることが示された。したがって、脳卒中発症前の筋肉量が低下している患者や女性は脳梗塞後のリハをより多く必要とする可能性が考えられた。
【倫理的配慮、説明と同意】
当研究は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守し、当院研究倫理審査会によって承認(ID: 21-27)され、ヘルシンキ宣言に従って実施した。