九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題7[ ウィメンズヘルス ]
妊婦が履くヒールの高さがバランス機能に与える影響:シングルケースでの検討
O-036 ウィメンズヘルス
小野 日菜乃河上 淳一東 春華宮崎 大地佐藤 一樹里 優釘宮 基泰
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キーワード: 妊婦, ヒール, バランス機能
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p. 36-

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抄録

【はじめに】 近年、美容的価値観は大きく変化しており、妊娠してもヒールを履きたいと望む傾向がある。しかし、妊婦がヒールを履くリスクとして転倒があるため、積極的に推奨できるものではない。当院職員の妊婦(本対象)はヒールを常用しており、靴を勧めるも拒否された。本対象の訴えは、ヒールと靴でも歩行のし易さが変わらないため、ヒールを履きたいとのことだった。また、本対象からの依頼で妊婦が履くヒールの影響を確認して欲しいと希望された。そこで本研究では妊婦が履くヒールの高さがバランス機能へ与える影響を検討した。

【対象と方法】 本対象は30歳代の経産婦であった。本対象の身体的変化は母子手帳にて腹囲と体重を確認した。評価は妊娠7ヶ月から産後3ヶ月までの各月に実施した。評価の条件は、靴(ヒールの高さ0 ㎝)とヒール(ヒールの高さ3 ㎝)とした。評価項目は先行研究を参考に、Timed Up&Go Test(TUG)、Functional Reach Test(FRT)、開眼片脚立位(OLS)、5m最大歩行速度、寛骨傾斜角とした。また、全ての評価項目の際の転倒不安感をVisual Analog Scale(VAS)で測定した。

【結果】 各評価前後に体調の変化を認めなかった。本対象の身体的変化[腹囲 ㎝/体重(妊娠前より±㎏)]は妊娠7ヶ月:77 ㎝/-1 ㎏、妊娠10ヶ月:87 ㎝/+2 ㎏、産後1ヶ月:±0 ㎏であった。評価の結果[以下は(靴/ヒール)で示す]は、妊娠7ヶ月:TUG(8.3/8.3)秒、FRT(30.5/28) ㎝、5m最大歩行速度(4.7/4.5)秒、OLS(60/60)秒、寛骨傾斜角(76/76)°。妊娠10ヶ月:TUG(9.0/10)秒、FRT(24/25) ㎝、5m最大歩行速度(5.0/4.3)秒、OLS(60/24)秒、寛骨傾斜角(81/75)°。産後1ヶ月:TUG(6.4/7.2)秒、FRT(37/35.5) ㎝、5m最大歩行速度(3.7/3.9)秒、OLS(60/60)秒、寛骨傾斜角(88/84)°であり、各時期において靴とヒールの結果は概ね同等であった。転倒不安感は妊娠10ヶ月のOLS(ヒール)がVAS24 ㎜であり、その他のVASは全て10 ㎜以下だった。

【考察】 各妊娠月数における変化では靴、ヒール共にTUG・5m最大歩行速度が妊娠10ヶ月にかけて増加し産後1ヶ月以降で減少、FRT・OLSが妊娠10ヶ月にかけて減少し産後1ヶ月以降で増加を示した。本症例のバランス機能・歩行機能は靴とヒールで概ね同等であり、同年齢女性のTUG、FRTと比較すると、低値を示していた。よって、ヒールの高さよりも、妊娠による身体的変化に伴う姿勢や姿勢制御の変化が影響していると考えた。本結果より妊婦におけるバランス機能の観点では、靴とヒールでバランス機能が同等であったことから、ヒールに限らずバランス機能が低下しているため転倒に注意が必要であると考える。しかし、産後1ヶ月以降では、徐々にバランス機能は向上傾向にあり、妊婦が履くヒールの高さの影響は少ないのではないかと考える。妊娠・出産により心理社会的要因にも変化が生じるため、今後は身体機能だけでなく心理社会的要因も含め、妊婦におけるヒールの高さがバランス機能に与える影響を検討していきたい。

【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき説明と本対象の同意および署名を得た。また、リスク管理として評価前後の血圧管理、自覚症状を入念に確認した。評価の際は評価結果に影響を与えない範囲で、評価者とは別に3人で見守りを行った。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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