九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O12-1
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セッションロ述12 成人中枢神経3
重症妊娠悪阻の周産期管理入院中に腸腰筋血種ないし膿瘍を発症し両側大腿神経麻痺を呈した症例に対する理学療法の経験
石川 空美子伊藤 沙織
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抄録

【目的】 重症妊娠悪阻の周産期管理入院中に腸腰筋血種ないし膿瘍を発症し両側大腿神経麻痺を呈した症例に対する理学療法を経験したため報告する。 【症例紹介】 X日子宮筋腫合併妊娠と重症妊娠悪阻のため妊娠9週0日に当院へ周産期管理目的で入院となった40歳代女性,X+19日廃用症候群予防とADL維持目的で理学療法処方となった。悪阻により経口摂取は困難であり,栄養確保のため右鎖骨下静脈へPICCカテーテル留置された。しかし,X+22日右腋窩の疼痛と発熱があり,末梢静脈炎が疑われPICC抜去,抗菌薬が開始された。さらに右上腕静脈に血栓をみとめたため,ヘパリン静注が開始された。起き上がり動作にて容易に嘔気や嘔吐を誘発する状況であったため,理学療法は本人の訴えを傾聴しながら,臥位での下肢ストレッチや抵抗運動から開始した。嘔気が落ち着いている際は車椅子にて院内コンビニへ誘導し,食べられそうなものを探すなど精神面に配慮しながら離床を促した。終日臥床傾向ではあったが,トイレ歩行など自室内ADLは自立されていた。 しかし,X+36日両股関節周囲に強い疼痛が出現,子宮筋腫の変性痛が疑われ,各種鎮痛薬が使用された。しかし,いずれも効果乏しく1時間おきにフェンタニルをフラッシュする状態であり,消極的希死念慮や中絶の訴えが聞かれる状態となり,理学療法介入は困難な状況であった。X+41日血液検査にてWBC,CRP,CK値上昇,X+42日造影CT検査を行ったところ,両側腸骨筋内に内部不均一な多房性嚢胞性腫瘤が出現しており,感染合併した血種や膿瘍の可能性があり,X+45日ドレナージ術が施行された。X+48日理学療法再開したが,大腿四頭筋MMT1/0 (R/L)の筋力低下,両側L3-4領域の表在感覚重度鈍麻,深部感覚鈍麻,痺れ,両側膝蓋腱反射の消失をみとめ,起立動作や車椅子移乗動作は全介助レベルであり歩行困難であった。X+59日中期中絶となった。各種所見から両側腸腰筋血種ないし膿瘍によって両側大腿神経麻痺をきたしている可能性が考えられた。 【経過】 X+62日リハビリ再開し平行棒内歩行練習開始したが,両膝折れ著明であった。疼痛に関しては,ドレナージ術後より徐々に軽減し,鎮痛薬は漸減された。X+67日両下肢ニーブレイス着用し歩行器歩行練習開始した。その後,段階的に膝装具着用下での歩行練習,上肢のプッシュアップを利用した起立動作や移乗動作等を反復して実施した。X+90日ROM調整チップで膝関節角度調整可能な両側金属支柱付き反張膝装具を選定しT-cane歩行や独歩練習開始,X+101日段差昇降練習開始した。X+115日両側膝装具着用しT-cane歩行で院内ADL自立となった。X+117日屋外歩行練習開始,その後2回の試験外泊を経てX+141日に自宅退院となった。最終評価時,大腿四頭筋MMT2/2, 両側L3-4領域の表在感覚中等度鈍麻・痺れあり,10m歩行速度12.3秒であった。 【まとめ】 両側腸腰筋血種ないし膿瘍による両側大腿神経麻痺の報告は稀であり,特に本症例は周産期管理中の発症であったため診断,疼痛コントロールや理学療法介入に難渋した症例であった。また,悪阻や強い疼痛により中期中絶となり精神面にも配慮が必要な症例であり,産婦人科医や助産師等他職種やご家族と連携を図りながら介入をおこなった。両側大腿四頭筋の筋力低下とL3-4領域の感覚障害は当院入院中に大きく改善はみられなかったものの,装具処方,代償動作の反復練習や積極的な四肢筋力トレーニングを行うことでADL拡大し自宅退院が可能となった。 【倫理的配慮】本報告は,ヘルシンキ宣言に基づき,基本情報や理学療法評価結果のデータを個人が特定されない形で使用することを本人に十分に説明し,同意を得た。

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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