主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 75-
【目的】 急性期病院の手術患者において、高齢者が占める割合は年々増加傾向にある。一般に高齢患者は生体機能及び生理的予備機能が低下するフレイルを呈しており、ひとたび合併症を併発すると回復に時間を要するため、近年では外科領域でもフレイルの概念が注目されている。これまでの外科領域におけるフレイルの先行研究では、フレイルは術後合併症と死亡リスクを予測する因子であると報告されており、その他にも在院日数の延長や日常生活動作能力の低下との関連性が示されている。したがって、外科手術患者において術前よりフレイルを考慮することは重要であると考えられるが、フレイルを有する外科手術患者の運動・認知・精神機能の入院期間中の多面的な経過については報告が少ないのが現状である。本研究では、急性期病院に手術目的で予定入院となった高齢者の運動・認知・精神機能の多面的な経過を調査することを目的とした。
【方法】 対象は、2021年5月17日~2021年8月31日までの期間に在宅より当院に手術目的で予定入院し、調査に同意が得られた65歳以上の高齢者47名(平均年齢76.5±6.0歳)とした。評価項目は、基本属性(年齢・性別・Body Mass Index・在院日数・持参薬の種類)、入院期間中の経過(手術・リハビリテーション介入・合併症・せん妄・尿道留置カテーテル挿入の有無、ADL、サルコペニア発生の有無)、入退院時の運動・認知・精神機能、骨格筋量、フレイルの有無とした。運動機能では握力、大腿四頭筋筋力、椅子起立時間、Timed up and Go、開眼片脚立位時間、10m歩行時間の6項目を測定し、認知機能ではMini-Cog、精神機能ではGeriatric Depression Scale-15を測定した。フレイルは25項目から構成される基本チェックリスト(以下、KCL)を用い、先行研究をもとに8項目以上である者をフレイルと判定した。サルコペニアは、AWGSが2019に報告した診断方法を使用した。分析は、基本属性並びに入院中の経過においてt検定またはカイ二乗検定を用いて、非フレイル群、フレイル群の群間比較を実施した。運動・認知・精神機能においては、各群の入退院時の比較を対応のあるt検定を用いて群内比較を実施した。
【結果】 入院時にフレイルを有しているフレイル群は13名(28%)であり、非フレイル群は34名(72%)であった。フレイル群と非フレイル群の基本属性、入院中の経過の群間比較の結果では、全ての項目において有意な差は認めなかった。2群の入退院時の群内比較の結果では、フレイル群・非フレイル群ともに骨格筋量において退院時は入院時と比較し有意に低値を示した。またフレイル群では握力において退院時は入院時と比較し有意に低値を示し、10m歩行時間では有意に高値を示した。非フレイル群では、TUGにおいて退院時には入院時と比較し有意に高値を示した。
【結論】 今回の予定入院患者のフレイルの有症率は28%であり、地域在住高齢者のフレイルの有症率と比較し高い結果を示した。また予定入院となった高齢者においては、フレイルの有無にかかわらず手術の前後で骨格筋量が有意に低下し、さらにフレイルを有する高齢者では、入院期間中に筋力や移動能力が低下することが示唆された。
これらの結果により、手術予定の高齢者においても入院時からのフレイルのチェックは重要で、フレイルと判定された高齢者には、入院前や入院期間中の運動指導やリハビリテーション介入、栄養療法の必要性が示唆された。
【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に沿って実施し、所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:17)。