主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 158-
【はじめに】 新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の重症化因子として、“高齢者であること”、“基礎疾患を有すること”などが挙げられている。特に高齢者が感染した場合、疾病の重症化に加えて、隔離による入院生活を余儀なくされることで、身体機能やADL能力の低下など二次的障害の発生が懸念される。そのため、COVID-19から回復した高齢者に対するリハビリテーション(以下、リハビリ)は重要であると考えられるが、その経過や介入内容を記述した報告は少ない。今回我々は、COVID-19感染後に廃用症候群を呈した高齢患者に対し、リハビリを実施する機会を得た。リハビリの実施にあたって、Sariらが提唱するCOVID-19感染後患者に対するリハビリマネジメントプログラム(Sari, 2023)を参考に介入計画を構成したところ、良好な経過を得ることができたため、報告する。
【症例紹介】 症例は、COVID-19(軽症)で入院した90歳代女性である。入院前のADLは見守りレベルであった。隔離解除後の第9病日目よりリハビリを開始した。初期評価時点において、立位保持が不安定で、ベッド~車椅子間の移乗に介助を要した(FIM運動項目:21点、FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子):3点、FIM歩行:1点)。バイタルサインに異常は認めず安定していたものの、COVID-19の代表的な罹患後症状である疲労感・倦怠感・意欲低下を認め、リハビリへの参加は消極的であった。
【介入方法】 SariらはCOVID-19感染後のリハビリについて、罹患後症状を管理しつつ、自覚的運動強度に基づいた段階的エクササイズの実施を提案している(Sari, 2023)。そこで、介入内容は筋力増強訓練や有酸素運動、日常生活動作訓練で構成し、疲労感・倦怠感・意欲低下を管理するために、適宜バイタルサインを確認するとともに、疲労感の訴えなどを自覚的運動強度に基づき注意深く観察しつつ、身体的に過負荷とならないよう配慮しながら進めていった。リハビリの効果判定には、バランスの指標にBBS, ADLの指標にFIM(運動項目・移乗・歩行)を用いた。
【結果】 退院時評価(第50病日目)において、BBSは介入前12→介入後30点、FIM(運動項目)は介入前21点→介入後54点と改善を認めた。FIM(運動項目)の内訳について、FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)は3点→5点、FIM歩行は1点→4点へ改善し、入院前と同等のADLまで回復した。最終的には介護保険サービス(通所介護、ショートステイ)を導入した上での自宅退院となった。
【まとめ】 本症例は、隔離期間により身体機能が全般的に低下しており、さらに隔離後はCOVID-19の罹患後症状として疲労感や倦怠感、意欲低下が確認された。先行研究において、COVID-19感染後の身体機能の低下により、ADLやQOLが著しく低下した帰結不良例の存在が報告されている(Li, 2020)。高齢者がCOVID-19に罹患し安静臥床を継続することによって、廃用症候群が生じることは言うまでもない。COVID-19から回復した高齢者に対して、罹患後症状に配慮した上で可及的早期の段階的なリハビリを実施することは、身体機能やADLの改善に重要であることが確認された。