主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに】
胸郭出口症候群は、症状が多彩で診断基準も曖昧である。そのため、理学療法評価にて原因の特定と効果的治療の選択をする必要がある。また、神経は過度に圧迫や伸張を加えられると症状を誘発する。mobilization は神経へのアプローチにも用いられるが、外来リハの介入頻度は少ないため、日常での導入が重要である。今回、mobilization を導入したセルフエクササイズを行ったことで、症状改善につながったため報告する。
【症例紹介】
対象は左胸郭出口症候群と診断された30 代男性。職業は医師であり、手術時に左腕を挙げると痺れと疼痛が出現することを主訴とする。現病歴は、ジムでバーベル上げをした際に左腕に違和感を覚え、その後、腕を回すと症状が出現した。症状が改善しないため、受傷14 日目より当院外来リハを開始した。
【経過と評価】
初回介入(受傷14 日目):左母指、示指の痺れと疼痛を主訴とし、安静時でも症状がみられた。視診で円背肢位であった。整形外科テスト陽性、斜角筋の圧迫、肩甲骨下制で症状増悪があった。Neurodynamic test では、肩甲骨下制以外の操作で症状増悪はなかった。その他、頚部操作等行ったが、症状を再現する肢位の特定には至らなかった。2 回目( 受傷21 日目):安静時症状は軽減し、症状を誘発する動作として、頚部後屈動作で最も再現性が得られ、さらに左側屈を加えると増悪した。頸椎分節運動では、C4PA で症状が著明に出現し、C5PA では頚部後屈しても症状は出現しなかった。3 回目( 受傷28 日目):整形外科テストで陰性となった。頚部後屈では症状出現せず、左側屈を加えると出現した。4 回目( 受傷35 日目):評価上症状みられず、日常生活でもみられないため、外来リハ終了とした。
【セルフエクササイズの内容】
初回介入後、安静を目的に日常生活での左上肢の使用を避けるように指導した。2 回目介入後、C4/5 に対し、頸椎mobilization を指導し、また頚部~肩甲帯にかけての神経の走行に対し、神経mobilization を指導した。3 回目介入では、さらに姿勢の修正を指導した。4 回目介入後は、セルフエクササイズの継続を指導した。
【考察】
本症例は、急性症状を呈しており、安静時症状がみられることから、初回介入時点では、評価による原因部位の特定には至らなかったと考えられる。そのため、安静にして刺激を与えないこととした。2 回目介入時は、安静時症状が軽減したことで、症状の局在化に至ったと思われる。頸椎後屈、特にC4/5 での操作によって症状の増減を認め、また日常生活における症状の再現性がみられた。このことから、症状の誘因として胸郭周囲の問題ではなく、頚部C4/5 での神経根の圧迫がもっとも疑わしいと考えられる。また、Neurodynamic test で肩甲骨下制でも陽性となることから、頚部~肩甲帯にかけての伸張も刺激となっている。3 回目介入時は、症状も軽減しており、持続的効果があったと判断した。頸椎、神経mobilization の目的は、神経への刺激を軽減することであり、日常生活の中で行うことで、症状軽減または予防、さらには持続的効果につながったと考えられる。
【結論】
評価にて原因部位を特定することで、mobilization を導入したセルフエクササイズによる症状改善が得られやすい。
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告はヘルシンキ宣言に基づき、対象者に同意を得た上で、当院の研究倫理審査委員会で承認を得た。( 承認番号: 学220402)