九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O14-2
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セッションロ述14 成人中枢神経4
小脳橋角部腫瘍摘出後の運動失調に対する理学療法の経験
小川 海斗後藤 響片岡 英樹山下 潤一郎
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抄録

【はじめに】脳腫瘍がテント下に発症した場合,小脳障害による運動失調やバランス障害を呈しやすく,腫瘍摘出術後もそれらの障害が残存することは少なくない.一方,運動失調に対するリハビリテーションでは,運動課題における難易度の調整と反復練習が重要とされている.今回,小脳腫瘍摘出後に運動失調が残存した症例に対して,主観的に難易度を調整しながら運動課題を反復練習する介入が奏功した症例を経験したため報告する. 【症例紹介】症例は60代の女性 (身長162㎝,体重53㎏)で,X-13年にA病院にて右小脳橋角部腫瘍を指摘され,X-11年に開頭腫瘍摘出術が施行された.しかし,X-5年頃より同部位の腫瘍が増大し,X-5日に動脈塞栓術を施行後,X日に2回目の開頭腫瘍摘出術が施行された.術後のMRIでは,右小脳橋角部からMeckels cave,脳幹部にかけて腫瘍の残存を認めた.X+1日よりリハビリテーションが開始となり,X+31日当院の回復期リハビリテーション病棟に転院となった. 【初期評価(X+31日)】右聴力の低下は認めたもののMMSEは24点で,著明な認知機能の低下はなかった.Scale for the Assessment and Rating of Ataxia (SARA)は17.5点(歩行6点,立位3点,坐位4点,言語障害1点,指追い試験1.5点,鼻-指試験2点,手内外運動1点,踵脛試験3点)で,右側に協調性運動障害や姿勢制御障害,測定障害を認めたが,ロンべルグ徴候は陰性であった.Functional Balance Scale (FBS)は13点とバランス障害を認め,起居動作,端坐位,立位保持には物的支持を要していた.酩酊歩行を認め10m歩行速度は15.5秒であった.FIM運動項目は52点であり,病棟内歩行は馬蹄型歩行器見守りレベルで,特に方向転換に介助を要していた. 【治療目標・方法】初期評価時点でのSARAの結果から,退院時に歩行自立が可能となることが予測されたため,「歩行自立し在宅復帰すること」を目標とした.介入戦略としては,運動課題の反復練習によって運動学習を促し,運動失調を含めた機能改善を図ることを目的に,姿勢保持練習 (静的座位・立位保持練習),重心移動練習 (ステップエクササイズ),歩行練習 (メトロノームを使用した律動的練習)を中心に運動療法を展開した.なお,各運動課題の難易度設定にはNumerical Rating Scale (NRS)を用いて主観的な難易度を聴取し,NRS6~7程度となるように設定し,NRS5以下となった際は難易度を再調整した. 【経過】介入初期はベッド上の座位,閉脚立位練習,ステップ幅10㎝のステップエクササイズ,Beats Per Minute(BPM)80の律動的な歩行練習から開始した.X+71日,それぞれタンデム立位保持,ステップ幅20㎝,BPM70に難易度が向上しており,SARAは15点,FBSは38点に改善していた.X+100日,姿勢保持練習は終了し,ステップ幅30㎝のステップエクササイズ,BPM65の歩行練習が可能となり,T字杖歩行が自立した.最終評価ではSARAは6点 (歩行2点,立位2点,踵脛試験2点),FBSは51点と運動失調とバランス能力の改善を認めた.また,酩酊歩行による進行方向の逸脱は軽減し,10m歩行速度も9.67秒と向上を認めた.FIM運動項目は69点となりX+121日に在宅復帰した. 【考察】本症例において,主観的に難易度を調整した運動課題の反復練習は障害された内部モデルの再構築を促し,運動失調やバランス能力の改善に寄与したことが推察される.以上のことから,小脳腫瘍摘出後の運動失調の残存に対し,主観的に難易度を調整した運動課題の反復練習は,運動失調やバランス能力の改善に有効である可能性が示唆された. 【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,本人及び家族に説明と同意を得た.

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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