九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: O-56
会議情報

口述10
両側THA の既往を持つ脊髄梗塞患者に対し下肢装具を用いた運動療法を実施し監視歩行を獲得した1 症例
相田 涼太郎田代 耕一古川 慶彦堀内 厚希
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】

脊髄梗塞は、脊柱管外部の動脈に由来する虚血で発症する稀な疾患とされている。そのため、報告数も少なく歩行能力の予後には、一定の見解が得られていない。また、運動器障害を既往に持つ中枢神経障害者の歩行自立度は予後不良と言われている。今回、両側の人工股関節全置換術(以下THA)の既往をもつ脊髄梗塞患者に対し、下肢装具を活用した運動療法により屋内4 点杖歩行が監視に至った。そのため、本症例に対する理学療法の経過を報告する。

【症例紹介】

本症例は、20 年前に両側THA を施行され、第4-6 頚髄に脊髄梗塞を発症した70 歳代の女性であり、第43 病日に当院の回復期病棟へ転院となった。病前ADL は自立し、仕事に従事していた。本人のDemand は自宅復帰で、Need は屋内外移動が自立することであった。そして、最終目標は歩行補助具を使用し屋内外歩行の終日自立と設定した。初期評価のASIA impairment Scale( 以下AIS)がC、粗大筋力が上肢2/3、下肢1/3、握力0kg/7.5kg(右/ 左)、体幹3 であった。感覚機能は両上下肢にC5 領域から尾側に痺れ、左上下肢は温痛覚の脱失を認め、Trunk Control Test(以下TCT)は36 点、Berg Balance Scale(以下BBS)は3 点であった。両股関節伸展角度は他動で-15°、右足関節背屈角度は他動で膝関節伸展位-5°、膝関節屈曲位5°であった。Functional Ambulation Categories ( 以下FAC) は0 であった。基本動作は、座位保持が支持物を把持し監視、起立や立位保持は最大介助を要し、ADL はFunctional Independence Measure(以下FIM)の運動項目38 点、認知項目35 点であった。

【経過及び考察】

本症例は、運動麻痺により右下肢の支持が困難であったため、入院15日目に足部がShoe Horn Brace(以下SHB)、膝継手がSPEX のKAFO を作製した。KAFO には脱着パーツを取り付け、SHB へ容易に変更できるようにした。起立練習は、麻痺側下肢の荷重量を増大するよう動作を反復することで、下肢、体幹筋の筋力増強や筋出力向上を図りつつ、神経の可塑的変化や運動学習を促すことを目的とした。座面高は50cm に設定し、身体前方にサイドケインを設置した。SHB で、右足関節の自由度を制限し、セラピストは、右側方より重心の前方移動を促すため、足関節背屈や膝関節屈曲を徒手的に制御した。さらに、起立動作に近似した動作で運動量を増大すべく、スクワットも併用した。歩行練習は、下肢、体幹の筋出力や筋持久力の向上を図りつつ、円滑な動作を行うことで神経の可塑的変化や中枢性パターン発生器(以下CPG)の賦活、運動学習を促すことを目的とした。KAFO はSPEX を伸展0°で固定し、セラピストは患者の後方より上部体幹を支え、KAFO の大腿近位半月を把持して振り出しを介助しつつ、2 動作前型歩行を実施した。入院74日目に、SHBを装着し立位保持が可能となったため、KAFO のカットダウンを施した。また、発症からの経過や退院までの期間を考慮し、3 動作揃え型歩行の獲得を目的とした歩行練習を実施した。入院98 日目には、4 点杖を使用し3 動作揃え型歩行が軽介助となった。入院153 日目のAIS はC、粗大筋力は右上肢4、右下肢3、TCT は87点となった。BBS は34 点、TUG は最大55.93 秒であり、座位保持は自立、起立は監視となった。FIM の運動項目は72 点となり、また病棟内歩行は日中のみSHB と4 点杖を使用し監視となった。麻痺側下肢の随意性や筋力向上、さらに運動学習を促すべく、起立練習や歩行練習を反復したが、随意性や感覚に著明な改善は認められなかった。身体機能やその経過に合わせて下肢装具を調整しつつ使用したことで、基本動作や歩行動作の運動学習、廃用症候群の脱却により歩行の自立度の向上に寄与したと考えられる。

【倫理的配慮、説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、対象者の個人情報保護は留意している。

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
前の記事 次の記事
feedback
Top