主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに】
坐骨神経麻痺患者の下垂足に対しては、軟性装具を含む足関節底屈制動力の小さい短下肢装具(AFO)を用いることが多い。AFO の底屈制動力は対象者の機能障害を補う役割があるが、過小では歩容の悪化につながり、過大になると歩行時の違和感を招く。油圧式足継手付短下肢装具(油圧AFO)は油圧制動により滑らかな歩容獲得が期待できるが、従来のAFO(4 ~5 万円)と比較し高価(13 万円程度)であるため臨床での処方判断に難渋することがある。今回、歩行障害を呈する亜急性期坐骨神経麻痺患者に対し、底屈制動力の小さいプラスチックAFO と油圧AFO を比較検討し、処方に至ったため報告する。
【症例紹介】
52 歳男性。身長173cm、体重80.6kg、BMI:26.9kg/m 2 。診断名:左寛骨臼骨折の術後。障害名:左坐骨神経麻痺による歩行障害。既往歴:バージャー病。現病歴:仕事中にトラックの荷台から転落し受傷。救急搬送となり骨接合術を施行。術後19 日にリハビリ継続目的で当院に入院。社会的情報:独居生活で、仕事は出荷・配送業務。入院前ADL・IADL:独歩で自立。入院時評価:HDS-R:28 点、著明な関節可動域制限なし、筋力(MMT)は左足関節背屈が0、左足関節底屈2 であった。左下肢は完全免荷であった。ADL はFIM:94 点(運動59 点、認知35 点)、BI:50 点であった。
【介入】
入院初日より介入を開始し、術後7 週目より徐々に荷重量を増やし、術後13 週目より全荷重となった。裸足歩行では遊脚時に股関節屈曲による代償で躓きを防止し、立脚初期はつま先接地が見られた。装具療法の適応と判断し、プラスチックAFO(Pacific Supply 社製オルトップAFO)と油圧AFO(Pacific Supply社製ゲイトソリューションデザイン)を用いた。裸足、オルトップAFO、油圧AFO それぞれの歩行を10m 歩行(時間・歩数)、6 分間歩行(6MD)を用いて評価した。評価は裸足、オルトップAFO、油圧AFO をランダムに用い、裸足のみ2 日、オルトップAFO、油圧AFO は3 日実施した。評価は歩行練習前に実施し、装具以外の理学療法内容に違いはなかった。歩行時の本人の感想は随時聴取した。
【経過ならびに結果】
裸足時の10m 歩行は9.0 秒(17 歩)、8.6 秒(17 歩)で、6MD は195m、210mであった。オルトップAFO使用時は10m歩行が8.6秒(17歩)、7.6 秒(15 歩)、7.8 秒(15 歩)で、6MD は293m、310m、302m であった。油圧式AFO 使用時は10m 歩行が7.5 秒(15 歩)7.4 秒(15 歩)、7.4 秒(15 歩)で、6MD は358m、370m、399m であった。オルトップAFO、油圧AFO ともに立脚初期の踵接地がみられた。オルトップAFO 使用時は踵接地後にフットスラップがみられたが、油圧AFO ではみられなかった。本人の感想は「油圧式AFO は歩きやすく右下肢に近い感覚で歩ける」であった。油圧AFO を処方され理学療法継続し、退院後は復職に至った。
【考察】
2 つの装具とも即時効果が得られたが、特に油圧AFO 使用における長距離歩行の改善が大きかった。フットスラップの消失は立脚初期から中期のスムーズな重心移動を可能にし、長距離歩行時の推進力として働いたと考える。これは継手の機能だけでなく、足底部のカットライン位置が影響した可能性もある。脳卒中患者の屋外活動維持・向上には6MD が350m 以上必要という報告があり、油圧AFO の使用には意義があったと考える。装具処方の際は、短距離だけでなく長距離歩行の評価も重要である。
【倫理的配慮、説明と同意】
症例には十分な説明を行い、発表の了承を得た。