主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに】
脳卒中ガイドライン2021 では,膝伸展筋力や股関節周囲筋が十分でない脳卒中患者に長下肢装具(以下KAFO)を使用することが推奨されている.また,下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)Ⅰ・Ⅱの場合にはKAFO が作製され,Ⅴ以上の場合には短下肢装具(以下AFO)が作製されることが多いことも知られている.しかしながら,BRS Ⅲ・Ⅳの中等度麻痺の場合にKAFO とAFO のどちらを作製するべきかについては,一致した見解は得られていない.実際に,当院においても下肢BRS Ⅲ・Ⅳの患者にどちらの装具を作製するか悩むことが多いため,BRS 以外の指標も参考に装具を選択することが必要であると考える.そこで今回,BRS Ⅲ・Ⅳの脳卒中患者を対象に,BRS 以外の身体機能が装具選択の一助となり得るかについて検討した.
【方法】
対象は,2018 年4 月1 日から2021 年3 月31 日に当院へ入院し,下肢BRS がⅢまたはⅣで,身体機能の評価データに欠損がなかった脳卒中片麻痺患者91 名のうち,下肢装具を作製した84 名(男性38 名,女性46 名,年齢73.8 ± 12.3 歳,BRS Ⅲ:39 名,BRS Ⅳ:45 名)とした.身体機能の指標にはBRS、Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の下位項目(股関節屈曲,膝関節伸展,足パット,深部腱反射,筋緊張,触覚,位置覚,腹筋,静的座位,非麻痺側大腿四頭筋筋力,可動域),Berg Balance Scale(BBS),Functional Ambulation Categories(FAC)を採用し,診療情報記録を後方視的に調査した.統計学解析にはR コマンダー4.1.3 を用い,作製された装具の種類(KAFO・AFO)と身体機能の指標のReceiver Operatorating Characteristic(以下ROC)曲線を作成し,感度・特異度・カットオフ値・Area under Curve(以下AUC)を算出した後,AUC 0.8-1.0 の指標を抽出した.
【結果】
KAFO 作製群は71 名(男性33 名,女性38 名,74.1 ± 12.8 歳),AFO 作製群は13 名(男性5 名,女性8名,72.6 ± 9.5 歳)であった.発症から装具完成までの日数は,KAFO 作製群:41.9 ± 45.6 日,AFO 作製群:42.5 ± 13.0 日であり,入院から装具完成までは,KAFO 作製群:10.2 ± 4.4日,AFO 作製群:13.3 ± 6.6 日であった.ROC 解析の結果,AUC 0.91 以上の指標は椅子座位からの立ち上がり(感度93.3,特異度81.6,カットオフ値2.6,AUC 0.91)であった.また,AUC 0.8-0.9 の指標は,SIAS の股関節屈曲(100,67.6,3.6,0.89),腹筋(100,49.3,1.6,0.84),膝関節伸展(66.7,81.7,3.6,0.82),BBS の着座(93.3,80.3,1.6,0.90),移乗(93.3,83.1,2.6,0.89),立位保持(86.7,87.3,2.6,0.88),左右の肩越しの振り向き(80.0,83.1,0.6,0.85),上肢前方到達(80.0,84.5,0.6,0.85),閉眼立位保持(80.0,81.7,0.6,0.83),閉脚立位保持(73.3,87.3,0.6,0.82),FAC(93.3,73.2,1.6,0.85)であった.
【考察】
ROC 解析の結果,高精度に判別可能とされるAUC 0.91 以上の指標として,BBS の椅子からの立ち上がりが抽出され,そのカットオフ値が2.6 であったことから,患者が手を使用してでも起立を1 回で行えるかどうかが,KAFO とAFO のどちらを作製するかの判断に寄与する可能性が示唆された.加えて,SIAS の3 項目とBBS の7 項目,FAC もAUC 0.8 以上であったことから,これらの指標もBRS Ⅲ・Ⅳの患者の装具選択時の参考となる可能性が示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理委員会の承認を得た後(2017041003),収集したデータを連結不可能匿名化して分析を行った.