主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【目的】
脳卒中片麻痺患者を対象にした排泄動作に関する先行研究では、バランス能力、麻痺側下肢の運動機能、認知機能などが関連する因子に挙げられている。今回、当院回復期脳卒中片麻痺患者を対象に排泄動作自立度とバランス能力、下肢運動機能、認知機能との関連性を調査した。その結果からバランス能力に着目し、静的・動的バランス能力に分け、どちらがより排泄動作に影響しているかを検討した。これらを検討することで回復期脳卒中片麻痺患者における排泄動作とバランス能力との関連性を調査することを目的とした。
【方法】
対象は、2021年5月から2022年3月までの間に当院回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中患者51 名( 男性25 名/ 女性26 名、平均年齢77 ± 9.4 歳、麻痺側右27 名/ 左24 名) とした。測定時期は当院回復期リハビリテーション病棟入棟時に測定を行った。除外基準は重度の認知症や高次脳機能障害の影響により検査実施が困難であった者とした。調査項目は性別、年齢、Berg Balance Scale( 以下、BBS)、10 秒椅子立ち上がりテスト( 以下、CS10)、下肢Brunnstrom Recovery Stage( 以下、BRS)、Mini Mental State Examination( 以下、MMSE)、排泄動作自立度とした。排泄動作自立度はFunctional Independence Measure( 以下、FIM) にて評価し、自立群(7・6 点) と非自立群(5 点以下) の2 群に分類した。統計学的処理は、相関関係についてはFIM トイレ動作得点と各評価項目をSpearman の順位相関係数にて検討した。また排泄動作自立を従属変数とし、静的バランスBBS 得点( 以下、静的BBS 得点)・動的バランスBBS 得点( 以下、動的BBS 得点) を割合換算し独立変数としてロジスティック回帰分析を実施した。全ての検定は、EZR version1.51 を使用し、有意水準は5% 未満とした。
【結果】
排泄動作自立群は27名(男性13名/女性14名)、年齢73±8.4歳、下肢BRS5.6±0.6、非自立群は24名(男性12名/女性12名)、年齢82± 8.3 歳、下肢BRS4.7 ± 1.2 であった。Spearman の順位相関係数の結果、排泄動作自立度とBBS(rs= 0.859)、CS10(rs= 0.714)、下肢BRS(rs= 0.5)、MMSE(rs= 0.61) であり、BBS において強い正の相関を認めた。ロジスティック回帰分析の結果では、静的BBS 得点率( オッズ比:0.952、95%信頼区間:0.859-1.05)、動的BBS 得点率( オッズ比1.16,95%信頼区間:1.03-1.31) であり動的BBS 得点率が選択された。
【考察】
研究結果より当院回復期脳卒中片麻痺患者の排泄動作自立度とBBS には強い関連があり、排泄動作自立には特に動的バランス能力が影響している可能性が示唆された。各評価項目の中でBBS が選択されたのは排泄動作とは立位保持、下衣の着脱操作、着座、陰部の清拭、起立から構成されており、BBS 項目と類似した要素が多いため強い相関が得られたと考えられる。
ロジスティック回帰分析より動的BBS 得点率が選択され、より強い関連があるのは動的BBS 項目であることが示された。横塚ら(2005) は脳卒中片麻痺患者の排泄動作自立には動的バランス能力が関与していると報告している。本研究においてもBBS 項目における動的バランス能力が選択され、先行研究を支持する結果を得た。脳卒中片麻痺患者は動的バランス能力が低く、非麻痺側肢を中心に動作が遂行されると報告されている。これらのことから、脳卒中片麻痺患者において動的バランス能力を向上させることは安定した排泄動作自立を獲得するための重要な要素であることが考えられた。
【結論】
回復期脳卒中片麻痺患者における排泄動作とバランス能力との関連性について知見を得ることが出来た。今後は排泄動作を層別に分類し、各層にどのようなバランス能力が必要であるかを検討していきたい。
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究で得られた情報は個人が特定出来ないように匿名化し、研究責任者が責任を持って厳重に管理している。