九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題1[ 成人中枢神経① ]
大腿骨頚部骨折を受傷したパーキンソン患者に対する有酸素運動の効果の一例
O-002 成人中枢神経①
浅香 雄太三宮 克彦大橋 妙子赤瀬 諒市時里 香
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p. 2-

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抄録

【はじめに】 パーキンソン病(以下、PD)で大腿骨頚部骨折を受傷した患者を経験した。筋骨格系の疼痛にPD症状が合併し運動療法に苦慮したが、有酸素運動を重点的に行い身体機能が改善したため報告する。

【症例紹介】 80代女性で、PD診断後3年が経過。Hoehn&Yahrの重症度分類はステージⅣ。主なPD症状はwearing-off現象、筋固縮、動作緩慢を認めた。Mini Mental State Examination(MMSE)は26点で、主な移動手段は手支持型歩行車であった。転倒により左大腿骨頚部骨折を受傷し、手術およびリハビリ目的で当院入院となった。

【経過】 受傷3日目に左人工骨頭置換術施行し、術後1日目よりリハ開始。術後7日目に前腕支持型歩行車歩行開始。耐久性や筋力低下が著明であった。術後30日目に病室内手支持型歩行車歩行自立とするが、創部周囲の歩行痛残存により積極的には歩行されなかったため、術後33日目より負荷量可変式エルゴメーター(以下、てらすエルゴ)を用い下肢駆動による有酸素運動を開始。また、下肢のレジスタンストレーニング(以下、RT)を追加した。術後72日目に手支持型歩行車で自宅退院となる。

【方法】 1ヵ月間有酸素運動を実施し、運動開始時と終了時の身体機能を評価した。項目は、Numerical Rating Scale(以下、NRS)での疼痛評価、Hand Held Dynamometer(ミュータスF-1、アニマ社製)での膝伸展筋力と伸展筋力体重率、5回立ち上がりテスト(以下、5STS)、Timed Up&Go Test(以下、TUG)、6分間歩行テスト(以下、6MWT)、10m歩行テスト、Berg Balance Scale(以下、BBS)、Functional Independence Measure(以下、FIM)、Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(以下、UPDRS)とし、PD症状を考慮しON時に行った。てらすエルゴの運動負荷量は、強度を20Wで10分間、回転数50回/分、目標心拍数(カルボーネン法に基づき計算)を95回/分程度とした。RTは起立やランジ動作を40~50%1RMで行い、疼痛に応じ漸増的に追加した。なお、今回の介入期間を通しPDの薬剤調整はなかった。

【結果】 有酸素運動実施前後で、歩行時の左大腿部痛はNRS5→1、膝伸展筋力は健側9.59→10.61 ㎏f、患側6.83→11.63 ㎏f、膝伸展筋力体重率は健側20.5→22.6%、患側14.6→24.9%、5STSは20.48→10.31秒、TUGは24.29→15.23秒、6MWTは160→280m、10m歩行テストは最大速度11.44→9.25秒、BBSは45→53点、FIMは94→107点、UPDRSは50→43点と全項目で改善した。

【考察】 PDを合併する大腿骨頚部骨折患者は、周術期にPD症状や合併症が増悪するため非PD患者と比較してADL改善が不良であり、リハビリが遅延するとされている。本症例も周術期に寡動、筋固縮などPD症状を認め、リハビリ進行の妨げになっていた。加えて歩行時痛で活動量が増えず、身体活動量増加とADL能力向上が課題だった。そこで、疼痛なく一定量の運動を安全に行える「てらすエルゴ」を用いた有酸素運動を開始した。また、近年有効性が示されているRTを併用した。

 PD患者における有酸素運動はドパミンなどの神経伝達物質が分泌されることで、PD症状の緩和に役立つとされ、RTは筋力や筋量の改善に加え、黒質等の脳活動を活性化する可能性が示唆されている。また、城らは、「継続的な運動を行うことで身体活動量を増大させることが疼痛修飾機能の改善・向上につながる」としている。本症例の場合、有酸素運動を契機にPD症状の緩和や組織修復が促進され、疼痛が軽減できたのではないかと考える。加えて、RTの継続が筋活動及び身体活動量を増加させ、日常場面で活動しやくなったと考える。

 また、本症例は前回入院時より改善した評価項目もあり、有酸素運動とRTの併用が著効した症例であったと考える。

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