主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに】 地域包括ケア病棟の施設基準には入床60日以内に自宅に退院することが含まれている。さらに,令和6年度の診療報酬の改定で40日以内の早期退院は診療報酬上の評価が高くなることが示された。患者の訴えとしても早期退院を望む声は多く,早期退院を目指す取り組みが必要である。しかし,地域包括ケア病棟患者を対象とた,入院期間に影響する因子を探索した報告は我々が渉猟した限り見当たらない。そこで本研究の目的は,地域包括ケア病棟患者の早期退院に影響する因子を検討することとした。本研究によって地域包括ケア病棟患者の入院日数の短縮に寄与する報告となり,退院に向けた支援や理学療法を行う一助になると考える。 【方法】 本研究は,当院の地域包括ケア病棟に入院した患者を対象とした後方視的縦断研究である。選定基準は,地域包括ケア病棟に入院し令和4年9月1日から令和6年3月31日までに退院した患者122名とした。基本情報である年齢,性別,身長,体重,ボディマス指数 (body mass index:BMI)および認知機能は改訂長谷川式簡易知能検査 (hasegawa dementia rating scale -revised:HDS-R)で評価した。身体機能は,体重比握力,体重比膝伸展筋力,short physical performance battery (SPPB)を評価した。日常生活動作 (Actives of daily living:ADL)はバーサル指数 (barthel index:BI)で評価した。まず,データが正規分布しているかを確認する目的でShapiro-Wilk検定を行った。次に,40日以内に退院したものを早期退院群,41日以上60日以内に退院したものを通常退院群とし2群に分け比較した。2群比較はt検定, Mann-Whitney U検定,χ2検定を行った。次に,早期退院に影響する因子を探索することを目的に従属変数を早期退院群,通常退院群,独立変数をSPPB,体重比握力,HDS-Rとした 2項ロジスティック回帰分析を行った。Model 2として性別,年齢,同居者数を共変量として投入し,交絡の調整を行った。統計学的有意水準は5%とした。 【結果】 分析対象者は,地域包括ケア病棟に入院し自宅に退院した患者122名[平均年齢87 (81-90)歳:男性51名,女性71名]であった。2項ロジスティック回帰の結果,早期退院には,SPPB合計点[OR:0.75 (95%信頼区間:0.57-0.98)]が影響することが明らかになった。その後,Model 2で交絡因子の調整を行っても早期退院とSPPBの関係性は堅持された。。 【考察】 本研究は,地域包括ケア病棟に入院した患者を対象に早期退院に影響する因子を検討した。入院時のSPPBが高い者ほど地域包括ケア病棟の退院が早い可能性が示された。SPPBは下肢機能を包括的に評価することができる評価である。下肢機能が低いことが,早期退院を妨げている要因であると推察する。加えて下肢機能が低いものは,リハビリテーションによる能力の向上にも時間がかかり,入院期間が長くなっているのではないだろうか。だが,運動介入によりSPPBは改善することが明らかにされていることから,下肢機能に着目したリハビリテーションを行うことで入院期間の短縮を目指せるのではないかと考える。本研究の結果から,地域包括ケア病棟に入院した患者の早期退院を目指すためには下肢機能の改善が必要である可能性が示された。 【倫理的配慮】本研究は,ヘルシンキ宣言の精神に基づき「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守して実施した。対象者には研究の趣旨と内容,及び個人情報の漏洩に注意することを口頭で説明した。研究への参加は自由意志であり,参加しなかった場合でも不利益にならないことを説明した。なお,本研究は当院の倫理審査員会の承認を得て実施した (承認番号:KOGA2024001)