主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】延髄外側部梗塞により呈するBody Lateropulsion (BL)は視覚的垂直位の障害や前庭機能の不均衡を要因とし一側に体が傾く姿勢制御障害である。理学療法は、バランスと空間的位置づけを改善することに焦点を当て、より対称的な荷重と姿勢制御を促すことが求められる。今回、免荷機能付き歩行器(オールインワン、Ropox A/S社)を歩行練習に用いた結果、姿勢定位や歩行能力向上を認めたため、これらの要因を検討する。 【症例紹介】右延髄外側部梗塞を発症した50歳代男性。発症後14病日目に当院回復期リハビリテーション病棟に入院し、49日間理学療法を実施した。入院時評価はBurke Lateropulsion scale(BLS)8/17点、Fugl-Meyer Assessment下肢運動項目(FMA下肢)31/34点、Berg Balance scale(BBS)11/56点、Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA)12/40点、Functional Assessment for Control of Trunk(FACT)12/20点、Functional Independence Measure 移動項目 (FIM移動)1/7点、Mini-Mental-State 27/30点で高次機能障害はなく、左上下肢体幹に重度温痛覚障害、歩行器歩行中等度介助、独歩実施不可であった。 【経過・方法】A期は15~24病日目、2回/週の免荷機能付き歩行器を用いた歩行練習を実施した。25病日目に独歩軽介助、歩行器歩行見守りで可能となるも、BLS:5/17点と右方向へのBL残存、FMA下肢:31/34点、BBS:44/56点、SARA:8/40点、FACT:17/20点、FIM移動:5/7点であった。B期は26~47病日目、免荷機能付き歩行器を用いた歩行練習を1回/日で3週間実施した。ハーネスの設定は体幹を正中位に誘導し下肢伸展位で足底が設置する状態とし、PTが後方より歩行器を押しながら30mの直進の往復を20分間行った。歩行分析は、3次元動作解析装置(VICON MX、VICON社)を用い、介入前 (25病日目)、介入開始から1週間後 (32病日目)、および3週間後(47病日目)に実施した。評価指標は歩行速度、歩隔、右下肢立脚期における右側方への安定性限界(Margin of Stability: MoS)最小値と体幹傾斜角度を用いた。歩行速度(m/sec):25病日目0.43±0.02、32病日目0.78±0.03、47病日目0.96±0.03、歩隔 (cm):22.0±1.2、24.9±1.5、19.4±1.6、右立脚期体幹傾斜角度(°、左傾斜+):8.0±0.95、6.7±1.02、1.5±0.39、MoS(㎝):4.7±0.8、7.0±1.5、7.1±0.6であった。最終評価 (48病日目)は、BLS:0/17点、FMA下肢:33/34点、BBS:50/56点、SARA:5/40点、FACT:20/20点、FIM移動:7/7点となり、歩行時のBLは消失、屋内移動は独歩自立となった。 【考察】今回BLを呈する患者に対し、免荷機能付き歩行器を用い、姿勢を垂直位に修正した中で歩行練習を実施することは、BLに有効とされる固有受容器への感覚入力と適切なアライメントでの歩行の運動学習に有効と推測した。A期ではバランス機能やBLは改善し歩行能力の向上を認めたが、独歩軽介助レベルであり更なる歩行能力の向上が必要と考えた。歩行機能を改善させるために、頻回な歩行訓練を行うことが勧められることから、B期では頻度を毎日とし3週間実施した。B期では、MoSは拡大し、歩隔と体幹傾斜は減少、歩行速度の改善を認めた。このことより、BL患者に適切なアライメントでの歩行練習に免荷機能付き歩行器を導入し、さらに歩行能力に準じ歩行練習の頻度を調整したことで効果的な運動学習を可能としたことが、歩行能力向上に寄与した一要因と推察する。今後は、症例数を増やし免荷機能付き歩行器の介入効果や実施頻度についても検証する必要があると考える。 【倫理的配慮】本研究は、症例の同意と本法人研究倫理審査委員会の承認(承認番号:24-282)を得た。