九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題17[ 成人中枢神経③ ]
免荷式歩行リフトを用いた歩行練習が効果的であった多系統萎縮症の一考察
O-096 成人中枢神経③
藤原 愛作
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p. 96-

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抄録

【目的】 多系統萎縮症(以下、MSA)の理学療法については幾つか報告があり、集中的な理学療法の短期的効果としてSARAおよび歩行速度の改善が得られたとされている。しかし、歩行練習において強度や具体的手法などの報告が少ないのが現状である。

 歩行練習の安全性や量を確保するために、部分免荷式トレッドミル歩行練習が用いられることが多く、歩行速度、歩幅、持久力などの改善が報告されている。そこで、本症例に対して、部分免荷式トレッドミル歩行練習を実施したが、歩様の崩れなどにより継続実施できなかった。

 そこで、類似の効果が期待できる免荷式歩行リフト(POPO:モリトー社製)を用いることで、MSAの症例に対して、強度を高めた歩行練習が行えるかを検討することが本研究の目的である。

【症例紹介】 本症例は70歳代(女性)、診断名:MSA-C(X-14年)である。主訴は歩行中のふらつき、嚥下障害、既往歴は不安性神経症、中枢性眩暈などであった。画像所見はMRIにて橋、小脳、VSRADでは小脳脚全般に萎縮を認めた。理学療法評価はHDS-R:29点、SARA:8点、粗大筋力:四肢4レベルであった。10m歩行速度は快適歩行速度:16.0秒(34歩)・最速歩行速度は転倒リスクが高く未実施。歩行率は0.34m/秒、6分間歩行:302.3m、FAC:4、FBSは41点であった。

【方法】 本介入は2週間の短期入院の期間に実施した。介入は、通常の理学療法に加え、免荷式歩行リフトを用いた歩行練習を追加した。歩行速度は快適歩行より筋活動が高まるとの報告(小澤ら2019)より、快適歩行速度より速い速度として、歩幅も大きく歩くように指示をした。その際に、免荷式歩行器をセラピストが前方から引っ張りながら歩行の対称性が崩れないように注意した。歩行距離を60mの歩行路を2周×2セットから開始し漸増的に周回数、セット数を増やし、免荷量は先行研究を参考に10 ㎏(体重の20%免荷)とした。

【結果】 介入頻度は毎日実施(計:7回)した。最終(介入7回目)では、10m歩行テストにて快適歩行速度:11.4秒(歩数25歩、歩幅0.4m/歩)、6分間歩行テスト:342.3m(休憩なし)となった。また、一回の運動量は60mの歩行路を4周×3~4セットまで増やすことができた。

【考察】 MSA-Cの症例に免荷式歩行リフトを用いた歩行練習を実施した結果、10m歩行テスト、6分間歩行テストについて改善が得られた。

 本症例は、画像所見により橋、小脳脚全般に萎縮を認めている。そのため、部分免荷式トレッドミル歩行では路面の変化に対して、両下肢の運動企画・修正が上手く行えず、両下肢の律動的運動が破綻した努力性歩行になったと考えた。

 対して、免荷式歩行リフトでの歩行練習は固定床で使用できるため、路面の変化に自身の下肢の運動を合わせる必要がなく、速度を速めても律動的運動が破綻せず歩行練習が継続できたと考える。加えて、免荷式歩行リフトによる免荷と懸垂により、エネルギーコストや転倒リスクが抑えられ、通常より速い歩行速度である高強度の歩行練習が行えたことで、両下肢の筋活動を高めることができ、歩行速度や全身耐久性の向上につながったと考える。

 このことから、MSA-Cの症例において、免荷式歩行リフトを用いた歩行練習が有益である可能性が示唆された。今後、他のMSA-Cの症例に対して、免荷式歩行リフトを用いた歩行練習の有用性を検証していきたい。

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© 2023 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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