主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】Ramsay Hunt症候群は顔面神経麻痺を主な症状とする疾患であり、治癒率は60%と改善しにくい症候群である。今回、他職種がいない環境でも多角的介入を行ったことで、自宅退院を達成したRamsay Hunt症候群を発症した症例を経験したためここに報告する。 【症例紹介】90歳代男性。入院前は独居生活であり、ADLは自立し、買い物や家事も自身で行っていた。X月Y日に自宅で転倒し、右第6-7肋骨骨折の診断で整形外科に入院となる。整形外科入院中にRamsay Hunt症候群を発症し、ADLが低下していた。自宅退院したが生活が困難となったため、整形外科退院後1週間で当院にリハビリテーション目的で入院となる。 【入院時所見】左顔面の広範囲に皮疹による痛み、味覚低下、舌や口腔内の感覚障害、口腔内水泡や粘膜の剥離が認められ、食事摂取に苦痛を訴えていた。体重は受傷前56kgから50kgまで減少していた。また、内服薬を12剤飲まれており、ポリファーマシーの状態であった。身体機能面では、握力:23.7kg、5回椅子立ち上がりテスト:22.5秒、歩行速度:0.4m/秒でサルコペニア状態。ADLはFIM:運動44点、認知21点、合計65点。栄養状態はBMI:18.6kg/m2、体重減少率:10.7%/2か月、下腿周囲長:30cm (浮腫+)、食事摂取量:1割で低栄養状態。口腔状態はOHAT-J:7点で口腔状態はやや不良。嚥下機能はRSST:1回/30秒、FOIS:6であり、唾液分泌不全による嚥下機能低下が疑われた。本人の希望として、自宅での生活を強く望まれており、ご家族も同意していた。 【経過】本症例の問題点としてRamsay Hunt症候群による顔面、口腔の痛みや感覚異常から低栄養状態となり、身体機能、ADLが低下していることが考えられた。介入として、身体面では、栄養状態を考慮してMETs≦3の運動負荷から開始し、漸増的に運動量を増やしていった。栄養面では、本人が食べやすい物を提供し、食事量の増量を図った。口腔面では、訪問歯科の介入を依頼し、口腔状態の改善を図った。内服薬については、主治医と相談しながら内服薬の見直しを行った。経過として、入院当初はめまいや嘔気が出やすい状態であり、離床が難しい状態であった。動作時の症状を主治医に相談したところ、めまいや嘔気が生じる薬剤が重複して処方されていたため、薬剤調整が行われた。3週目より、めまいや嘔気は軽減し、離床ができる状態になった。しかし、口腔内の感覚異常は持続しており、食事摂取量は少ない状態だった。4週目より口腔内の感覚異常は軽減していき、食事量が半量以上摂取できるようになった。この頃より、杖歩行は病棟内自立レベルまで向上し、トイレに自分で行くことができるようになった。5週目に要介護認定が出たため、ご家族と今後について話し合いを行い、介護保険サービスや食事内容などについて、支援方法を検討した。6週目に本人、ご家族、ケアマネジャーを交えて退院前カンファレンスを開催し、7週目に自宅退院となった。 【結果】身体機能面では握力:18.9kgと低下を認めたが、5回椅子立ち上がりテスト:17.8秒、歩行速度:0.8m秒、FIM:運動74点、認知26点、合計100点と改善した。栄養状態はBMI:18.7kg/m2、下腿周囲長:27cm (浮腫-)だったが、食事摂取量は7-8割でGLIM基準低栄養からは脱した。口腔状態はOHAT-J:3点で口腔状態は改善し、嚥下機能はRSST:2回/30秒と改善した。 【考察】今回、多職種連携が困難な状況で身体面だけでなく、栄養、口腔、薬剤にも着目することで、複合的な要因によって生活機能が低下している症例の生活機能を改善することができた。身体機能だけでなく多角的な視点を持つことで、様々な背景を持つ患者の生活機能の改善につながる可能性がある。 【倫理的配慮】発表にあたり、患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し、本人に書面にて説明を行い同意を得た。