九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O1-4
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セッション口述1 成人中枢神経1
脳卒中治療ガイドラインに基づいた介入が膠芽腫患者のQOLに及ぼす影響
―EQ-5D-5Lを用いた介入評価―
林 雄李草葉 隆一最所 雅岡澤 和哉御厨 咲江藤野 英次郎加賀 駿川口 謙一
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抄録

【目的】膠芽腫は,脳腫瘍のなかで最も悪性度が高く,5年生存率は10%以下の予後不良な疾患であり,腫瘍による運動麻痺や感覚障害,高次脳機能障害も呈する.また,手術や化学療法,放射線療法による入院の長期化が,ADLやQOL低下の要因となるため,リハビリテーション (以下,リハ)のニーズは高い.しかし,運動障害を有する脳腫瘍患者に対するリハ効果を示した報告は限定的であり,脳卒中治療ガイドラインに準じ実施している.今回,脳卒中治療ガイドラインに基づいた介入を膠芽腫患者に行い,EuroQol 5 dimensions 5-level (EQ-5D-5L)を用いて介入評価した一例を報告する. 【症例紹介】 症例は身長175cm,体重65.9Kgの50代男性である.X年9月,突然右上下肢の異常感覚を自覚した.同日,右上下肢の異常感覚と軽度脱力を再び自覚し,前医を受診.MRIにて左前頭葉および側頭葉に19×21×19mmの腫瘍性病変を認め,精査加療目的に当院入院となった.当院での造影MRIにて左前頭葉弁蓋部の深部と左側頭葉の先端部,左基底核部の増強病変とFLAIRでびまん性に左前頭葉から側頭葉にかけて高信号域の広がりを認めた.広範囲な腫瘍摘出は困難と判断されたため,入院14日目に開頭生検術を施行し,病理診断により膠芽腫と診断された.リハは術後5日目より開始し,後療法として術後20日目よりテモゾロミド放射線同期療法を60Gy/30Fr施行し,ベバシズマブを3回投与された.リハ開始時のmodified Rankin Scale (mRS)は3,Karnofsky Performance Status (KPS)は70%であった. 【経過】ベッドサイドより介入し,Br.stageは上肢Ⅳ-手指Ⅳ-下肢Ⅴの右片麻痺を呈していたが,起居動作と移乗は自立し,トイレは部分介助,歩行は平行棒内を監視下で可能であった.リハの目標は,腫瘍摘出が困難であったことから運動麻痺の増悪が予測されたため,残存機能とADL動作の維持と設定した.ベッドサイドリハでは全身状態の確認を行いながら離床拡大を図り,リハビリ室で介入開始後は脳卒中治療ガイドラインに基づ き,起立や歩行練習を中心とした積極的な下肢運動をややきついと感じる疲労感を目安に1日40分,週5日実施した.運動麻痺は,経時的に増悪したが,長下肢装具を使用し可能な限り立位や歩行練習を継続した.術後25日目頃より倦怠感や食欲不振がみられはじめたため,プログラムや負荷量を適宜調整し,体調に配慮しながら実施した.術後70日目の転院時は,入院時より体重が10.2kg減少し,Br.stageは上肢Ⅲ-手指Ⅲ-下肢Ⅳ,mRS 4,KPS 60%と低下していた.しかし,起居動作と移乗,トイレ動作の介助量は介入時と変化がなかった.介入時と退院時のCancer Functional Assessment Set (cFAS)は68→42点,Functional Ambulation Categories (FAC)は2→1,FIMは92→78点,BIは70→60点となったが,EQ-5D-5Lは「移動の程度;5→5」「身の回りの管理;3→2」「ふだんの活動;3→2」「痛み/不快感;3→1」「不安/ふさぎ込み;2→2」となり,効用値では0.349→0.530と向上し,EQ-VASは75/100mmと変化がなかった. 【考察】膠芽腫は予後不良な疾患であり,積極的なリハ介入によるADL維持や本人の希望に沿った日常生活支援が重要である.今回,2か月以上の入院期間において経時的に身体機能やADLは低下したが,残存機能の維持や日常生活への支援がQOL向上に寄与したと考える.運動麻痺を認める脳腫瘍患者において脳卒中治療ガイドラインに基づいたリハビリテーションの介入意義は異なるが,下肢運動を中心とした積極的介入は膠芽腫患者のQOL向上につながる可能性が示唆された. 【倫理的配慮】対象者に口頭及び書面にて症例報告の目的を十分に説明し同意の署名を得た.

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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