九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
会議情報

一般演題1[ 成人中枢神経① ]
当院外来・通所リハ利用中のパーキンソン病患者におけるサルコペニア有病率と栄養状態の調査
O-006 成人中枢神経①
森野 美里山田 麻和志谷 佳久
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 6-

詳細
抄録

【目的】 サルコペニアは老化に伴う筋肉量・筋力の減少を指し、低栄養との関連が深く、身体機能低下に繋がり65歳以上の高齢者の15%程度が該当するとされる(内閣府,2018)。パーキンソン病(PD)患者における有病率は17-50%とされる(システマティック・レビュー,2021)。当院に入院したPD患者における調査では、有病率75%、低栄養率89%と併存率が非常に高かったが、在宅生活中のPD患者については把握できていない状況である。そこで今回、生活期リハビリテーション(リハ)を実施しているPD患者を対象にサルコペニア有病率と栄養状態について調査した。

【対象】 対象は2022年4月時点に当院の外来・通所リハを利用中で、歩行可能なPD患者35名。年齢72.6±7.1歳、男20名、女15名、罹病期間6.0±4.0年、Hoehn&Yahr重症度分類Ⅱ9名、Ⅲ26名。

【方法】 体成分分析装置InBody770を用いて骨格筋量、細胞外水分比を測定した。細胞外水分比とは体水分量に対する細胞外水分量の割合で、数値が高いほど浮腫の程度が強い。筋力は握力、運動能力は10m歩行速度、5回起立時間を測定した。サルコペニア診断基準はAsian Working Group for Sarcopenia2019に基づいて行った。栄養状態は、BMIと簡易栄養状態評価表(MNA-SF)を用いた。

【説明と同意】 本研究は所属機関の倫理委員会の承認(承認番号:22-05)を得ると共に、対象者に書面で同意を得た。

【結果】 サルコペニア有病率は25.7%、プレサルコペニア5.7%、ダイナぺニア28.6%であり、骨格筋量及び筋力が共に正常範囲の患者は40.0%と半数以下であった。細胞外水分比が年齢別標準値を超えた患者は51.4%と半数を占め、ダイナペニアにて60.0%と最も多く、正常範囲にて57.1%、サルコペニアにて44.4%であった。握力低下が54.0%と半数を占めたが、歩行速度低下は14.0%、5回起立時間低下は17.0%と運動能力の低下は少なかった。栄養状態では、BMIが男性22.9 ㎏/m2、女性16.8 ㎏/m2であり、女性に痩せが多かった。MNA-SFにて低栄養リスクあり(11点以下)は62.9%で性差はなく、サルコペニアにて77.8%、ダイナペニアにて60.0%、正常範囲にて57.1%、プレサルコペニアにて50.0%であった。

【考察】 今回、在宅生活中のPD患者におけるサルコペニア有病率は25.7%と一般高齢者よりも高かったが、過去の報告範囲内であった。体成分分析装置では細胞外水分比が高いと筋肉量を過剰に高く算出してしまう。骨格筋量が正常範囲とされた患者のうち、53.8%は年齢別標準値を超えて細胞外水分比が高く、本来の骨格筋量よりも高く数値が出ている可能性が示された。そのため、ダイナペニアや正常範囲と診断された患者の中に隠れサルコペニアが存在する可能性があると考えられた。また、栄養状態では6割が低栄養リスクに該当しサルコペニアとの併存率が高かった。BMIではサルコペニアや低栄養の判断は難しく、体重管理だけでなく定期的な体成分分析や栄養評価の実施が必要である。坪井ら(2022)は、PDは緩徐に進行するため食事の量や質の低下に気づきにくく、生活環境にあった細やかな栄養管理・指導が必要と報告している。長く在宅生活を続けるためにも、食事の量や質の聞き取りを行い、リハの観点から栄養状態に見合った運動の提供・見直しを行うことが重要と考えられた。

【結語】 今回、入院加療を必要とするPD患者と比べるとサルコペニア有病率および低栄養率は低かった。しかし、低栄養リスクのある患者は半数以上を占め、サルコペニアの予防を含め栄養状態を把握する必要性が示唆された。定期的な評価および管理栄養士と連携し、本人家族やケアマネージャーへの情報提供体制を行っていく体制を整えていきたい。

著者関連情報
© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
前の記事 次の記事
feedback
Top