九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題4[ 成人中枢神経④ ]
Berg Balance Scale における歩行自立度の判定基準と実際の歩行能力に乖離を認めた脳卒中後症例に対する介入経験: バランスのシステム理論に着目して
O-023 成人中枢神経④
竹松 怜也野中 裕樹藤井 廉千手 佑樹細川 浩
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キーワード: 脳血管疾患, バランス, 歩行
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p. 23-

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抄録

【はじめに】 臨床場面における代表的なバランス評価指標にBerg Balance Scale(BBS)があり、転倒予測や歩行自立度の判定基準としての有用性が報告されている。その一方で、BBSは歩行が自立していなくとも天井効果を示す事例が存在することから、評価の鋭敏さに欠ける問題点も指摘されている。今回、BBSはカットオフ値を上回っていたものの、病棟内歩行において見守りから脱却できず自立度の改善が停滞した症例を経験した。本症例に対し、バランスのシステム理論に基づき開発されたMini-Balance Evaluation Systems Test(Mini-BESTest)の結果を踏まえ介入方法を立案・実践したことで、バランス能力・歩行自立度に改善を認めたため、報告する。

【症例紹介】 症例は、脳皮質下出血を呈した80歳代女性である。軽度の注意障害を有していたものの、行動観察上それが日常生活の妨げとなるような場面は見受けられなかった。初期評価(第25病日目)において、Stroke Impairment Assessment Set下肢運動機能は5-5-5、BBSは50/56点と比較的良好な結果であった。しかし、歩行はFunctional Independence Measure(FIM)で4点とBBSの結果と歩行状態に乖離を認めた。そこで、バランス能力の追加評価としてMini-BESTestを行った結果、16/28点(予測的姿勢制御:4/6点、反応的姿勢制御:1/6点、感覚機能:5/6点、動的歩行:6/10点)とカットオフ値(19点)を下回る結果となった。

【理学療法介入】 Mini-BESTestの結果から、本症例の歩行障害には、特に反応的姿勢制御の低下が関与しているのではないか、と推察した。そのため介入は、反応的姿勢制御の改善を企図し、外乱刺激に対するステップ課題を中心に構成した。また、ストループ課題を用いたランダムステップ訓練(予測的姿勢制御)、口頭指示による急な方向転換や歩行速度調整訓練(動的歩行)も実施した。

【結果】 介入開始1週間後に、BBSは56/56点となった。しかし、Mini-BESTestは18/28点(予測的姿勢制御:4/6点、反応的姿勢制御:2/6点、感覚機能:6/6点、動的歩行:6/10点)と依然としてカットオフ値を下回るとともに、FIM(歩行)は5点と見守りが必要であった。介入4週後の最終評価では、Mini-BESTestが24/28点(予測的姿勢制御:6/6点、反応的姿勢制御:4/6点、感覚機能:6/6点、動的歩行:8/10点)とカットオフ値を上回り、さらにFIM(歩行)は7点へ向上した。

【考察】 本症例の歩行自立度の改善が停滞した主要因として、反応的姿勢制御の低下によりふらつきが生じた際のステップ反応が出現しなかった点が挙げられる。実際に、Mini-BESTestでは、同項目の点数が著しく低下していた。ヒトがある特定の運動を効率よく学習するには、“課題の類似性”が重要となる(才藤,2016)。そのため、“反応的姿勢制御”に焦点化した一連の介入によって、バランス能力が改善し、そしてその改善が歩行動作へ汎化したことで、最終的には歩行自立に至ったものと考える。本症例の一連の経過から、Mini-BESTestはバランス障害を有する症例の介入指針の立案や介入効果を捉える上で有用であることが確認された。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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