主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 42-
【はじめに】 前十字靭帯(以下、ACL)損傷に対する治療は再建術が主流であるが、当院では新鮮ACL損傷例に対して一次縫合術を行っている。今回、一次縫合術施行後の経過について報告する。
【症例紹介】 37歳の男性であり、現病歴は2022年6月12日に平坦な道を横歩きで移動していた際、右膝関節外反が強制される状態となり疼痛が出現、以降疼痛が持続し当クリニック受診となった。MRIのT2強調像での矢状断にてACL大腿起始部で連続性消失、身体所見でも徒手最大弛緩性の健患差は6 ㎜であった。
【手術内容】 鏡視下にてACL全周に滑膜の連続性はあるが、大腿起始部で靭帯線維が一部露出していた。緊張も大腿側で緩く、滑膜内の完全断裂が示唆された。縫合糸を用いて断端部とACLを縫着させ大腿骨に骨孔をあけpull-outし、大腿筋膜に皮下縫合を行うことでACL全体に連続性と程よい緊張が得られた。
【理学療法】 当院では受診後速やかにkyuro装具を装着して理学療法を開始し、術後3ヵ月は装具装着下で膝関節の異常運動を制御した状態で保護的早期運動療法を行う。
本症例は腫脹と疼痛の訴えが少なく、術後1日目より保護的早期運動療法を開始し、退院日の術後12日目では装具下で可能な膝関節可動域である0°~120°が獲得できたが、extension lag 5°あった。
退院後早期より仕事復帰となったが、装具の自己管理は良好であった。定期的な外来理学療法通院も可能であり、保護的早期運動療法を継続して行うとともに、下肢筋力増強トレーニング、神経運動器協調トレーニングを中心に行った。また、術創部の疼痛がなかった為、早期に荷重下での動的姿勢制御トレーニングを実施した。装具除去後は、疼痛に応じて膝関節の深屈曲可動域獲得に努め早期に可動域の獲得が得られた。
【結果】 術後3ヶ月のMRIのT2強調像での矢状断にて、ACLは描出良好で連続性がみられ、セカンドルックでは、鏡視下にてACLは断裂部の緊張が良好で、太さも正常であった。
身体所見は、術後3ヵ月後の徒手最大弛緩性は健患差0 ㎜であり、術後6ヵ月も同様の値で推移した。術後6ヵ月では右膝屈曲角度は145°で、膝伸展筋力と屈曲筋力ともに健患比100%となり、IKDCは症状29点、スポーツ38点、機能8点となった。
【考察】 当院では以前より新鮮ACL損傷例に対し保護的早期運動療法を行っており、その治療成績は約70%がACLの緊張良好で靭帯の太さも2/3以上となることを報告している。一方、癒合には滑膜の連続性の程度や断端の状態に依存しており、それらが不良であると成績が低下する傾向にあった。このため、2018年より一次縫合術を追加し、靭帯の縫合架橋と骨孔による血液供給を行うことで、成績向上に努めている。本症例では滑膜が豊富な完全断裂であったことに加え、術後の疼痛や腫脹が少なく、積極的に保護的早期運動療法が実施できたことで良好な癒合靭帯の獲得に至ったと考えられた。
また、保護的早期運動療法では確実なkyuro装具装着と活動レベルの制限を要する。しかし、未成年者や競技レベルのスポーツに参加している患者では、装具管理が不十分であったり、活動の制限に対する遵守が得られず靱帯癒合が不良となる場合も多い。これに対し本症例は、復職しつつも装具管理が良好であり、needも日常生活レベルであったことから、理解を得て理学療法が実施でき満足度が高い結果となった。
【結論】 新鮮ACL損傷に対する一次縫合術を行った症例について報告した。滑膜の連続性も良好で術後早期より積極的な保護的早期運動療法を実施できたことで、靭帯の癒合や身体機能ともに良好な結果が得られた。
【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき対象者には発表の趣旨を説明し、同意と承諾を得た。