九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題21[ 成人中枢神経⑥ ]
神経症状増悪を繰り返す橋出血患者に対するリスク管理と目標設定の再考が自宅退院に繋がった一例
O-119 成人中枢神経⑥
西原 志生
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p. 119-

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抄録

【はじめに】 橋出血によりlatero pulsion、右片麻痺、運動失調、重度感覚障害を呈した症例を担当した。回復期入院中、慢性腎不全と高血圧症に対して内服薬による管理が行われていたが、高血圧の持続や腎機能の低下に伴い神経症状増悪を繰り返し、徐々に身体機能やADL能力低下が進行した。本症例の理学療法において、高血圧症と慢性腎不全のリスク管理に配慮しながら目標設定を再考することで自宅退院が可能となったので報告する。

【症例紹介】 50歳代の女性。診断名は橋出血。既往歴は慢性腎不全(CGA分類G5A3)、高血圧症。61病日目に回復期へ入院。理学療法評価にてFMA右上肢55点、下肢23点。Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA)26点、感覚は右上下肢重度鈍麻。Burk latero pulsion scale(BLS)9点。立位保持、移乗動作は軽介助。Berg Balance Scale(BBS)19点、歩行器歩行中等度介助。FIM77点。自宅は賃貸アパートのため、改修は不可能であった。

【経過及び結果】 73病日目から152病日目の間に運動失調、感覚障害の増悪を繰り返したが、CT、MRI検査では異常を認めなかった。最も神経症状が増悪した145病日目の血液検査でBUN80.3 ㎎/㎗(入院時59.4)、Cr9.88 ㎎/㎗(入院時7.14)と増悪。理学療法評価にてSARA9.5点から22点、感覚障害の増悪も認め、FIM107点から95点へ低下した。最終時、FMA右上肢60点、下肢33点。SARA10.5点、感覚は右上下肢、表在感覚正常、深部感覚重度鈍麻、BLS0点、BBS45点。立位保持、移乗動作は修正自立。歩行器歩行、伝い歩き自立。FIM104点。神経症状増悪前、屋内は独歩自立、屋外は杖歩行自立を目標としていたが、運動失調と感覚障害の増悪により、この目標は困難と判断した。また、屋内での歩行器歩行は、本症例の意向や家屋環境から困難であった。その為、本人や家族と自宅内の環境調整について話し合い、ベストポジションバーの設置による伝い歩き自立を最終目標とした。

【考察】 本症例は回復期入院中、運動失調と感覚障害を主とした神経症状増悪を繰り返した。画像検査では脳に新規病変はなく、尿毒症性脳症と診断された。本症例では145病日目、BUNとCrの上昇と並行して感覚障害の増悪を認めた。内科的合併症に対するリスク管理として、理学療法では血圧管理(収縮期血圧160 ㎜Hg以下)、四肢の浮腫、貧血症状、倦怠感などの出現に注意して介入を行った。歩行練習時、血圧管理を行い、歩行距離や歩行速度の強度設定を行った。歩行距離や歩行速度の増加に伴い血圧上昇を認めたが、修正ボルグスケールにて2から3と疲労感を感じることはなかった。そこで、血圧上昇を認めず、疲労感を感じない範囲で積極的に歩行練習を導入した。

 また、増悪する感覚性運動失調に対して麻痺側下肢に弾性包帯を使用した立位、歩行練習を行った。弾性包帯の使用はメカノレセプターや筋紡錘の感受性を高め、感覚フィードバック量を増加させるとされ、運動学習が促進され、身体機能、ADL能力の向上に繋がったと推測する。

 神経症状増悪により、目標設定と治療に難渋した症例であったが、リスク管理と適切な目標設定が入院中の活動量向上に繋がり、自宅退院を可能にしたと考える。

【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に同意を得た上で、当法人の研究倫理審査委員会の承認を得た。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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