主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに】
近年、労働者の減少、従業員の健康づくりに取り組む事業者の増加から理学療法士の産業保健分野での活動の場は拡がりをみせている。当院でも産業保健分野への理学療法士による取り組みを開始した。転倒および腰痛などの疼痛に対する労災予防、労働者の健康増進の目的で物流会社1社に対し、1 年間を通じて定期支援を行ったので報告する。
【対象】
支援を実施した物流会社はピッキング、商品補充、梱包、検品、発送、事務などの部署を有している。外国人労働者や障害者雇用なども積極的に行っており、従業員は10 代から60 代まで幅広く様々な部署に配属されている。身体的負荷を要す業務内容が多く、従業員の約半数が腰痛などの身体的愁訴を多く抱えている職場であり、業務遂行能力や労働生産性ならびに従業員の産業衛生面からも労災予防を重要な課題としている。
【取り組み内容】
取り組みとして、健康診断時の評価、定期支援対象者の抽出、定期支援、再評価を行った。2020 年従業員215 名に対し健康診断の際に運動機能評価、質問票による調査および問診を実施した。運動機能評価は運動機能分析装置ザリッツBM-220( タニタ社製; 以下ザリッツ) と体組成計での総合評価、ステップテスト、座位ステッピング、ファンクショナルリーチ、握力、開眼・閉眼片脚立位の7 項目とした。質問票による調査および問診では、既往歴、疼痛などの自覚症状、作業環境、生活習慣や運動習慣について聴取を行った。定期支援対象者を転倒に繋がる可能性がある運動機能低下者と腰痛など疼痛により仕事に支障が出ている可能性がある自覚症状が強い者の2 つの基準で抽出した。運動機能低下者は、運動機能評価のザリッツ総合評価79 点以下、2 ステップテスト1.38 以下、開眼片脚立位30.0 秒以下の3 項目中2 項目以上該当する者と定め、16 名を抽出した。自覚症状が強い者は、質問票の自覚症状各項目において「非常にある( 痛い)」または「かなりある( 痛い)」を2 つ以上選択している者18 名を抽出し、計34 名を定期支援対象者とした。定期支援対象者に対し、3 ヶ月毎に理学療法士が訪問し、ザリッツと体組成計での計測、問診および運動指導や作業環境のアドバイスなどを行った。1 年後の健康診断時に再評価を実施し、会社に対し結果報告を行った。
【考察】
同一事業者で1 年間通じて取り組みを行うという貴重な機会を得た。産業保健分野において理学療法士に期待されるものとして、転倒や疼痛などの労働災害の予防や健康増進が挙げられる。対象の物流会社では、身体的負荷の高い業務が多く、労災予防だけでなく労働生産性ならびに健康増進の目的で取り組みを行った。定期支援支援者からは、作業環境や生活習慣の見直しを行う機会となった、痛みは減らせることを実感した、アドバイスにより部署異動させてもらい痛みが減って仕事を続けられるようになった等の声が聞かれ、定期支援が従業員自身の生活や環境の見直す機会、労災への意識向上、労災予防や健康増進に寄与できると考えられる。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は事業者に対し活動内容および調査結果を研究発表として報告する旨を説明し、発表の際に所属先および、個人名が特定されることがない、配慮を行うことを説明し、同意を得た。