九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: O14-3
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セッションロ述14 成人中枢神経4
失調症状を呈した脊髄小脳変性症患者に対するVirtual Reality技術(mediVRカグラ®)を用いた介入
永徳 研二河野 純哉衛藤 航平篠原 美穂
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抄録

【はじめに】 当院では患者サービスの向上や職員の負担軽減を目的に、疾患種別によらず高い治療効果が期待できるmediVRカグラ®(以下カグラ)を2023年7月に導入した。近年、医療の現場にもVirtual Reality (以下VR)技術の応用が注目され始めているが、カグラは、VR空間上に表示されるオブジェクトに向って、能動的にリーチ動作を繰り返すことで脳内の情報処理過程に働きかけることを目的としたリハビリテーション機器である。脊髄小脳変性症 (spinocerebellar degeneration: 以下SCD)は運動失調を主体とした進行性の神経疾患の総称であり、小脳や脊髄の神経変性によって生じるバランス障害はSCDの中核的障害の一つである。SCD患者に対するVRを用いた治療報告は少ないが、今回、SCD患者に対して歩行能力やバランス能力の改善を目的にカグラを使用し介入効果が得られたので報告する。 【方 法】 対象は70歳代男性、約7年前にSCDと診断され、在宅にて訪問リハを週2回利用中であった。介入方法は外来リハにてカグラを使用した約40分のトレーニングを隔週にて計14回 (約6ヶ月間)実施した。評価項目は立位バランス能力の評価には重心動揺検査装置 (ANIMA社製 BW-6000)を使用し開眼立位姿勢にて30 秒間を記録し、面積軌跡長検査に属する総軌跡長、矩形面積を算出した。歩行能力の評価には10m歩行スピードを用い、測定方法は快適歩行速度にて実施した。また、包括的運動失調検査のScale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下SARA)、包括的姿勢バランス検査のBerg Balance Scale(以下BBS)についても評価した。 【結 果】 総軌跡長は初回338.92㎝、介入14回目163.01㎝、矩形面積は初回73.68㎤、介入14回目28.69㎤、10m歩行スピードは初回113.9秒、介入14回目26.5秒、SARAは初回20点、介入14回目14点、BBSは初回32点、介入14回目37点と何れも改善を認めた。 【考 察】 長谷はフィードバック (以下、FB)を課題実行時の運動スキルに関する情報が患者自身の視覚や深部感覚などを通じて入力される内在的FBと外部から教示される外在的FBに分類し、運動における身体の各部位間の協調、タイミングの調整や力量の制御によって正確性やスピードを向上させるためには、課題を行うことで患者自身が得る内在的FBに基づいた手続き学習が重要な役割を果す事を示している。また、道免は脳皮質の再編成を効率的に行うためには、その動作の完了と同時に適切で強力なFBを患者に自覚させることが重要であり、再編成効率は運動バリエーションと運動回数に依存している事を報告している。カグラでは意図した動作が成功した瞬間に視覚、聴覚、触覚刺激を用いた内在的FBが可能であり、更には7つの運動パラメーター (距離、高さ、角度、大きさ、スピード、感度、間隔)を容易に調整出来る事で、運動学習の展開がより効率的に行われたと推測する。また、原らによるとカグラ使用時には腹横筋などの深層筋の収縮が明確に得られる事や骨盤前傾および座骨への重心移動の改善を確認しており、反復運動によりバランス能力や歩行能力の改善が図れたと考える。カグラを用いたトレーニングはSCD患者に対して有用である可能性が示唆された。 【倫理的配慮】対象者には研究の趣旨と内容および調査結果の取り扱い等について説明し、同意を得て実施した。また、当院の倫理委員会にて承認 (承認番号R053)を受けて実施した。

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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