主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2022 in 福岡
回次: 1
開催地: 福岡
開催日: 2022/11/26 - 2022/11/27
【はじめに】
人工膝関節単顆置換術( 以下,UKA) は人工膝関節全置換術( 以下,TKA) と比較し, 骨切り量や軟部組織の切除量・切開範囲が少ないため, 生理的な膝関節の動きが維持され, 早期より高い活動性が獲得できるとの報告が多い.当院でも積極的にUKA を施行しており,2021 年度は人工膝関節のうち約67% がUKA であった.UKA に関する身体機能や動作能力の報告は多いが,膝蓋骨アライメント( 外方傾斜角・外方偏位) に関連した報告は少ない. 我々が渉猟し得た報告は,TKA の膝蓋骨アライメントと膝関節屈曲ROM( 以下,膝ROM) の関連性を研究した報告であり明確な数値は示されていなかった. よって本研究の目的は, 術前の膝蓋骨アライメントがUKA 後の膝ROM に及ぼす影響を明らかにする事とした.
【対象】
対象は当院で2019 年6 月から2021 年6 月の間にUKA を施行した93名とした. その中で条件を揃える為に, ①合併症等が無く継続的な評価・測定が可能, ②同一の執刀医, ③コンポーネントがZIMMER BIOMET 社製Oxford Partial Knee, ④術式がmedial parapatellar approach 法の者,83 名132 膝( 男性:14 名, 女性:69 名, 平均年齢:75.1 歳,BMI:26.5kg/㎡) を抽出した.
【方法】
測定項目は, 膝蓋骨アライメント, 膝ROM とした. 膝蓋骨アライメントは腰野らの方法に準じて単純X 線における膝関節屈曲50°位のskyline view より測定し, 術前と術後4 週目に評価した. さらに, 膝蓋骨アライメントの平均値( 外方傾斜角: 術前6.5°, 術後5.5°, 外方偏位: 術前6.3mm, 術後5.7mm)を算出し,平均値未満の群(以下,小変化群)と平均値以上の群(以下, 大変化群) に分けた.
検定方法は, 膝蓋骨アライメントと膝ROM の比較にはMann-Whitney U 検定, 膝蓋骨アライメントの2 群比較にはSpearman の順位相関係数を用
いた. 有意水準は5% とした.
【結果】
術前の膝蓋骨アライメントと膝ROM の比較では, 外方傾斜角(3.9°±1.8,9.3°± 2.2) と外方偏位(4.0mm ± 1.5,8.7mm ± 2.1) との間に有意差を認め, さらに, 膝蓋骨外方偏位(r:-0.26) で弱い負の相関を認めた. 術後4 週目では, 膝蓋骨アライメントと膝ROM の比較において有意差を認めなかった. また, 膝蓋骨外方偏位(r:-0.2) で弱い負の相関を認めた. このことから、術前後で外方偏位量が小さいと術後4 週目の膝ROM が良好であり,外方偏位は術前6.3mm,術後5.7mm 以上で膝ROM に影響することが示唆された.
【考察】
術前の外方傾斜角と外方偏位の2 群で有意差を認め, 外方偏位で弱い負の相関となった. 術後4 週目の群間比較では有意差を認めなかったが, 外方偏位で弱い負の相関となった. 外方偏位のみ術前後で弱い負の相関となり,膝ROM に影響を及ぼしている結果となった.
膝蓋骨の外方偏位は経年的な大腿四頭筋・腸脛靭帯の短縮や過緊張により生体工学的に外側への引っ張りが膝蓋骨に外側弓弦力を生じている. それにより, 単純な筋の短縮に加え, 膝蓋骨が膝関節屈曲運動で外方へ移動するため生理的運動の逸脱を招き, 膝ROM の更なる狭小化を招いていると考える. また, 侵襲による一時的な内側機構と外側機構の不均等による影響も考えられる. 外方傾斜が大きい場合, バイオメカニクス的変化により生理的な膝蓋大腿関節面上の滑走が低下する事が予想されたが, 本研究では膝ROM への影響は認めなかった.
今回得られた結果より,外方偏位に関しては,術前6.3mm以上,術後5.7mm 以上偏位している場合で膝ROM に影響を与えている事が推察でき,術前の膝蓋骨アライメントの評価がUKA 後の膝ROM の予後予測において有用である事が示唆された. 本研究がUKA 後の膝ROM の予後予測に際し,一つの指標となれば幸いである.
【倫理的配慮, 説明と同意】
倫理的配慮として, ヘルシンキ宣言に基づき対象者には書面及び口頭にて本研究の目的や意義を説明し, 理解を得たうえで行った.