主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 29-
【はじめに】 当院は痙縮患者に対し、2011年よりボツリヌス療法を始め、2017年痙縮センターを開設し、2019年よりボツリヌス療法と短期集中リハビリテーションを併用した取り組みを開始した。今回、一般病棟に入院しこの取り組みを行った患者の傾向を後方視的に調査したので報告する。
【対象】 2020年1月~2022年12月までの3年間における、ボツリヌス療法と短期集中リハビリテーション目的にて一般病棟へ入院した患者19名、計103件。
【調査方法】 電子カルテに記録されたSOAP、サマリーを中心に後方視的に調査。
【調査結果】 〈実人数〉男性10名、女性9名(内、入院での定期継続16名、他3名は外来通院にて継続)。〈平均年齢〉62.7±10.6歳。〈平均介護度〉1.35(介護保険対象外4名)。〈平均在院日数〉11.9日±6.9日。〈平均入院間隔〉3.9±2.1ヶ月。〈原因疾患〉被殻出血5名、視床出血5名、痙性斜頸2名、他1名→アテローム血栓性脳塞栓症・心原性脳塞栓症・出血性脳梗塞・くも膜下出血・脊椎形成不全仙骨欠損症候群・脊髄小脳変性症・HTLV-Ⅰ関連脊髄症。〈平均発症経過年数〉7.1年。〈平均通算施行回数(対象期間外含む)〉11.3±7.3回(最大32回、最小2回)。〈ボツリヌス療法施行部位割合(平均単位数)〉上下肢63.1%(393±149単位)、上肢のみ24.3%(208±115単位)、下肢のみ12.6%(165±77単位)。〈FIM〉入院時平均105.3±14.6点、退院時平均107.3±14.2点、前回退院時から次回入院時の増減-2.2±5.3点。〈BI〉入院時平均85.5±16.7点、退院時平均86.8±15.7点、前回退院時から次回入院時の増減-1.6±5.9点。〈筋緊張〉全件で入院時に比べ筋緊張改善認める。MAS評価で1程度の改善、またはMASの変化はないが抵抗感の軽減あり。〈疼痛〉76件中61件(80%)で入院時に比べ改善認める。〈ROM〉97件中76件(78%)で入院時に比べ改善認める。〈満足度調査〉大変満足7件、満足19件、やや満足29件、どちらでもない5件、やや不満0件、不満1件、大変不満0件(61/103件回答)。
【考察】 多くの患者がADL評価では自立度が高い点数となっており、日常生活動作のほとんどは自身で行えている又は一部介助が必要な状態だが、痙縮による抵抗感や疼痛、可動域制限、不随意運動発生による身体の動かしづらさや、それによる介助量増加が主な訴えとなっている。そのためそれらを改善し、動作の快適さや介助量軽減を求めている。多くの症例でボツリヌス療法の効果に加え、ストレッチや動作指導、自主訓練指導などの短期間リハビリテーション介入により、筋緊張緩和、疼痛軽減、可動域改善を認め、基本動作、ADL動作の安定性向上や介助量軽減が図れたと考えられる。
ボツリヌス療法は決して安価な治療手段ではないが、調査期間の全患者が定期的に施行継続しており、通算施行回数や満足度調査によりボツリヌス療法と入院リハビリテーションの併用に対する信頼度が高いと思われる。定期的に継続することで前回退院時から次回入院時のFIM、BIの差は少なく、痙縮増悪防止や日常生活動作能力の維持に貢献している要因の一つではないかと考える。
今後の展望として、日常生活の再構築さらには社会参加に繋げるべく、定期継続するに至った満足度の詳細(メリット、デメリット、IADLの状況)を患者や関係者に直接聞き取り、リハビリテーションの質の向上を図っていきたい。
【倫理的配慮、説明と同意】 本調査は当院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:2302)。また、得られたデータは個人情報が特定出来ないよう十分な配慮をした。