九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題4[ 成人中枢神経④ ]
バランス訓練が困難であった運動失調の患者に対し下肢近位筋のトレーニングが有効であった1例
O-022 成人中枢神経④
池田 優介岩崎 朋史
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p. 22-

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抄録

【はじめに】 橋梗塞による運動失調によって立位、歩行時に著明なバランス障害を呈した患者に対し、下肢近位筋のトレーニングを行った結果、運動失調、バランス能力の改善を認めた。その経過について報告する。

【症例紹介】 80代男性。橋梗塞の診断により某日入院。8病日に当院回復期病棟に転棟。Magnetic Resonance Imaging(以下、MRI)画像で橋上部~中部の左傍正中部に高信号を認めた。上田式片麻痺機能テストは右下肢グレード11。感覚は正常。Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下、SARA)は23点(歩行6、立位6、座位0、言語2、指追い1、鼻指1、回内外1、踵脛1)。Berg Balance Scale(以下、BBS)は11点。Trunk Ataxic Test(以下、TAT)はステージⅡ。MMTは体幹屈曲3、右股関節屈曲3、右膝関節伸展4、右足関節背屈4であった。立位は下肢ワイドベースとなり、上肢外転位、股関節屈曲位。独歩は重度介助を要した。Functional Independence Measure(以下、FIM)は71点(運動49、認知22)であった。

【経過】 8病日より、運動失調の軽減目的に弾性包帯による体性感覚入力。バランス能力向上を目的に立位や膝立ちのステップ訓練を行ったが、四肢体幹が過剰に緊張し、重度介助を要した。そのため、背臥位でのブリッジ動作や股関節屈曲位保持、膝立ち位保持や立位の膝屈曲位保持など関節運動を伴わないバランス訓練を実施。歩行は前腕支持型歩行器から開始した。23病日では、膝立ち位での側方移動やステップ訓練を実施。歩行は4点杖歩行、骨盤介助下での独歩を実施した。57病日では、SARAは8点(歩行3、立位3、座位0、言語0、指追い1、鼻指0、回内外1、踵脛0)。BBSは28点。TATはステージⅠ。MMTは体幹屈曲4。右股関節屈曲4となった。FIMは92点(運動67、認知25)。10m歩行速度は15.9秒(0.6m/sec)で屋内4点杖歩行が可能となり、段差に手すりを設置した自宅に退院となった。

【考察】 吉尾らは「体幹と四肢の関係性は相互に関連しており、体幹失調や体幹の予測的姿勢制御の不十分さで四肢の協調性障害、体幹の過剰な固定性を強める」と報告している。本症例においても、入院時評価より運動麻痺や感覚の障害は認めなかったが、下肢筋出力低下、体幹の運動失調を認めた。立位時の緊張、バランス不良は、これら下肢近位筋の筋出力低下や予測的姿勢制御の不良によるものと考えた。そのため、過剰な緊張を取り除き、立位姿勢を安定にするための運動療法が治療に適していると考えた。介入当初は、弾性包帯や重錘を使用し、筋紡錘から小脳への固有感覚受容器による入力、背臥位でのブリッジ動作や物的把持で立位練習など、過剰な緊張が生じない課題を行った。動的バランス訓練では、股関節中間位を保持できず、介助を要していた。木下らは「膝立ち位は立位よりも多くの筋活動を要し、体幹筋や股関節周囲筋促通に効果的である可能性が高い」と報告している。足部、膝の影響が除外される膝立ち位の訓練は、股関節での姿勢制御が主であるため、本症例には有効であると考えた。膝立ち位保持より開始し、側方移動やステップを取り入れ、訓練時の介助量を本人のレベルに合わせて徐々に変更させていった。また鏡でフィードバックしながら、反復練習を行った。これらの訓練により、予測的姿勢制御を担う網様体脊髄路の活性化を図ることができ、下肢近位筋の機能向上に伴い、運動失調、立位バランス能力が改善したと考える。しかし、BBSでは方向転換や片脚立位など、単脚支持でのバランス低下は残存し、カットオフ値以下であったため、独歩は転倒リスクが高く、屋内4点杖での歩行自立とした。

【倫理的配慮、説明と同意】 症例の本発表に際し、ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には十分な説明と書面にて同意を得た。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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