主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに】
脳卒中患者は発症後の時間経過により痙縮などの身体機能障害が変化する。脳卒中治療ガイドライン2021 において「歩行障害」の中に「装具療法」が独立して位置づけられ、脳卒中者の装具療法は標準的な治療となっている。反面、処方(作製)後のフォローアップについては標準的な仕組みがあるといえず、脳卒中者の病態変化に対応できているとはいえない。今回、短下肢装具作製後のフォローアップを受けず装具不適合となっていた脳卒中片麻痺患者に対し、装具を再作製するとともに院内の装具フォローアップの仕組みを構築し支援したため、知見を含めて報告する。
【症例紹介】
69 歳男性、身長:158cm、体重:56.5kg、BMI:22.63kg/cm 2 。診断名:脳出血後遺症、障害名: 右片麻痺、現病歴: 脳出血発症後12 年経過。約5 年前に作製したプラスチック短下肢装具( 背屈遊動、底屈制限) の不適合により当院外来を受診し、装具再作製及びボツリヌス毒素療法の目的で入院。主訴:再作製前の装具に対し「重たい、歩きにくい」等の発言あり。Br.stage:Ⅲ- Ⅲ- Ⅲ。筋緊張:動作時に亢進し膝伸展と内反尖足出現。10m 歩行:25.7 秒25 歩、歩容: 右立脚期に反張膝出現し、つま先への荷重が困難で、右股関節伸展不足で体幹前傾の代償あり。装具作製時の歩行動画がなく、歩容の変化は詳細に確認できなかった。
【本症例の装具療法に関連する課題】
①装具作製後の身体機能変化に対応するフォローアップの仕組みがなかった。
②歩行状態を視覚的に比較する仕組みがなかった。
【課題解決に向けた取り組み】
①フォローの仕組みについて
装具外来を立ち上げ月2 回の運営を開始し、装具作製後の受診ルールを設けた。装具手帳を作成し、定期評価項目と次回装具外来来院日を明記する項目を設けた。
②歩行時の動画の管理について
情報部門と連携し、動画を電子カルテと連動できる仕組みを構築した。動画はインターネット内で電子カルテに無線送信できるようにした。動画送信時に患者ID を付与することで、電子カルテ画面から直接閲覧できるようにした。
【結果】
腓腹筋(内・外側)とヒラメ筋にボツリヌス毒素を施注し、集中的な理学療法と装具療法を実施した。装具納品時に装具手帳を発行した。10m 歩行は22.7 秒26 歩となり、歩容は麻痺側への荷重量が増加し反張膝出現が軽減した。18 日間の入院を経て自宅退院となり、装具外来でフォローアップを開始した。定期評価項目は、右足関節ROM、大腿および下腿周径、筋緊張(足背屈)、10m 歩行(時間・歩数)、装具適合状況、歩容(動画)とした。装具外来受診時は装具手帳を持参するように説明した。退院1 ヶ月後に装具外来を受診し、新しい装具に対して「足にフィットして軽くなった」「歩きやすい」と発言があった。1 ヶ月毎に計4 回の装具外来受診を継続し、歩行速度と歩容は大きな変化なく経過している。
【考察】
装具外来を運営することでリハ専門医と療法士が協働でフォローアップすることが可能となった。装具手帳に定期評価項目と次回来院日を明記したことは、装具外来の継続受診につながると考える。また、担当が変わっても同じ視点での継続評価が可能となり、電子カルテと連動した動画を併用することで歩容の変化が容易に観察でき、脳卒中者の細かな病態変化に対応できると考える。耐用年数をふまえた装具再作製やボツリヌス毒素療法の併用などを含め、下肢装具使用者に対するフォローアップの仕組みは重要であり、装具手帳を活用した地域連携の構築は喫緊の課題である。
【倫理的配慮、説明と同意】
本症例には報告の目的と意義、データの取り扱いについて十分な説明を行い、同意を得た。