九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題25[ 骨関節・脊髄⑤ ]
縫工筋と内側広筋間の滑走障害により伏在神経膝蓋下枝由来の疼痛を惹起した1症例 ― 超音波診断装置を用いた病態解釈が理学療法に有効であった症例―
O-141 骨関節・脊髄⑤
勝本 行雄
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p. 141-

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抄録

【目的】 伏在神経膝蓋下枝(以下、IPBSN)は、神経障害を起こしやすい解剖学的特徴をもっている。また、IPBSN由来の疼痛は膝蓋骨部の打撲後や膝関節術後にも発生し、その主な症状は膝前内側部痛や感覚異常などである。しかし、症状と画像所見とが一致しない場合が多く、診断の遅れや見落としされやすいのが現状である。今回、IPBSN由来の疼痛によって歩行障害を呈した症例を経験したため報告する。

【症例紹介】 症例は20歳代自衛官の男性で、銃剣道の練習中に転倒し、右膝前面痛にて近医を受診、膝蓋骨骨挫傷と診断される。症状は軽快し練習に復帰したが、2か月後、特に誘因なく右膝前内側部痛が出現し、徐々に歩行時痛が増悪した。その後は経過不良にて複数病院を受診するも歩行状態、疼痛の改善はみられず、当院整形外科を受診した。MRIにて、半月板損傷、膝蓋腱炎、滑液包炎は否定されたが、歩行困難な状況であったため入院となり理学療法が開始された。このときすでに疼痛増悪して約半年経過していた。入院時の膝関節可動域(右/左)は屈曲30°/145°、伸展-5°/10°であった。

【経過】 理学療法開始12日目で、屈曲85°伸展0°まで改善したが、疼痛に変化はみられなかったため、再評価を実施した。疼痛は右膝前内側部にpalmar signで、最終伸展時に同部位へ放散痛を認め(NRS8)、extension lagは10°であった。鵞足のトリガー鑑別テストは縫工筋のみ陽性と判断した。疼痛部位から伏在神経の痛みを疑い、圧痛を確認した。内転筋管に圧痛はなく、内側上顆より近位4~5 ㎝レベルで縫工筋の筋実質、縫工筋前縁と内側広筋間に著明な圧痛と放散痛を認めた。感覚検査では、IPBSNの知覚領域に8/10と軽度感覚鈍麻を認めた。徒手筋力検査では、縫工筋、内側広筋が3であった。理学所見よりIPBSN由来の疼痛と考え、超音波診断装置(以下、エコー)を用いて圧痛部位を観察した。観察は膝軽度屈曲位から自動伸展を行い、その動態を観察した。その結果、縫工筋と内側広筋間の滑走障害が生じており、内側広筋の収縮不全が観察され、同時に疼痛が再現された。また、内側広筋に対して縫工筋を徒手的に短軸滑走させると、縫工筋前縁と内側広筋間の滑走障害が観察された。以上より、膝伸展による両筋間の正常な滑走が制限された結果、筋間に位置するIPBSNは両筋からの圧刺激により疼痛を惹起したと考えられた。さらに、縫工筋持ち上げ操作に自動伸展を組み合わせると即時的に疼痛がNRS2まで軽減することを確認した。よって、縫工筋と内側広筋間の滑走性改善がIPBSN由来の疼痛を軽減するためには必要であると考えられた。両筋間の滑走性向上を目的とした理学療法へ変更後14日で、伸展時痛消失、可動域は屈曲120°伸展10°、extension lag、感覚障害、歩行時痛は消失した。エコー動態では、両筋間の正常な滑走が獲得できていた。また、内側広筋に対して縫工筋前縁を徒手的に短軸操作すると、滑走性は改善していた。入院5週目に退院となり、外来リハビリ(週1回)へ移行した。約3か月後には階段降段、しゃがみこみ、正座まで可能となり理学療法を終了した。

【考察】 膝最終伸展時の前内側部痛にて歩行障害を呈した症例に対し、理学所見、エコー所見、疼痛減弱操作から縫工筋と内側広筋間の滑走障害がIPBSN由来の疼痛を惹起していたと考えられた。縫工筋の持ち上げ操作に自動伸展運動を組み合わせることで、内側広筋との滑走性が促され、筋間に位置するIPBSNは圧刺激から除圧された結果、疼痛は消失し良好な治療成績につながったと考える。

【倫理的配慮、説明と同意】 症例に対しては本発表の目的について十分に説明し、書面にて同意を得た。

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