九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: O-03
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口述1
入退院を繰り返す高齢心不全患者の特性および心機能と身体機能が再入院に与える影響
野中 裕樹大池 貴行藤井 廉前田 聡一郎田中 慎一郎田平 一行
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キーワード: 高齢心不全, 再入院, SPPB
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抄録

【はじめに、目的】

日本は世界でトップクラスの超高齢社会に突入している.高齢化に伴い心不全パンデミックが問題となっており,日本において2030 年には心不全患者が130 万人に達すると報告されている.心不全患者の問題点として,再入院率の増加,医療費の増加,短期間の複数回の入院などが挙げられる.超高齢社会に突入している日本において高齢心不全患者の再入院の要因を調査することは極めて有益であると思われる.しかし,再入院に関する過去の報告では平均年齢が60 歳代から70 歳代が多く,日本の現状を考慮すると一般化可能性に乏しい.そこで本研究では入退院を繰り返す高齢心不全患者の特性を明らかにし,再入院に関連する要因について調査した.

【方法】

2017 年11 月から2022 年4 月までに地域密着型病院に急性増悪で入院した心不全患者338 名を対象に,年齢,性別,body mass index (BMI),在院日数,リハビリテーション開始日,New York Heart Association(NYHA)心機能分類,Charlson Comorbidity Index(CCI),併存疾患,薬剤,心・腎機能,栄養状態,膝伸展筋力,握力,Short Physical Performance Battery(SPPB)を調査した.各データはχ2 検定,Mann Whitney-U 検定,ロジスティック回帰分析を使用して分析した.

【結果】

基準を満たした110 名の患者(平均年齢:85.5 ± 7.2 歳)が,過去1 年以内に心不全急性増悪で複数回の入院を経験している再入院群32 名と,非再入院群78 名に分類された.再入院群の患者は非再入院群と比べて年齢や性別,BMI やリハビリテーション開始日に有意な差は認められなかったが,再入院群は有意に在院日数が長い結果となった.本研究に取り込まれた対象者全員がNYHA 心機能分類Class ⅡおよびClass Ⅲに分類され,再入院群の方が有意に高い重症度であった.CCI において2 群間に有意差を認め,再入院群は多くの併存疾患を有していることが明らかとなった.心機能指標である左室駆出率,腎機能のいずれも有意差は認めなかったが,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)に関しては再入院群で有意に高い値であった.ヘモグロビンおよびGeriatric Nutritional Risk Index においては2 群間で有意な差は認めなかったが,アルブミンは再入院群で有意に低値を示した.身体機能に関して,膝伸展筋力と握力,SPPB において再入院群で有意に低い値を示した.その後,年齢,性別,BNP,SPPB を説明変数に選択したロジスティック回帰分析の結果,再入院に関連する独立因子としてBNP とSPPB が抽出された.

【考察】

多変量解析の結果,BNP とSPPB が独立因子として抽出された.先行研究によりBNP は下肢骨格筋量や筋力との間に有意な負の相関を示しており,心不全患者の予後予測因子の一つとして報告されている.また,SPPB の低い心不全患者は,退院後の日常生活で必要とされる心負荷の増加により再入院の可能性が高くなる可能性がある.そのため,心不全患者に対する治療として,心機能と身体機能双方の改善を図ることが重要で,退院時のBNP およびSPPB は再入院リスクを予測する上で重要な変数であると考えられる.

【結論】

過去1年以内に心不全増悪による再入院を経験した患者は入院期間が長く,多くの併存疾患を持ち,心不全の重症度やBNP が高く,身体機能が低いことが明らかとなった.その中でも心不全の再入院に関連する要因として,BNP とSPPB が重要である可能性が示された.

【倫理的配慮、説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に則って実施し,倫理委員会の承認(承認番号;H30-3)を得た.参加者に対して,本研究の趣旨,本研究への参加拒否や同意撤回の自由,その際に不利益を受けないことを説明し,同意を得た.

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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