九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O2-3
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セッション口述2 骨関節・脊髄1
『腰椎固定術の術式の違いによる移動手段の獲得と入院期間についての一考察』
宮川 洋一上町 陽夏本多 裕司篠原 晶子依田 周
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抄録

【目的】当院では2021年より腰部脊柱管狭窄症の術式の一つとして内視鏡にて椎間体固定術を行うME-ELIF (Micro Endoscopic-Lumber Inter Body Fusion)が施行され、件数は年々増加傾向にある。腰部脊柱管狭窄症の固定術について、間接除圧のME-ELIFは直接除圧のTLIF (Transforaminal Lumber Inter Body Fusion)よりも手術時間が短く出血量も少ない。このためME-ELIFの方が手術時の患者への身体的負担が軽いと推察される。そこで、身体的な負担の軽減により術後の患者の移動手段の自立の獲得が入院期間にどのように影響するのか、ME-ELIFとTLIFの術後の経過を比較した。 【方法】2021年1月から2023年5月までにME-ELIFまたはTLIFを施行された173症例に対し術式による手術時間、出血量を調べ、手術から退院までの期間と入院時、入院中の移動手段の自立までの期間、退院後の移動手段について後ろ向きに調査した。比較にはPearsonの相関係数を用いた。 【結果】ME-ELIFを施行された患者 (以下、M群)は104名 (男性59名、女性45名)、TLIFを施行された患者 (以下、T群)は69名 (男性51名、女性18名)だった。平均年齢はM群で68.9歳、T群で67.0歳だった。手術時間と出血量の平均はM群で90.0分と53.1g、T群で120.7分と98.9gだった。入院期間の平均はM群で29.6日、T群で29.7日だった。入院時の移動手段はM群では独歩76名、杖歩行16名、その他12名、T群では独歩53名、杖歩行3名、車椅子13名だった。退院時の移動手段はM群では独歩84名、杖歩行18名、その他2名、T群では独歩56名、杖歩行10名、その他3名だった。退院時に独歩でなかった患者の退院後の受診時の移動手段はM群では独歩4名、杖歩行16名、T群では独歩6名、杖歩行4名、車椅子3名だった。独歩または杖歩行自立を獲得した割合はM群では退院時98.0% (102名)、退院後は100%、T群では退院時、退院後いずれも95.6% (66名)だった。術後移動手段が自立するまでの平均日数はM群では5.6日、T群では6.9日だった。退院時の移動手段が自立するまでの期間はM群では19.4日、T群では17.2日だった。入院期間との関連は術後の移動手段の自立ではM群ではr=0.65、T群ではr=0.64 だった。入院期間と退院時の移動手段の自立ではM群ではr=0.82、T群ではr=0.74だった。 【考察】両者とも自立した移動手段の獲得が早いほど入院期間は短い傾向にある。入院期間は両者に差はなかったが、退院には社会的背景など他の要因が影響していることが推察される。移動手段の自立にかかる期間は術後ではM群が1日早かったことは、ME-ELIFにより1日でも患者の負担を軽減できるものと考える。退院時の移動手段を獲得するまでの期間と入院期間ではM群との相関がより高い傾向にあった。また、退院後の移動手段まで含めるとM群では全ての患者が独歩または杖歩行自立を獲得していた。それらの要因について、患者の身体への負担が軽いME-ELIFの術式の長期的な意味があることが考えられる。 【結語】退院レベルの移動手段自立の期間は入院期間と相関関係にある。ME-ELIFはTLIFより1日早く移動手段の自立を獲得する。ME-ELIFにより患者の負担が減ることで退院後の移動能力向上への関与が示唆された。術後早期の移動手段の自立には歩行以外の動作の獲得を含む。術式による身体への負担を考えると術後早期の動作にME-ELIFとTLIFとの間により明確な差が出る可能性がある。今後は術後早期のADL獲得にも注目して比較していく。 【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に則り、患者への説明と同意を得て実施した。

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