主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 118-
【はじめに】 皮質橋網様体路は、同側性に支配する予測的な姿勢制御に関わる神経ネットワークであり、体幹、非麻痺側股関節の伸展活動を保障すると考えられている。体幹、非麻痺側の姿勢制御を担う皮質橋網様体路とPusher現象との関連性を明らかにすることは、Pusher現象の効果的な介入を検討する上で重要である。先行研究において、予測的な姿勢制御に関わる皮質橋網様体路の損傷とPusher現象予後との関連性について報告しているものは少ない。
本研究では、被殻および視床出血後にPusher現象を呈した者を後方視的に調査し、皮質橋網様体路の損傷の有無とPusher現象予後との関連性について調査することを目的とした。
【方法】 2017年1月1日~2022年12月31日までに当院回復期病棟に入院した初発の被殻および視床出血患者で、Pusher現象の評価であるSCPの合計点数が1.75≦の患者を対象とした。
対象の一般情報(年齢、性別、麻痺側、病型、入退院時の下肢のBrunnstrom stage、SCPの点数、FIMの移動項目の得点)を当院カルテ上より後方視的に調査した。
また、発症2ヶ月後のCT画像を用いて、松果体及び八の字レベルでの皮質橋網様体路損傷の有無、姿勢定位に関連する領域である視床後外側部、島皮質後部への損傷の有無、皮質橋網様体路と姿勢定位関連領域両方の損傷の有無を調査した。先行研究に基づき松果体レベルでの皮質橋網様体路の走行位置は、内包後脚前方50%と仮定。八の字レベルでの皮質橋網様体路の走行位置は、側脳室最前部をA、側脳室最後部をPとし、AP間の距離が0.2~0.5の位置で側脳室外壁と囲む範囲とした。
対象者を退院時のSCPの点数が1.75≦の者をPusher現象残存群、1.75>の者をPusher現象改善群に群分けし、2群間で比較した。
統計解析ではt検定、Mann-Whitney’s Utest、Fisherの正確確立検定を行い、有意水準はいずれも5%未満とした。
【結果】 対象の平均年齢は66.2±10.7歳、男性15名、女性12名、右片麻痺9名、左片麻痺18名。2群の内訳は、Pusher現象残存群9名、Pusher現象改善群18名であった。両群の比較では、年齢、入退院時のSCPの点数、FIM移動項目の点数に有意差を認めた。また、皮質橋網様体路の損傷の有無においては、残存群で9名、改善群では11名が損傷を認め、皮質橋網様体路と姿勢定位関連領域両方の損傷の有無では、残存群で9名、改善群では8名が損傷しており、それぞれで有意差を認めた。
【考察】 本研究結果において、皮質橋網様体路の損傷の有無に有意差を認め、体幹・非麻痺側への姿勢制御障害が生じることでPusher現象予後に影響すると推察された。皮質橋網様体路は大脳皮質から内包まで皮質脊髄路を近接して走行する為、これらを確認することは重要であると考えられる。また、姿勢定位に関連する視床外側部、島皮質後部はPusher現象の責任病巣に挙げられており、皮質橋網様体路の損傷と合併することでPusher現象が重症化し易いことが挙げられた。
先行研究において、Pusher現象改善に及ぼす要因として、年齢、USN、感覚障害、認知機能等が挙げられており、皮質橋網様体路及び姿勢定位に関連する領域の損傷を確認することは、Pusher現象予後を予測する因子の一つになる可能性が考えられたが、今後相関分析や多変量解析を進め、さらに関連性を明らかにしていきたい。
【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:2216)。また、得られたデータは個人情報が特定出来ないよう十分な配慮をした。