主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
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【はじめに】 近年、パーキンソン病(PD)患者に対する入院での短期間集中リハビリテーション(リハ)の有用性が報告されている(Tomlinsonら,2013)。今回、短期間強化リハを導入し、既存の報告より少ない介入期間や回数であっても、身体機能の改善を認めたため報告する。
【症例紹介】 PD診断後10年経過した50代後半男性。BMI:29.1、 MMSE:29点、手段的日常生活動作を含め全て自立。著明なOFF状態はないが、夕方から動きが悪くなる傾向にある。姿勢は体幹が前屈しており、かつ右に傾いていた。主訴は直進歩行が難しく、左腰部痛が出現し頻回に休憩が必要なことであった。
【介入前評価】 修正Hoehn And Yahr重症度分類:stage 2.5, Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)PartⅢ:31/132点、Mini Balance Evaluation Systems Test(Mini-BESTest):19/28点、10m歩行試験(10MWT、快適):1.02m/s、6分間歩行距離(6MWD):311.4m、脊柱計測分析器による体幹側屈角度:右30.5度、体幹前屈角度:11.0度、39-itemParkinson’s Disease Questionnaire(PDQ39):99/156点。歩行時は両手を後方で組み、左立脚後期における中足指節関節(MP関節)の伸展が減少していた。
【仮説】 歩行時、体幹前屈による前方重心のバランスを取るために両手を後方で組み、腕振りが無いこと、体幹の右への傾きにより左下肢への荷重が不十分なため、立脚後期のフォアフットロッカー機能が低下していることが問題と考えた。姿勢の改善を図ることで重心移動が容易となり、直進歩行のスムーズさに繋がると仮説した。
【PT介入と経過】 1回60分の理学療法を週2回、6週間実施した(計12回)。姿勢の矯正、および良好な姿勢を保ちながら四肢や脊柱を大きく動かす練習を行った。座位や立位での静的バランス練習から、ステップ動作や歩行など動的バランス練習に段階的に移行した。練習中は良好な姿勢を保てるように、姿勢鏡やセラピストの声かけを用いて、視覚や聴覚のフィードバックを利用した。また、重心移動に伴う足底の荷重感覚に注意を向けるように促し、体性感覚からのフィードバックを組み合わせた。介入後半では体幹伸展位での持続運動が可能となり、左腰部痛の訴えが無くなった。介入中に服薬の調整は行われなかった。自宅での自主トレーニングとして週2回の筋力増強訓練を併用し、介入後も継続を依頼した。
【介入後評価】 UPDRS PartⅢ:20/132点、Mini-BESTest:22/28点、10MWT:1.20m/s、6MWD:396.78m、体幹側屈角度:右21.4度、体幹前屈曲角度:8.4度、PDQ39:81/156点。体幹の前屈と右への傾きが軽減し、歩行時に腕振りが可能となった。また、左立脚後期のMP関節の伸展が増加し、ステップ長も延長した。姿勢を意識するようになり、直進歩行のコツがわかるようになったと内省が得られた。
【考察】 疾患早期~中期のPD患者に対して、週1回以上の理学療法を長期間(6ヶ月以上)行うことにより、運動症状の改善や、抗PD薬の内服薬を減少する効果があることが示されている(Okadaら,2021)。今回、短期間強化リハにおいても姿勢の改善に加え、UPDRS PartⅢにおける臨床に意義のある最小差(3.25点)や、10MWTにおける最小可検変化量(MDC, 0.18m/秒)、および6MWDにおけるMDC(82m)を超える身体機能の改善が認められた。視覚や聴覚、体性感覚を組み合わせた複合的なフィードバックにより、身体イメージや運動イメージが修正され、姿勢の改善や直進歩行の再学習に繋がったと考えられた。今後は3ヶ月おきに1年後までの長期効果について検証予定である。
【倫理的配慮・説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し、症例に内容を説明し書面にて同意を得た。