九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2024
セッションID: P2-4
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セッションポスター2 成人中枢神経
腹臥位療法によりPusher現象が改善し介助量軽減を認めた重度左片麻痺の症例
坂田 祐也泉 清徳
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抄録

【目的】 Pusher現象に対する治療は垂直判断を矯正する認知面へのアプローチや、押せない環境での運動などが多く報告されている。しかし、Pusher現象に対する腹臥位療法の治療効果報告は少ない。今回Pusher現象を呈し基本動作が全介助の症例に対し、腹臥位療法を実践したところ座位におけるPusher現象の即時的な改善と治療効果の持続を認めたため報告する。 【症例紹介】 60歳代、右利きの男性。入院前は独歩自立。自宅にて体動困難となり救急要請され右被殻出血と診断された。発症後3日目の意識障害はJapan Coma Scale(以下JCS)20。運動麻痺は左Brunnstrom stage上肢Ⅱ-手指Ⅱ-下肢Ⅱ。感覚評価は表在感覚および深部感覚ともに重度鈍麻。高次脳機能障害は左半側空間無視、注意障害を認めた。動作能力は、左側への寝返りは柵を使用し見守り、右側への寝返りと起き上がりは右上下肢で抵抗を示し、端座位および立位では、健側上下肢で柵や床を押すPusher現象を認めた。Scale for Contraversive Pushing(以下SCP)6点であった。基本動作は全介助、歩行訓練は転倒リスクが高く実施困難だった。 【介入内容および結果】 Pusher現象に対して、早期より視覚的刺激、座位保持訓練、長下肢装具を使用した立位荷重訓練を実施した。発症後12日目の訓練直後SCP5.25点となり、おもに座位項目で改善を認めるも翌日の訓練開始時にはSCP6点に戻るなど効果の持続は乏しかった。JCS10であり意識障害も残存していた。その為、覚醒改善を目的に発症後13日目に腹臥位にて①上肢挙上屈曲位での手掌の圧迫、②腹式呼吸 (以下腹臥位療法)を開始した。約10分間腹臥位療法にて刺激入力行った直後、JCS3、SCP3.75点へ即時的に改善した。翌日のリハビリ開始時もSCP3.75点であり、持続的な治療効果を認めた。また腹臥位療法実施前よりも日中の覚醒が向上し、指示が入りやすくなるなどの精神面の変化もみられた。発症後17日目の転院前まで一般的な訓練に加え腹臥位療法を実施し、最終評価ではJCS2、SCP3点へ改善を認めた。右側への寝返りと起き上がりは右上下肢の抵抗は消失し軽介助、座位保持は見守り、起立・立位保持・移乗は中等度介助から最大介助となった。 【考察】 Pusher現象に対し、視覚的垂直認知を利用した介入や離床による感覚入力を実施したが、本症例の場合、認知面へのアプローチでは改善効果が乏しいと考えられた。それに対し、腹臥位療法を行うことでPusher現象が改善し介助量軽減を認めた。有働らによると、腹臥位療法により、上行性網様体賦活系を介して大脳の各部分が活性化されること。手掌面を下にすることで体性感覚野の広範囲を占める部分が刺激され感覚連合野から運動のプログラミングを司る前頭連合野へ刺激が伝達され自発性が賦活されると報告されている。つまり、腹臥位を実施したことで覚醒と自発性が向上し、視覚的な情報を積極的に利用することができるようになった為、即時的かつ持続的なPusher現象の改善に繋がったのではないかと考えられる。また、腹臥位での腹式呼吸や重力作用に対する体幹・頸部伸筋群の無意識の抗重力作用が働いたことで体幹筋が賦活され座位保持の改善に繋がった可能性も考えられる。今回の経験から、脳卒中急性期においても腹臥位療法により、覚醒や自発性、体幹筋の改善やPusher現象の早期からの治療、さらにADLの改善に繋がる可能性があるのではないかと考える。 【倫理的配慮】症例には本報告の趣旨を十分に説明し同意を得たうえで、当院の研究倫理審査委員会 (承認番号24-0403)を得た。

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© 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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