主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】 殿部痛および鼠径部痛は日常診療でよく遭遇する病態であるが、その鑑別は多岐にわたる。従来、殿部痛を呈する病態として坐骨神経の関与が周知されてきた。近年では運動器超音波の普及に伴い上殿神経を含めた末梢神経障害が注目されている。今回、股関節疾患に合併した上殿神経障害の2例を経験したため報告する。 【症例紹介】 症例1は46歳女性。職業は調理師であり、長時間立位での作業を行なっている。約2ヶ月前から誘因なく右股関節周囲の疼痛(NRS6/10)が出現し、前医にて寛骨臼形成不全を指摘され半年間加療受けるも症状改善せず当院紹介され、理学療法開始となる。単純X線では、寛骨臼形成不全を認めるが、関節症性変化は軽度であった。股関節可動域(右/左)は、屈曲120°/125°、伸展5°/10°、内転20°/20°、外転40°/40°、外旋30°/30°、内旋35°/35°であった。筋力 (右/左)は屈曲3/4、伸展3/4、外転3/4と低下を認め、右殿部に圧痛を強く認めた。なお、明らかな下肢神経脱落症状は認めなかった。右殿部の圧痛を超音波ガイド下に確認すると右大坐骨孔、梨状筋上孔に一致しており、カラードプラ法にて上殿動静脈が確認出来た。これらの所見より上殿神経障害が示唆されたことから整形外科医に同部への超音波ガイド注射を依頼したところ、疼痛は軽快した (NRS3/10)。 症例2は74歳女性。以前より変形性股関節症による疼痛を自覚していたが、新たに右殿部から外側の疼痛 (NRS8/10)が出現したため当院受診。単純X線では末期の変形性股関節症を認めた。股関節可動域 (右/左)は屈曲50°/75°、伸展−10°/−10°、内転0°/0°、外転10°/10°、外旋5°/5°、内旋0°/0°であった。筋力に関しては疼痛のため評価困難であった。圧痛は右殿部に認め、明らかな下肢神経脱落症状は認めなかった。症例1と同様に超音波ガイド下に圧痛点を確認すると、大坐骨孔、梨状筋上孔に一致しており、同部位への超音波ガイド下注射を依頼した。注射後は即時的に疼痛の軽減を認めた (NRS4/10)。 【経過】 2例ともに注射後より運動療法を追加した。運動療法では、梨状筋のリラクセーションおよび、上殿神経と梨状筋との組織間での剪断操作、梨状筋を頭尾側に滑走させることで梨状筋上孔を開大させた。 2例ともに理学療法開始1ヶ月で症状は消失し、その後症状の再燃は認めていない。 【考察】 上殿神経障害は梨状筋による絞扼が主な原因と考えられている(Diop M:Surg Radiol Anat,2002)。また、腰椎過前弯 (骨盤前傾)や股関節内旋位により梨状筋が伸張され、腸骨との間で上殿神経がlockされる病態も報告されている (de Jong PJ: J Neurol,1983)。さらに、Raskは上殿神経障害の特徴的な所見として、殿部痛、股関節外転筋力の低下、大坐骨切痕やや外側の圧痛点を3兆候として報告している (Muscle Nerve,1980)。本症例においても同様の理学所見を認めており、2例ともに股関節疾患を背景として、長時間の立位・座位による梨状筋への過負荷が引き金となり、上殿神経障害に起因する殿部痛が生じたと考えられた。 【結語】 股関節疾患に合併した上殿神経障害の2例を経験した。上殿神経障害の発生機序は様々であり、殿部痛の鑑別診断として、上殿神経障害を念頭に置く必要があると考える。 【倫理的配慮】症例に対し、個人情報とプライバシー保護に十分に配慮し、説明と同意を得たうえで実施している。