九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: O-04
会議情報

口述1
大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術術後に6分間歩行が可能となるまでの日数に影響する因子の検討
宮川 幸大藤江 亮太瀧口 裕斗新井 善雄長澤 淳大野 暢久吉村 有示渡邊 雄介愛甲 純也石丸 智之大野 太輔甲斐 辰徳吉川 和也大井 拓帆加藤 正和
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】

先行研究にて、大動脈弁狭窄症(AS)に対する待機的大動脈弁置換術(SAVR)術後の転帰(自宅退院、転院)に影響する術後因子として6分間歩行が可能となるまでの日数が認められ、receiver operating characteristic(ROC 曲線)にて術後8 日以上日数を要した場合に転院となる傾向を認めた。そこで今回、SAVR 術後の転帰に関連する因子である6分間歩行が可能となるまでの日数に影響する因子について検討を行なったので報告する。

【方法】

2017 年1 月から2021 年3月までの期間に、当院心臓血管外科にてAS に対してSAVR を施行した174 例のうち、緊急手術7例、在院死2 例、入院前に他施設に入院中であった9 例を除いた156 例(73 ± 8 歳、男性85例、女性71 例)を対象とし、後方視的に検討を行なった。

6分間歩行が可能となるまでの日数(7 日以下と8 日以上で群分け)を従属変数とし、術前因子(年齢、性別、栄養状態CONUT、サルコペニアの有無、BMI、5m 歩行速度、握力、フレイルの有無、NYHA、BNP、左室駆出率)、既往歴(心不全、不整脈、高血圧、糖尿病、脂質異常症、腎機能低下、透析、呼吸器疾患、脳血管疾患)、喫煙歴、手術関連因子(アプローチ方法、手術時間、体外循環時間)、術後因子(人工呼吸器装着時間、術前後体重差、抜管後酸素投与時間、ペーシング時間、ドレーン挿入時間、合併症の有無、術後リハ開始までの日数、術後端座位開始までの日数、術後歩行開始までの日数、術後歩行自立獲得までの日数)を独立変数としロジスティック回帰分析を行なった。

なおロジスティック回帰分析を行うにあたり、まず単変量解析を行い、p 値0.1 未満の変数についてロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5% とし、多重共線性に配慮して行った。

次に有意な関連性を認めた独立変数について、ROC 曲線を行いカットオフ値を算出した。

【結果】

6 分間歩行が可能となるまでの日数に影響する因子として、腎機能低下の既往(OR:4.97、95%CI:1.03-23.9、p=0.04)、フレイル(あり)(OR:4.25、95%CI:1.08-16.7、p=0.04)、5m 歩行速度(OR:1.51、95%CI:1.04-2.20、p=0.03)、術後歩行開始までの日数(OR:3.81、95%CI:1.84-7.90、p<0.01)について有意差を認めた。

次にROC 曲線の結果より、5m 歩行速度4.9 秒以上(AUC:0.7)、Clinical Frailty Scale(CFS)4 以上(AUC:0.8)、術後歩行開始までの日数が3 日以上(AUC:0.8)の場合に6分間歩行が可能となるまでの日数に8 日以上要す傾向を認めた。

【考察】

腎機能低下に伴う代謝異常による筋蛋白分解系の亢進や炎症性サイトカインの増加などにより、腎機能低下が進むにつれてサルコペニアやフレイルの割合が増え、運動耐容能の低下がみられるとされており、今回の研究においてもこれらの要因が術後6 分間歩行が可能となるまでの日数に影響を与えている一因となっていることが示唆された。

5m 歩行速度4.9 秒以上、CFS4 以上、術後歩行開始までの日数が3 日以上に該当する場合には、特に術後リハビリの頻度や時間を増やし、離床を速やかに進め、早期に6分間歩行が可能となる運動耐容能を獲得することで、自宅退院に繋げることができると思われる。

【まとめ】

今回の研究では、SAVR 術後における6 分間歩行が可能となるまでの日数に影響する因子として、腎機能低下の既往、フレイル、5m 歩行速度、術後歩行開始までの日数が関係していることがわかった。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は当院臨床研究審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:22041151)

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
前の記事 次の記事
feedback
Top