九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: P-69
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ポスター12
脳卒中片麻痺患者の反張膝に対する長下肢装具装着の即時効果
吉田 大地廣中 浩亮堀江 崇人冨田 誠金古 翔太川崎 恭太郎田代 耕一日高 健二脇坂 成重遠藤 正英
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抄録

【はじめに】

脳卒中後片麻痺を呈し、随意性は保たれている方に対し短下肢装具を作製するも反張膝が残存することがあり、下肢装具の選定に難渋するケースも少なくない。今回、初期から反張膝を認める症例に対し、立位での関節角度による姿勢分析と荷重評価を行い、装具の適正を評価した。その結果、長下肢装具を装着することで即時的に立位での反張膝が軽減したため、以下に報告する。

【症例紹介】

発症14 病日にリハ目的にて当院転院となった60 代男性で、BAD で左内包後脚に低吸収域がみられていた。発症21 病日の評価は、Brunnstrom recovery stage 全てⅤであり右片麻痺を呈していた。上下肢の表在・深部感覚軽度鈍麻、Modified Ashworth Scale はハムストリングス・下腿三頭筋1、他動での右足関節背屈角度は5°であった。TCT75 点、FAC4、BBS44 点、FIM117 点(運動82 点、認知35 点)で、高次脳機能障害は見られなかった。裸足の立位姿勢では、麻痺側の反張膝と股関節の過伸展がみられた。

【方法】

発症21 病日に、立位にて右側の肩峰、大転子、膝関節裂隙、外果、第5 中足骨頭にランドマークを貼付し、右側から矢状面の裸足・短下肢装具・長下肢装具の静止画像を撮影した。長下肢装具は、足部がシューホーンブレースで初期屈曲角度を底背屈5°に設定し、膝継手はSPEX で膝屈曲10° までの制動が可能となるよう設定した。短下肢装具は、大腿カフ・膝継手は取り外し、長下肢装具の足部と同様のシューホーンブレースを使用した。同時に、足圧モニターインソールPit(リーフ社製)を用いて、それぞれの足圧分布と左右の下肢荷重率を測定し、10 秒間の立位保持の左右の平均値を代表値とした。その後、静止画像から各々股関節、膝関節、足関節の関節角度を測定した。測定にはimageJ を使用し、同部位を3 回測定した平均値を出し、裸足と長下肢装具、裸足と短下肢装具の各関節角度の測定値の差異を算出した。

【結果】

裸足と比較し長下肢装具の股関節角度は屈曲1.4°、短下肢装具の股関節角度は伸展2.0°であった。長下肢装具の膝関節角度は屈曲3.5°、短下肢装具の膝関節角度は屈曲4.0°であった。長下肢装具の足関節角度は背屈2.8°、短下肢装具の足関節角度は背屈3.4°であった。Pit での下肢荷重率は、裸足では左76.7%、右23.3%、短下肢装具では左47.4%、右52.6%、長下肢装具では左43.5%、右56.5%であった。

【考察】

静止画像にて関節角度による姿勢分析を行った結果、裸足の立位では、長下肢装具や短下肢装具と比較し反張膝と股関節の過伸展を認めていた。各装具装着下では反張膝は軽減したものの、短下肢装具では股関節伸展が+2.0°と股関節での代償がみられていた。一方、長下肢装具では股関節角度が屈曲1.4°となりそ短下肢装具と比較し約3.4°の股関節伸展を制御する結果となった。その理由として、長下肢装具では装具が大腿まで覆うため、短下肢装具よりも股関節での代償を抑制できたのではないかと考える。併せて、立位での麻痺側荷重は裸足の23.3% から短下肢装具使用し52.6%、長下肢装具使用で56.5% に増加し、反張膝や股関節の過伸展を抑制しつつ適切な姿勢調整にて、無意識下での荷重が促せたのではないかと考える。よって今回、随意性が保たれているものの初期から反張膝を認める症例に対し、長下肢装具を使用することで、股関節の代償も考慮した上で反張膝を即時的に軽減し、荷重を促せる可能性が示唆された。

【倫理的配慮、説明と同意】

本研究は、ヘルシンキ宣言の規定に沿って研究の主旨及び目的を本人に対し十分に説明し、同意を得た。

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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