九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題2[ 成人中枢神経② ]
心原性脳塞栓症により重度運動麻痺を呈した症例への介入 ―長下肢装具の使用と前方介助歩行の検討―
O-007 成人中枢神経②
田中 勝人篠塚 晃宏釜﨑 大志郎大田尾 浩
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p. 7-

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抄録

【はじめに】 急性期の重度麻痺患者の歩行練習では備品の長下肢装具(以下、KAFO)を使用することが多いが、体格や麻痺の程度によっては備品のKAFOが適さないことを経験する。介助方法は、後方介助で行うことが多い。本症例は、体格が大きく備品が不適合であったため、膝関節の固定が不十分であり荷重時に膝折れが生じた。また、後方介助では、介助者にもたれかかるような歩容となり重心の前方移動を促すことが困難であった。そこで、体幹を中間位で留める事と股関節を伸展位で荷重する事を目的に前方介助にて歩行訓練を試みた。今回、従来の後方介助ではなく前方介助で歩行練習を行った結果、基本動作の介助量が軽減し歩容が改善した症例を報告する。

【症例紹介】 74歳男性、180 ㎝、85 ㎏の大柄な体格。入院前ADLは自立。診断名は心原性脳塞栓症であり、左中大脳動脈領域に梗塞の所見がみられた。発症3日目のJCSはⅠ-3、ROMは両足関節背屈5°以外は著明な制限なし、BRSは右上下肢ともにⅠ、TCTは0点、FIMは18点、基本動作は寝返りが両側ともに全介助、起き上がり、起立は中等度介助、歩行はKAFOを装着し全介助で5m程度可能。全失語で感覚検査や高次脳機能評価は実施困難。

【経過と結果】 発症19日目から歩行訓練開始となる。備品のKAFOの膝継手はダイヤルロック、足継手はダブルクレンザックを使用。後方介助時の歩容は、介助者に寄りかかり後方重心となり、右立脚期は支持力が弱く膝関節は屈曲位となった。また、右初期接地(以下、IC)で爪先接地、立脚期を通して踵接地はなかった。支持力が弱く膝継手は伸展0°で制限するもマジックテープ式のパットでは膝関節の制動が困難であったため、膝折れを防ぐ介助が必要であり、複数での介助を要した。そこでKAFO装着下で前方介助にて歩行訓練を試みた。前方介助は、前方から患者に密着し両殿部を把持した。体幹を中間位に保つ事に加え、ICから立脚中期にかけて右股関節を徒手的に伸展位の方へ誘導し、遊脚期では殿部から右下肢の振り出しの介助を行った。その際、介助者は後方へ進みながらの介助となるため、後方の安全性を他者に確認してもらいながら行った。前方介助では体幹の中間位保持、右股関節は伸展位を保ちながら膝関節は軽度屈曲位で歩行可能となり、踵接地を認めた。その後、急性期病棟退棟時には、右立脚期の踵接地を認めるようになった。発症35日目では、BRSは右上肢、下肢がⅡ、TCT:37点、寝返り、起き上がり、起立は軽介助となった。歩行は、1人介助でKAFOを装着下で30m程度可能となった。

【考察】 本症例の問題は、装具のサイズが合わず、麻痺側立脚期に膝が崩れ、床反力が更に股関節、膝関節屈曲方向のモーメントを増強させていた。さらに、後方介助では介助者にもたれ後方重心となり、上記屈曲モーメントを助長し、膝折れが生じていた。前方介助の利点は、立脚期に殿部から股関節を固定することで右立脚期に股関節、膝関節伸展モーメントを促せることにある。また、骨盤を中間位に保つことができ、重心が前方に移動し、体幹の伸展が得られやすくなった。殿筋の活動を促通する歩行の反復練習および内部モデルの構築、自動的な歩行制御機構が賦活され、より筋活動が得られることで基本動作の介助量も軽減したと考えられる。上記のことより、備品を使用する際は、装具の特徴と患者の身体特性を考慮した上で介助方法を検討する必要がある。

 なお、今回の報告の限界として歩行速度や筋電図などを用いた客観的な評価を行う事ができなかった。また、COVID-19の拡大に伴い、面会が禁止になったことで家族からの同意が得られず、早期から装具を作成できなかったことが挙げられる。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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