主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】 大腿骨近位部骨折術後患者の自宅退院は退院時歩行能力が大きく関与しているため、歩行能力の予後予測が重要となる。大腿骨近位部骨折術後患者の退院時歩行獲得には手術前歩行能力が関係していると先行研究で多く報告されている。術後早期の歩行能力を検討している報告は散見されるが、歩行能力以外のADLを検討した報告は少ない。そこで本研究は、急性期における大腿骨近位部骨折術後患者の術後1週間のADLを比較し検討してみた。 【方法】 対象は2021年1月から2023年12月までに大腿骨近位部骨折に対して手術および理学療法を実施した80歳から99歳かつ手術前歩行が自立していた64例とした。 評価項目は認知機能、歩行練習開始日数、術後1週時点での屋内歩行、移乗動作、トイレ動作、更衣動作とした。屋内歩行、移乗動作、トイレ動作、更衣動作は自立もしくは介助で評価を行った。各項目を80〜89歳 (以下、80代群)と90〜99歳 (以下、90代群)の2群間で比較し検討を行った。統計解析はMann-Whitney U検定およびFisherの正確比率検定を用い、有意水準は5%とした。 【結果】 80代群34例 (年齢86.9±1.7歳)、90代群30例 (年齢93.3±2.5歳)であった。2群間の統計学的な有意差を認めた項目は、手術 前歩行能力は80代群は独歩24名、歩行補助具10名、90代群は 独歩10名、歩行補助具20名 (P<0.05)、歩行練習開始日数は80 代群5.38±5.66日、90代群10.93±10.28日 (P<0.01)、術後1 週時点での移乗動作は、80代群自立16名、介助18名、90代群 自立10名、介助20名 (P<0.05)、トイレ動作は、80代群自立12 名、介助22名、90代群自立0名、介助30名 (P<0.05)であった。 認知機能、屋内歩行、更衣の項目はそれぞれ有意差を認めなか った。 【考察】 80代群と90代群において、手術前歩行能力、歩行練習開始日数、術後1週時点での移乗動作、トイレ動作に統計学的な有意差が認められた。 手術前歩行能力は80代群と90代群を比較すると、80代群の半数以上は独歩であり、歩行様式に差が認められた。先行研究から手術前歩行能力が術後の歩行能力に関与すると多く報告されており、80代群と90代群の手術前歩行能力差が両群の歩行練習開始日数に影響したと考えられた。移乗動作、トイレ動作には起立、立位保持といった基本動作や、踏み変え動作、上げ下ろし動作といった動作が必要となるため、それら動作能力に80代群と90代群で差があったと考えられた。今回の対象は、手術前歩行能力が自立していることからADL活動量は高かったと推察される。しかし80代群と比べて90代群の歩行能力、ADLに差があったことは、手術前歩行能力以外に基本動作が影響する可能性が考えられた。このことは、90代群の急性期理学療法は、基本動作能力に着目した介入の必要性を示唆していると考えられた。 【倫理的配慮】本研究は当院倫理委員会の承認を受け、患者が特定されないように配慮した。