九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O3-3
会議情報

セッション口述3 基礎
背景音楽への注意の誘導が運動学習に及ぼす影響
山本 良平衛藤 陸翔平田 吏音米村 麻希
著者情報
キーワード: 運動学習, 背景音楽, 注意
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】運動学習に重要とされる快感情を引き出す要因の1つに音楽があり、リハビリテーションなどの現場で背景音楽(以下、BGM)として用いられている場面を目にする。認知学習においては課題中の音楽聴取は課題から注意が逸れるため、有効ではないとされている。一方で、運動学習においては注意を身体の運動から逸らすような指示が有効とされており、BGMへの注意によって課題そのものから注意が逸れ、運動学習が促進される可能性があるが、現状ではその効果は明らかとなっていない。そこで本研究では、動作練習中にBGM に注意を向けるよう指示を与えた場合と与えなかった場合の運動学習効果の違いについて検証した。 【方法】健常成人24名をBGMに注意を向けるよう指示を与える「指示群」と与えない「非指示群」の2群に振り分けた。学習する課題は直径40cmのダーツボードの中心にダーツを的中させる課題とした。測定手続きとして、1日目はプレテストと20試行で構成される練習、アンケート、練習後テストを行い、2日目に確認テストを行った。全てのテストは5試行で構成され、BGMは再生しなかった。練習中のみBGMを再生し、指示群では5試行毎にBGMに注意を向けながら練習するよう指示した。なお、BGMは全対象者で歌のない同一の曲を使用した。練習終了後のアンケートでは「BGM に注意を向けたか」、「BGM は不快だったか」、「リラックスして練習できたか」、「運動や勉強の際にBGMを聞く習慣はあるか」について7段階リッカートスケールを用いて確認した。課題成績はダーツボードの中心からダーツの刺さった場所までの距離とし、各テストで平均値を算出した。テストの時期および指示の有無を独立変数、各テストの成績を従属変数とする二元配置分散分析および下位検定を行った。各アンケート結果に関しては、群間比較としてMann-Whitneyの検定を実施した。また、各アンケート結果および練習後テスト、確認テストの成績に対してSpearmanの相関分析を行った。 【結果】二元配置分散分析の結果、「テスト」に有意な主効果が認められ、両群ともにプレテストが練習後テストと比較して有意に大きな値を示した。しかし、有意な「指示の有無」の主効果と交互作用は認められなかった。また、Mann-Whitneyの検定の結果、「BGMに注意を向けたか」では指示群が非指示群と比較して有意に高い値を示した。加えて、Spearmanの相関分析の結果、練習後テストの成績と「BGMに注意を向けたか」に有意な中等度の負の相関を認めた。また、「運動や勉強の際にBGMを聞く習慣はあるか」と「BGMは不快だったか」に有意な強い負の相関を認めた。 【考察】指示の有無に関わらず練習によって学習課題の成績が向上すること、その程度は練習中に音楽に注意を向けていたほど大きくなることが明らかとなった。練習中に音楽に注意が向くことで自分の運動そのものに意識を向けることなく課題を遂行でき、効果的に成績を向上させた。ただし、プレテストと確認テストに差はなく、運動学習は生じなかった。本研究では快感情として音楽を用いたが、対象者の音楽視聴習慣によってはBGMが不快刺激となり、運動学習を阻害した可能性がある。 【結語】注意がBGMに向くことで運動そのものに注意が向きやすい学習者においても練習直後の成績が向上しやすくなる可能性がある。ただし、学習者の音楽聴取の習慣を考慮して練習場面にBGMを取り入れるかどうかを決定する必要がある。 【倫理的配慮】対象者には事前に書面と口頭にて研究の目的と方法、研究上の不利益、個人情報の保護について説明し、書面にて研究協力の同意を得た。また、本研究は所属機関の倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号:22038)。

著者関連情報
© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
前の記事 次の記事
feedback
Top