九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2022
セッションID: S-08
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セレクション2
素材の異なる短下肢装具が歩行に及ぼす影響 ~カーボン素材とプラスチック素材の比較を通して~
川﨑 恭太郎馬場 智大久保田 勝徳大田 瑞穂玉利 誠
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キーワード: 短下肢装具, 脳卒中, 歩行
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抄録

【はじめに】

これまで,脳卒中片麻痺患者がプラスチックや金属支柱の短下肢装具(AFO)を用いる効果について,多くの報告がなされている.その一方で,プラスチック装具は軽量である反面,撓み部分の耐久性が弱く破損を生じやすいことや,金属支柱は頑丈である反面,重量が増すといった難点もある.しかし近年,プラスチックよりも軽量で,かつ,強度に優れるカーボン素材の装具が開発された.装具の素材の違いは,重量や強度のみならず,歩行にも影響する可能性が考えられる.そこで今回,回復期の脳卒中片麻痺患者を対象に,カーボン型AFO(CFAFO)とプラスチック型AFO(PAFO)が歩行に及ぼす影響について検討した.

【方法】

対象は,当院に入院している脳卒中片麻痺患者で,歩行に影響する認知機能障害や高次脳機能障害を認めず,歩行が監視または自立レベルで可能な10 名(男性7 人・女性3 人,年齢:54.5 ± 15.8 歳,麻痺側:左7 人・右3 人)とした.対象の下肢Brunnstrom stage は,Ⅲ:3 人,Ⅳ:5 人,Ⅴ:2 人であり,普段使用している装具は,シューホーン型短下肢装具:4 人,UD-Flex:6 人であった.対象の第3 腰椎にQ‘Ztag walk(住友電気工業株式会社製)を貼付し,CFAFO とPAFO の2 条件において,加速路と減速路を2m ずつ設けた計14m の快適歩行を実施した.計測はランダムに実施し,加速路・減速路を除いた10 mの歩行時間,歩数,重心加速度(前後)を計測した.また,TS-MYO(トランクソリューション株式会社製)を用い,両側の前脛骨筋の筋活動を計測した.その後,麻痺側立脚後期の前方加速度のPeak 値を抽出し,連続5 歩行周期の平均値を算出した.前脛骨筋の筋活動は,1 歩行周期を時間で正規化し,立脚期及び遊脚期の積分値を抽出した後,連続5 歩行周期の平均値を算出した.統計学的解析にはEazy R を用い,データの正規性を確認後,Wilcoxon の符号付順位和検定を用いて2 条件の比較を行った.なお,有意水準は5%とした.

【結果】

歩行時間と歩数は,CFAFO:16.7 ± 5.7 秒・24.1 ± 4.1 歩,PAFO:17.8 ± 6.4 秒・24.2 ± 4.4 歩で,歩行時間のみCFAFO 条件で有意に短縮した(p <0.05).麻痺側立脚後期の前方加速度のPeak 値は,CFAFO:7.44± 2.01,PAFO:5.75 ± 1.79 で,CFAFO 条件で有意に高値を示した(p <0.05).非麻痺側の前脛骨筋の筋活動は,立脚期:CFAFO 2.22 ± 0.64mV,PAFO 2.19 ± 0.59 mV,遊脚期:CFAFO 1.27 ± 0.38 mV,PAFO 1.35± 0.46 mV で,両群間に有意差は認められなかった.麻痺側の前脛骨筋の筋活動は,立脚期:CFAFO 1.73 ± 0.82 mV,PAFO 1.94 ± 0.79 mV,遊脚期:CFAFO 0.88 ± 0.65 mV,PAFO 0.93 ± 0.40 mV で,CFAFO 条件で有意に低値を示した(p <0.05).

【考察】

本研究の結果,立脚後期の前方加速度はCFAFO 条件において有意に高値を示した.立脚後期の前方加速度は歩行の推進に重要であることが知られており,また,カーボン素材は伸張力に対して押し戻される力が強いことが特徴で,立脚中期以降の背屈方向に蓄積されたエネルギーが立脚後期に開放されることにより,プッシュオフ動作に寄与することが知られていることから,結果的にCFAFO の歩行時間の短縮に寄与したものと思われる.さらに,麻痺側前脛骨筋は立脚期および遊脚期ともにCFAFO 条件で有意に低値を示したが,立脚初期は装具の制動力が強いほど前脛骨筋の筋活動が低下することが知られていることから,プラスチックよりも制動力が強いカーボンの素材特性が影響した可能性があり,遊脚期にはプッシュオフ後の復元力が背屈を補助し,筋活動に影響した可能性が考えられた.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は,当法人の倫理審査員会の承認後(承認番号:2020042701)に,被験者へ研究目的及び方法等を説明し,同意を得て実施した.

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© 2022 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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