九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題30[ 日常生活活動② ]
老研式活動能力指標を用いた介護予防通所リハビリテーション利用者の運動機能と手段的日常生活活動能力の関連
O-176 日常生活活動②
永渕 俊輝松本 隆史
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p. 176-

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抄録

【目的】 高齢者が要介護状態へと変化する過程には、手段的日常生活活動能力(以下、IADL)の障害がきっかけとなることが多く、IADLを把握しておくことは介護予防の観点からも意義が高いことが窺える。本研究の目的は、介護予防通所リハビリテーション(以下、デイケア)利用者の運動機能とIADLの関連性について老研式活動能力指標(以下、老研式)を用いて、生活機能に影響を及ぼす身体機能について検討することである。

【対象と方法】 要支援認定を受けたデイケア利用者36名(平均年齢:82.8±6.88歳)を対象とし、長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)20点以下の者、自力歩行が困難な者、本研究に同意を得られない者を除外した30名とした。対象者の運動機能評価(握力、5回椅子からの立ち上がりテスト(以下、FTSST)、5m歩行テスト(通常・最大)、Timed Up&Go test(以下、TUG)、開眼片脚立位(以下、OLS))の各項目と老研式の得点における単相関をSpearmanの順位相関係数で算出し、統計ソフトとしてJSTAT for Windowsを用い、有意水準は5%とした。

【結果】 対象者の内訳は、要支援1(12名:男性3名、女性9名)、要支援2(18名:男性6名、女性12名)で、HDS-R:26.2±3.58点、老研式の得点は、7.43±3.31点だった。老研式と運動機能測定値との単相関分析を行った結果、有意な相関を認めたのは相関係数が高い順にTUG(r=-0.597)、OLS(r=0.509)、FTSST(r=-0.500)だった。老研式活動能力指標の回答率は83%だった。

【考察】 要支援認定を受けたデイケア利用者を対象に、老研式に影響を及ぼす運動機能を検討した。その結果、TUG, OLS, FTSSTの順に相関係数が高かった。この3項目は動的バランス、平衡機能、下肢筋力を反映しており、いずれも転倒リスクの評価としても活用されている。本研究結果より、高齢者のIADL低下の要因として、下肢筋力と立位バランス能力が影響を及ぼしている可能性が考えられる。今回の対象者の評価結果は転倒リスクが高く、日常生活への支障も十分考えられる結果となった。この運動機能がIADLに影響する要因として、転倒不安感が考えられる。転倒不安感は、転倒経験のない高齢者においても12~65%で有していると報告されている(Murphyら,2002)。そのため、転倒不安感による外出自粛、社会活動や余暇活動が制限されることで、生活の質の低下や廃用性機能低下への進行が懸念されており、転倒不安感の軽減を目的とした運動、生活指導が必要と考える。また、TUGが最も相関係数が高かったことから、起立、歩行、方向転換といった動的バランスの改善に向けたアプローチを行うことで、老研式得点の向上、つまりIADLの低下予防に繋がる可能性がある。デイケアでは、利用者の生活機能向上のためのサービスを提供する必要があるため、個別リハビリテーションによる動的バランスの強化と並行して、活動と参加に焦点を当てた包括的な関りが必要となる。今回、対象者が30名と少なく十分な比較検討が行えなかったこと、また転倒不安感に関しての評価が未実施であることが課題となった。今後、老研式と転倒不安感の関連、また転倒不安感に関連する運動機能についての検討が必要である。

【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、東福岡和仁会病院の倫理審査委員会の承認(承認番号3)を得た上で実施し、対象者には事前に研究の目的、方法、研究への協力を断ることにより何ら不利益が生じないことを文書にて説明を行い、同意を得た。

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