九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題17[ 成人中枢神経③ ]
座位保持能力の改善が経口摂取獲得へつながった左脳幹部アテローム血栓性脳梗塞の一例
O-097 成人中枢神経③
鬼塚 楓山口 純平早川 亜津子
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p. 97-

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抄録

【はじめに】 今回、左脳幹部アテローム血栓性脳梗塞を呈し意識レベルの低下と体幹・股関節周囲筋の筋活動低下により姿勢アライメントに崩れが生じ経口摂取獲得に難渋した症例を担当した。先行研究において円滑な摂食・嚥下を行うためには、安定した座位保持や頭頸部および上肢の自由度、体幹・下肢を含めた全身協調運動が必要となると報告がある。そこで、意識レベルの向上・座位保持能力の改善を目指すことで経口摂取の獲得が可能となると考え、回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)で行った工夫と成果について報告する。

【症例紹介】 85歳女性。身長155.0 ㎝。体重49.3 ㎏。

 入院前ADLは食事自己摂取可能、車椅子移動・排泄・入浴は一部介助レベルであった。

 令和4年8月X日、左脳幹部アテローム血栓性脳梗塞を発症した。既往歴として、アルツハイマー型認知症がある。X+1日より理学療法を開始した。X+5日Covid-19発症し、X+15日までは理学療法は非実施であった。X+15日より回復期リハ病棟転棟し、理学療法を再開した。

【アプローチ前経過】 初期評価としてはJCSⅡ-30~Ⅲ-100, Brunnstrom Recovery Stage(以下、BRS)右上肢Ⅱ手指Ⅰ下肢Ⅱ、高次脳機能障害が認められた。筋緊張(R/L):ハムストリングスMAS(3/3)。立ち直り反応は頸部・体幹左右ともに陰性で、抗重力肢位での自立保持は困難であり、端座位は全介助レベル。食事場面では食塊を口にため込み嚥下に時間を要し40分で0.2割程度の摂取量であった。藤島摂食状況レベルLv2。本症例は経口での食事摂取量低下により、X+18日より3食経管栄養となった。X+34日より昼食のみ経口摂取再開したが、食事量増加に至らなかった。症例では、筋緊張亢進による両内側ハムストリングスの短縮しており、両骨盤後傾位、両膝関節屈曲位、麻痺側体幹筋の収縮が低下することで、不安定な座位姿勢となり嚥下困難となっていたと考えた。

【アプローチとその後の経過】 離床時には血圧が低値でX+31日に医師による服薬調整を実施し、離床機会の拡大に繋がった。X+34日より体幹筋賦活を図り、リーチ動作練習を行った。また、股関節周囲筋・体幹筋活動の賦活、足底感覚入力を図り、立位保持練習、荷重練習、起立練習を段階的に行った。X+36日より食事摂取量も徐々に増加し、3食経口摂取となった。食事時間平均40分で5割摂取。X+42日よりリクライニング車椅子にて食事摂取開始。頸部・体幹の立ち直り反応が出現し、抗重力姿勢で頚部・体幹の保持が可能となる。X+56日にはBRS右上肢Ⅲ下肢Ⅲ、嚥下状態は藤島摂食状況レベルLv7となる。リハビリ場面ではスタンダード車椅子に乗車し食事摂取開始。X+70日より実際のADL場面で車椅子座位での食事摂取機会拡大を目的に、食事姿勢やポジショニング、介助方法を作業療法士・言語聴覚士と検討し、病棟スタッフへ共有した。これらの結果、毎食車椅子座位にて食事摂取可能となった。X+100日には食事は車椅子座位にて食事時間平均25分で10割摂取が可能となった。

【考察】 車椅子座位での経口摂取を目指し、意識レベルの向上、座位保持能力の獲得、座位の耐久性向上を図った。座位保持能力の獲得のため、起立練習、立位保持練習、荷重練習を行なった結果、端座位での抗重力肢位の保持が可能となった。さらに、食事姿勢を検討し、骨盤中間位へ誘導した姿勢により、車椅子座位の安定性向上と上肢の操作性向上へと繋がった。食事姿勢や介助方法、ポジショニングを病棟スタッフへ指導し車椅子座位での食事機会拡大することで、座位耐久性の向上に繋がった。その結果、座位での経口摂取が可能となり、摂取量も安定したと考える。

【倫理的配慮、説明と同意】 当院の医の倫理審査委員会の承諾を得(R4-22-2号)、患者・家族に書面を持って同意を得る。

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