主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2023 in 熊本
回次: 1
開催地: 熊本
開催日: 2023/11/25 - 2023/11/26
p. 80-
【はじめに】 コグニサイズとは、コグニション(認知)とエクササイズ(運動)を組み合わせた造語で、頭で考えるコグニション課題と身体を動かすエクササイズ課題の二重課題を同時に行う運動プログラムである。先行研究において、このコグニサイズは、軽度認知機能障害(MCI)を有する地域在住高齢者の認知機能や身体機能の維持・改善に有用であることが明らかとされている。今回、MCIが疑われた高齢骨折患者に対して、バランス能力および認知機能の向上を目的にコグニサイズを導入したため、その経過を報告する。
【症例紹介】 症例は80歳代女性で、診断名は第3腰椎圧迫骨折であった。第7病日目の評価にて、疼痛はNRSで2~3と軽度であったものの、Berg Balance Scale(BBS)は29/56点(カットオフ値:45点)、Timed Up and Go test(TUG)は15.3秒(カットオフ値:11秒以上)と、それぞれカットオフ値を下回っていた。認知機能については、禁忌動作の理解や安静度の遵守に困難さを認めるとともに、家族へ入院前の情報を聴取したところ、入院前より作話や同じ内容の話を繰り返し話す場面が見受けられていた。本症例は認知症の診断を受けてはいなかったものの、上述のような事象から我々は、「MCIの存在が日常生活活動に影響を及ぼしているのではないか?」と推測した。そこで、MCIのスクリーニング評価として国際的に広く用いられているJapanese version of Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)による評価を実施した(Fujiwara, 2010)。その結果、15点(カットオフ値:25点)とカットオフ値を下回り、MCIが疑われた(Faga, 2015)。
【理学療法介入】 一般的な理学療法に、国立長寿医療研究センターが開発したコグニサイズを併用した運動療法を実施した。具体的な実施方法は、①座位で左右交互にステップを8回行い指定した数字で外側にステップをする課題、②座位・立位で20回足踏みをし、指定した数字の倍数の時に手を叩く課題、③しりとりや計算など行いながら歩行をする課題の3課題とした。介入は第15病日目より2週間実施した。
【結果】 介入前の評価はBBS:32点、TUG:14.7秒、MoCA-J:15点であった。介入1週後はBBS:32→35点、TUG:14.7秒→13.5秒、MoCA-J:15→19点と改善を認め、さらに介入2週後は、BBS:35→39点、TUG:13.5秒→11.8秒、MoCA-J:19→22点と改善を認めた。
【考察】 バランス能力と認知機能の向上を目的にコグニサイズを導入したところ、“バランス能力の指標であるBBS”と“認知機能の指標であるMoCA-J”ともに改善を認めた。Suzukiらは、MCIを有する地域在住高齢者がコグニサイズを実施することで、脳全体および海馬の萎縮の抑制とともに全般的な認知機能の低下を予防し得ることを報告している(Suzuki, 2013)。本症例は、介入当初こそエクササイズ内容に戸惑いが生じていたが、徐々にその内容の理解が進んだことで、リハビリ以外の時間でもコグニサイズを自主訓練として積極的に実施する様子が見受けられた。本症例の一連の経過について、コグニサイズによる認知的刺激を付加しながらの身体活動の確保が、バランス能力および認知機能の改善に寄与した要因の一つである可能性を示唆した。