主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 135-
【目的】 近年、Bioelectrical Impedance Analysis(BIA)を用いて筋肉量や筋質を評価する方法が報告されている。Trunk muscle mass index(TMI)は、体幹部の筋肉量を評価する方法として用いられている。また、Phase Angle(PhA)は筋質を評価する方法であり、体幹部においても有用性が報告されている。高齢者を対象とした研究では、BIAで評価したTMIや体幹部のPhAの低下は大腿骨頚部骨折の発症率増加と関連するとされている。また、大腿骨近位部骨折後はComputed Tomographyで評価したTMIが低下することが報告されている。そのため、大腿骨近位部骨折後は、体幹部の量的及び質的評価が重要であることが示唆される。これまで、BIAを用いて評価したTMIやPhAと歩行自立度との関連を検討し、歩行自立度を予測するための量的及び質的評価の指標を算出した報告はない。そこで、本研究はBIAを用いて評価したTMIやPhAと歩行自立度との関連を検討し、体幹部の量的及び質的評価の指標のカットオフ値を算出することを目的とした。
【方法】 回復期病院に入院した大腿骨近位部骨折後の患者181名を対象とした後ろ向き観察研究である。退院時の運動Functional Independence Measure(FIM)項目のうち、移動項目の点数によって歩行自立度を自立群(≥6点)と非自立群(≤5点)に分け、比較検討した。体幹部の量的評価は入院時のBIAで測定したTMIを算出し、質的評価は体幹部のPhAを用いた。本研究では、算出したPhAをTrunk muscle quality index(TMQI)と定義した。歩行自立度に対する入院時TMI, TMQIとの関連を調査するためにロジスティック回帰分析を行った。説明変数は年齢、性別の他にモデル1ではTMI、モデル2にはTMQIを含めた。その他の変数は入院時BMI、入院時MMSE-J、入院時FIM合計、リハビリテーション時間とした。さらに、TMI, TMQIによる自立歩行を予測するためのカットオフ値をReceiver Operating Characterristic curve(ROC)曲線を用いて性別毎に算出した。
【説明と同意】 研究倫理審査会の承認(ID:23-10)を受け、個人情報の取り扱いに配慮し実施された。
【結果】 平均年齢83.0±7.4歳、男性57名、女性124名、歩行自立群は101名だった。歩行自立群は非自立群に比べ、入院時TMI(男性6.9±0.6 vs 6.1±0.7 ㎏/m2、p<0.001, 女性5.9±0.8 vs 5.1±0.7 ㎏/m2、p<0.001)、TMQI(男性4.6±0.9 vs 3.8±0.8°、p<0.001、女性3.8±0.6 vs 3.0±0.6°、p<0.001)が高かった。ロジスティック回帰分析の結果、入院時TMI(OR:4.35[2.13-8.89]、p<0.001)とTMQI(OR:3.11[1.57-6.15]、p<0.001)は歩行自立度と関連する要因であった。TMI, TMQIによる自立歩行を予測するためのカットオフ値は、TMI男性6.5 ㎏/m2(感度:0.821%、特異度:0.793%、AUC=0.860)、女性5.7 ㎏/m2(感度:0.788%、特異度:0.694%、AUC=0.781)、TMQI男性4.5°(感度:0.893%、特異度:0.621%、AUC=0.776)、女性3.4°(感度:0.712%、特異度:0.750%、AUC=0.804)であった。
【考察】 本研究の結果、BIAで算出したTMIとTMQIは歩行自立度と関連する要因であった。大腿骨近位部骨折後の患者を対象に、入院時のTMIとTMQIが歩行自立度と関連を認めたことは、BIAで評価した体幹部の量的及び質的評価が歩行自立度に重要であることが示された。さらに、入院時のTMIとTMQIを用いることで退院時の歩行自立度を推定できる可能性が示唆された。
【結論】 BIAを用いて算出したTMIとTMQIは、退院時の歩行自立度と関連を認め、体幹部の量的及び質的評価としての有用性が示唆された。さらに、退院時の自立歩行を予測するためのカットオフ値はTMI男性6.5 ㎏/m2、女性5.7 ㎏/m2、TMQI男性4.5°、女性3.4°であった。