主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに】
高齢者の大腿骨頸部骨折は寝たきりを作る主要因の一つである.受傷前の歩行能力を獲得するためには術後早期から安全かつ積極的な歩行練習が不可欠である.今回我々は転倒をくり返し受傷した術後の症例に対して、ノルディックウォーキング(以下NW)を導入し歩行練習を実施した結果,短期間で歩行獲得に至った大腿骨頚部骨折の症例を経験したので報告する.
【NW とは】
1) NWはクロスカントリースキーの夏場のトレーニング用として北欧で始まりフィンランドで体系化されたものである.二本のストックを前方に突くことで二足歩行から四点支持になり下肢関節や脊椎に負担が少なく,両上肢を使用することで運動効率が高い,また転倒リスクの軽減が期待できることなどから近年リハビリ分野でも注目されている.当院ではNW指導員の資格を手得しリハビリの一貫として活用している.
【症例】
70 代女性,独居.201 Ⅹ年Y月肺癌加療のためA病院入院中に転倒し右大腿骨頸部骨折受傷,人工骨頭置換術施行.翌日よりリハビリ開始される.T杖での介助歩行15 m可能となった,22 日後のY月Z日リハビリテーション目的で当院入院.直ちにリハビリ開始するも,歩行は術部の痛み及び廃用のため両腋窩介助にてなんとか可能なレベルであり疲労感も強かった.リハビリ開始日に病棟内で転倒したとの情報を得たため,当初からPT・OTが同時に介入した.疼痛自制内になったZ+6 日NW を導入し4 点支持での歩行練習を実施,順調に経過しZ+25 日NW で階段昇降可能となった.Z+44 日体力の回復によりA病院に肺癌再治療のため転院となる.
【方法】
病棟内ADL 評価としてBarthel Index( 以下BI) を使用し,バランス評価はShort Physical Performance Battery(以下SPPB),歩行能力は10 m歩行時間を計測.また,姿勢評価は前額面と矢状面の写真をもとに垂線からの角度を計測した.
【結果】
BI はZ日55 点でありZ+25 日には80 点となった.SPPB はZ日4 点から1週間ごとに5 点,8 点,11 点,4週間後のZ+29 日には12 点となった.10 m歩行時間はZ日63.1 秒から1週間ごとに25.52 秒,18.67 秒,15.45 秒4週後のZ+29 には10.62 秒であった.姿勢評価は矢状面ではT杖に比べ5 度差,前額面では3 度差となった.
【考察】
本症例は過去1年間に2 度,転倒骨折を繰り返している既往があることから,転倒リスクが非常に高く,より安全な歩行スタイルが必要であった.1) NW は2 本のポールを身体より前に突くことで,広い支持基底面を獲得でき,転倒予防が期待できる.さらに,体全体の約90%の筋肉を使う全身運動で通常歩行より20 ~30%運動効率が増加するとともに,1.2 ~1.5 倍のエネルギーを消費するといわれている.肺がん治療のため体力が低下した本症例に対して,短期間に安定した歩行を獲得でき,ADL,SPPBが改善していることから,NW は最適な歩行スタイルである.全額面,矢状面それぞれ3 度,5 度の改善がみられた体幹アライメントについては,ノルディックポールの高さが一般的に身長× 0.63 ~0.72㎝であり,T杖の身長÷ 2 +2 ~3㎝よりかなり高い位置の設定である. そのため,相対的に姿勢が伸展位を保持しやすくなり脊柱アライメントが改善されたと考える.
今回の経験からNW の有用性が実感できた.今後高齢者に対する転倒予防や介護予防,健常者の健康維持向上など幅広い目的に対し応用していきたい.
【参考文献】
1)宮下充正:一般社団法人全日本ノルディック・ウォーク連盟NORDIC・WALK 用指導教本
【倫理的配慮,利益相反】
本報告に際し対象者の同意を得,ヘルシンキ宣言を遵守しプライバシー保護に最大限配慮した.