九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: O-35
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口述6
慢性肛門痛を呈する症例の疼痛と心理的因子の関係について
堀内 大嗣槌野 正裕荒川 広宣小林 道弘岩下 知裕米川 寛隼高野 正博高野 正太
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キーワード: 慢性肛門痛, PCS, PDAS
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抄録

【はじめに】

当院では神経因性骨盤臓器症候群(Neurogenic intrapelvic Syndrome: 以下NIS)や機能性直腸肛門痛と診断されて入院される症例が多い。これらの疾患は痔核や裂肛など肛門部に器質的な問題はみられないが慢性的に肛門痛を呈する特徴があり、ほとんどの症例に対して医師から理学療法を処方され介入をしている。理学療法評価として以前は身体機能の評価を中心に実施してきたが、慢性肛門痛を呈する症例は痛みの破局的思考により恐怖や不安から低活動となっている症例が多い。慢性疼痛と心理的因子に対する報告は腰痛や変形性膝関節症等に関する報告は多くみられるが、慢性肛門痛と心理的因子に対する報告はみられない。今回、慢性肛門痛を呈する症例の疼痛と破局的思考が生活にどの程度影響を与えているかを調査したので報告する。

【方法】

2021 年3 月~2022 年3 月でNIS、機能性直腸肛門痛(痔核や裂肛などの器質的疾患を伴わない)等の慢性的に肛門痛を呈し理学療法が処方された16 症例(男性3 例、女性13 例平均年齢64.00 ± 20.40 歳)を対象とした。

入院時に立位時の肛門痛のNumerical Raring Scale:NRS、痛みの破局化の程度を評価する指標であるPain Catastrophizing Scale:PCS、疼痛を呈する期間(単位: 月)、疼痛生活障害評価尺度Pain Disability Assessment Scale:PDAS、Barthel Index:BI の各項目を評価した。これらを後方視的に電子カルテより抽出し、各項目をスピアマンの順位相関係数を用いて検定を行った。

【結果】

肛門痛とPCS の総合点数、PCS とPDAS に正の相関がみられた(肛門痛とPCSの総合点数p <0.05 rs=0.592 で相関あり。PCSの総合点数とPDAS p <0.01 RS=0.791 で強い相関)。肛門痛とPDAS、PDAS とBI は相関みられず、その他の項目も相関はみられなかった。

【考察】

肛門痛とPCS の総合点数において相関を認めた。これは慢性肛門痛を呈する症例は、強い肛門痛を呈するほど重度な破局的思考を呈している可能性があると考えられる。清本らによると「重度PCS群では痛みが有意に強く、不安や抑うつが強かった。また、ADL も有意に低下していた。この破局的思考の重症度に影響する要因は、運動時痛とADL の低下であることが示唆された」と報告している。今回の研究では肛門痛とPCS、PCS とPDAS には相関がみられたが、BI との相関はみられなかった。今回の対象者の平均年齢は64.00 歳± 20.40 と若い症例が多く、BI のADL 項目は自立している症例が多かったことが要因と考えられる。しかし、PCS とPDAS に相関があったことから重度の破局的思考を呈している症例は日常生活に苦痛を感じている可能性が高いと考えられる。慢性肛門痛症例が破局的思考によりADL・IADL がどのように制限されているかを評価し、活動と休息時間のペース配分等の技法によって疼痛管理の指導により苦痛を減らして日常生活を過ごせるように介入していく必要があると考える。

【結論】

本研究では慢性肛門痛がPCS やPDAS などの心理的因子に影響を及ぼしているかを検討した。当院では慢性肛門痛を呈する症例に対して他部門と協力しACT 療法(Acceptance and Commitment Therapy)に取り組んでいる。今後はPCS も評価項目の一つとし、治療の効果判定として活用していく必要があると考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に従い実施しており当院の倫理委員会の許可を得て本研究を実施した(第21-30 番)。

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