九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O1-2
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セッション口述1 成人中枢神経1
乳頭状髄膜腫摘出後に重度麻痺を呈した症例における歩行能力に対する理学療法の効果
中尾 圭佑吉瀬 陽泉 清徳
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キーワード: 歩行, 脳腫瘍, 残存機能
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抄録

【目的】髄膜腫は一般的な原発性頭蓋内腫瘍であり,WHO分類の悪性度Ⅲ腫瘍は,乳頭状髄膜腫を含み全体の1~3%とされている.また悪性度Ⅲの腫瘍は,進行性の腫瘍で再発率が高く,予後不良とされている.そこで今回,脳腫瘍術後患者に対し介入を実施した結果,下肢と体幹機能,歩行能力において一定の効果を示したため,経過を報告する. 【症例紹介】乳頭状髄膜腫 (WHO grade3)により左不全麻痺を呈する女性,80代であり,x日に当院へ紹介入院,その後リハビリテーションが開始された.x+42日に頭蓋内腫瘍摘出術を施行された.右前頭頭頂葉の脳実質外腫瘍であったが,脳との境界が不明瞭であり,肉眼的全摘出が行われた.x+43日より術後リハビリテーションを開始.x+62日より放射線療法が開始され,x+87日に短下肢装具を作成,x+105日に回復期リハビリテーション病院へ転院となった. 【経過】入院初期よりリハビリテーションを開始し,x+3日では,下肢Brunnstrom Stages (Br.stage)Ⅳ,独歩での監視歩行,Functional Ambulation Categories (FAC)4であった.しかし,入院中に徐々に運動麻痺が増悪し,腫瘍摘出前x+41日では,下肢Br.stageⅢ,オルトップ型AFOを使用して介助歩行5mと歩行能力の低下を認めた.術後初期評価x+47日では,下肢Br.stageⅡ,Fugl-Meyer Assessment-Lower Extremity (FMA-LE)13点,Trunk control test (TCT)36点,AFOとknee braceを使用して平行棒3m介助歩行,FAC0であり,重度運動麻痺,体幹機能低下,歩行能力の低下を認めた.そこで術後早期より,残存機能の活性化を目的とした,体幹への運動療法,姿勢保持練習,装具歩行を実施した.最終評価x+105日では下肢Br.stageⅣ,FMA-LE23点,TCT100点,Trunk Impairment Scale (TIS)19点,AFO使用してQ-cane歩行監視,T-cane歩行監視,最大80m,FAC3,Q-cane歩行速度0.39m/s,T-cane歩行速度0.41m/sとなった.術後の理学療法を実施した結果,下肢運動機能,体幹機能の向上,歩行能力の改善がみられた. 【考察】本症例は,残存機能の活性化を目的とした運動療法により,歩行能力の改善が得られている.脳卒中に関連する報告では,近位関節と体幹運動機能への皮質網様体路corticoreticular tract (CRT)の関与,対側CRTの活性化が歩行機能の回復へ関与するとされている.術前拡散テンソル画像,術後のCT,MRI画像では,損傷側皮質レベルにおける腫瘍摘出による皮質脊髄路corticospinal tract (CST)の損傷が予測され,左右のCRTへの影響は少ないと考えられた.本症例は進行性の悪性腫瘍,腫瘍摘出による脳損傷患者であるが,脳卒中患者と同様にCRTの活性化により,体幹と近位関節における機能改善が起こり,歩行能力の回復につながったと考えられる.急性期においては最大限能力の向上が得られたが,予後不良な疾患の特徴を考えると施設間の連携,外来リハビリテーションなど,退院後の継続的なフォローが今後の課題と考えられる. 【倫理的配慮】症例に対して十分に説明し同意を得たうえで,当院の研究倫理審査委員会 (承認番号24-0406)を得た.

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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