主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 161-
【はじめに】 今回、脳梗塞による著明な麻痺は無いが夜間頻尿を呈する一症例に対して、夜間頻尿診療ガイドライン(日本排尿機能学会)で推奨されている行動療法を実施した。そのなかでも、夕方における運動療法に着目し、治療効果を排尿日誌や主要下部尿路症状質問票(以下、CLSS)等を用い評価したのでここに報告する。
【症例紹介】 症例は80歳代の女性。運動器不安定症の診断で入院中に、脳梗塞を発症。身長152 ㎝、体重45.9 ㎏、BMI19.87、既往に過活動膀胱があり治療薬を飲まれていた。改善はしているが以前は時々失禁があった。介入前の基本動作能力は概ね見守り、歩行形態は杖歩行側方介助、FIM88点、MMSE22点である。夜間排尿回数は4.3回、夜間尿量率43.9%であり、夜間の排尿回数や睡眠時覚醒を悩まれていた。
【方法】 通常理学療法(骨盤底筋群体操含む)と水分管理、膀胱訓練を2週間(以下、A1期)、続いてそれらに加えて夕方に運動療法を2週間(以下、B期)、最後にA1期と同内容を2週間(以下、A2期)の計6週間実施した。
B期に行う運動療法は、16時半~17時に電動サイクル運動器(株式会社タタ・コーポレーション ルームマーチ)を使用し、ペダル回転速度低速で15分、上肢運動として1 ㎏ダンベルを使用したダンベル運動(フロントレイズ、サイドレイズ、ダンベルプレス)を各20回、下肢運動としてスクワット、カーフレイズ、つま先上げを各20回実施した。
評価は排尿日誌、CLSS, aams(株式会社バイオシルバー 見守り介護ロボット)による睡眠評価、睡眠状況聴取、下腿最小周径を介入前、A1期、B期、A2期に評価した。なお、排尿日誌と下腿最小周径は各期4日間の平均値を算出した。身体機能評価(10m歩行テスト、TUGT、握力、膝伸展筋力)、FIM, MMSEは介入前とA2期に評価した。また、カルテより既往歴や排尿障害の診断及び排尿障害治療薬の有無を調査した。
【結果】 排尿日誌より、夜間排尿回数は介入前:4.3回、A1期:4.0回、B期:2.7回、A2期:3.8回、夜間1回当たりの尿量は介入前:127 ㎖、A1期:215 ㎖、B期:263 ㎖、A2期:203 ㎖、夜間尿量率は介入前:43.9%、A1期:54.1%、B期:39.2%、A2期:57.7%であった。B期において夜間排尿回数と夜間尿量率は減少し、膀胱容量の増加がみられ夜間排尿症状の改善がみられた。
aamsによる睡眠評価では睡眠時の[覚醒・浅い眠り・深い眠り]割合が介入前[17.5%・40.9%・41.6%]、A1期[13.9%・47.8%・38.3%]、B期[7.1%・29.9%・63.0%]、A2期[8.4%・41.0 %・50.6%]、睡眠状況聴取は介入前:夜起きるので日中眠くなる、A1期:前よりはよさそうだけど日中眠い、B期:久しぶりによく眠れてスッキリした、A2期:眠れていてよく夢をみますであり、B期において覚醒割合の減少、深い眠り割合の増加がみられ、睡眠状況が改善している。
CLSS排尿の状態をどう感じるかは介入前:とても嫌だ、A1期:嫌だ、B期:どちらでもない、A2期:気が重いであり、B期において不快感が軽減している。
【考察】 夕方における運動療法は、間質に貯留した水分を運動による筋肉ポンプ作用で血管内に戻し、またそれを汗として体外に排出する作用もあるため夜間頻尿に有効であったことが考えられる。睡眠に関しては、夕方に運動することで精神的な緊張の緩和や適度な疲労感が得られたことで睡眠を深くし、夜間の尿意による覚醒閾値の上昇、膀胱容量の増加に繋がったことが考えられる。
【まとめ】 本症例において夕方における運動療法は、夜間排尿回数を減少させ良質な睡眠をとることに有効であったと思われる。しかし、本症例では夜間2回以上の排尿があり夜間頻尿改善には至らず運動療法の運動時間や負荷量の検討が必要である。